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2019年9月24日(火)

医療的ケア児 初めての大旅行

「医療的ケア児」は、日常的に人口呼吸や、たんの吸引などのケアが必要な子どもたちで、寝たきりの子も少なくありません。
実は、新生児医療の発達で、生まれた子どもの生存率が上がっている中で、「医療的ケア児」の数は増え続けていて、厚生労働省の研究班の調査で、この10年で2倍近くに増え、およそ1万9000人にのぼっています。
今回、全国各地の医療的ケア児とその家族が、福井市のクリニックの呼びかけで、1泊2日の「東京ディズニーランド」への旅に出かけました。
ふだんは外出もままならない子どもたちの大きな挑戦に密着しました。

“医療的ケア児”初めての大旅行

今回、東京ディズニーランドを目指したのは、全国で8組の医療的ケア児とその親たちです。
全員が、こうした長距離移動は初体験。
はじめて直面する困難を解決しながらの旅です。

福岡県から参加した4歳の桝田葵巧(きった)くんは今回、北九州空港から飛行機で東京を目指します。
脳性まひの障害がある葵巧くんに付き添う父親の悠葵(ゆうき)さんは、機内にも人工呼吸器などの機材を持ち込みました。
しかし、飛行機の離陸による機内の気圧の変化で、呼吸を助ける喉の穴に通されたチューブを固定する風船が膨れあがってしまいました。
つきそいの医療スタッフが、すかさず圧の調整を行い、事なきを得ました。

桝田悠葵さん
「いつもと圧がぜんぜん違った。ごめんねきっちゃん。」

福井県から参加する4歳の岡﨑縁(ゆかり)ちゃん。
母親の美江子さんとともに、小松空港から飛行機に搭乗しました。
縁ちゃんは、心臓に大きな病気を抱えているため、機内でも、常に心臓の動きを強める薬の点滴と、酸素吸入が必要です。
そして、美江子さんは、モニターに表示される酸素濃度を見守り続けます。
それぞれが、リスクを伴いながらの大旅行ですが、親たちには、今回の旅に挑む理由がありました。

岡﨑縁ちゃんは、生まれた時、一般の人には4つある心臓の部屋が3つしかありませんでした。
医師からは、いつ亡くなるか分からないと告げられ、母親の美江子さんは、つきっきりで在宅での介護にあたってきました。

しかし、次第に、病気のためとはいえ、家の中にいてばかりの生活でいいのかと考え始めた美江子さん。
少しずつ、縁ちゃんを外に連れ出すようになりました。

岡﨑美江子さん
「周りの人の中には、そんな体力使うようなことして大丈夫なのって、思う方もたぶんいると思うんですけど、いろんな人と触れあったほうがこの子は豊かに成長していけるのは間違いないので、どんどん外に出してあげたい。」

この旅を呼びかけ、サポートを行うのは、福井市の在宅専門クリニックの医師、紅谷浩之さんです。

医療的ケア児の外出をサポートする今回のような試みを6年続けてきた紅谷さん。
周りのサポートで思い切って外に出て行くことで子どもたちは大きく成長すると考えています。

オレンジホームケアクリニック 紅谷浩之さん
「一つも経験したことないことを始めて、一個目を経験する瞬間がすごく大事で、その経験の積み重ねで、次の選択肢が生まれてきます。
医療的ケア児が、出会いやつながりを得て、本当にはっきりと成長していく様子が必ず見られると思います。」

紅谷さんの取り組みでは、旅をする家族に毎回必ず、医療スタッフがつきそいます。
このスタッフが、旅に必要な機材などのアドバイスを行い、事前計画を立てます。
道中も、このスタッフが常に、不測の事態に備えます。
ディズニーランドには、2歳から13歳までの子どもとその親、8組がすべて無事到着。
旅の計画をサポートしてきた紅谷さんが、あいさつを行いました。

オレンジホームケアクリニック 紅谷浩之さん
「今日はみなさん、遠いところ、このプロジェクトに参加してくださってありがとうございます。」

そして、8組の親子は、それぞれが思い思いのアトラクションへ。
ミッキーやミニーも子どもたちを歓迎します。
自宅や病院が中心の生活を送ってきた子どもたちにとって、初めての体験の連続です。

福井から参加の縁ちゃんは、あまりに日常と違う驚きからか、しじゅう泣き顔でした。
しかし、母親の美江子さんは、こうした体験が成長につながってほしいと願い続けていました。
旅行から1週間後、岡﨑さんのもとを訪ねると、縁ちゃんに大きな変化がありました。

旅行前には、ほとんど声を出さなかった縁ちゃんが、声を出すようになったのです。
また、笑顔が増えて、外出に誘うしぐさを見せるようになりました。
美江子さんは、今回の旅が、縁ちゃんの可能性を開いたと考えています。

岡﨑美江子さん
「自分の中でも、この経験があったから、これからやることに勇気が出たり、次もきっと乗り越えられるんだろうと考えられるようになっていくと思います。」

旅のあと親たちに話を聞いたところ、子どもたちの変化について、「旅行から帰ったあと表情が豊かになった。」、「ディズニーランドの映像を見せると関心がある様子でじっと見たりする。」といった声が聞かれました。
また、多くの親が、「今後の生活へ向けて自信がついた。」と答えました。
今後、こうした取り組みが広がっていくために必要なのは、医療的ケア児のことを、社会全体が、まずよく知ることです。
例えば今回、航空会社の中には当初は「受け入れは難しい。」としていたものの必要な対応について家族から詳しく聞き、受け入れを決めた会社もありました。
こうしたことが、あらゆる現場で起こりえます。
また、今回の旅費の一部は、インターネットのクラウドファンディングで集まった寄付金で賄われましたが、こうした形で私たち自身も支援することができます。
病気や障害の有無に関わらず、子どもたちが外に出て人と交流し、成長できる環境を作っていくためにそれぞれの立場で考えていければいいのではないでしょうか。

取材:丹羽由香(NHK福井)

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