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2019年9月11日(水)

“命を守るために” 教職員たちの模索

東日本大震災の発生から、きょう(11日)で8年半。
震災では、多くの子どもたちの命が津波などで失われました。
災害が起きたときに、子どもの命をどう守っていくのか、全国の教育現場が課題に直面しています。
大きなきっかけとなったのが、被災地で最も多くの児童が犠牲となった、宮城県石巻市の大川小学校。
この学校をめぐる裁判で、仙台高等裁判所は去年(2018年)、学校の防災マニュアルの不備を厳しく指摘。
教員は地域住民より、はるかに高い防災の知識や経験が必要だとしました。
全国の学校で防災力の向上が求められるなか、教職員たちは模索を続けています。

被災地で学ぶ「学校防災」

宮城教育大学が防災力を高めようと、ことし(2019年)初めて開いた研修プログラム。
全国各地から20人余りの教職員が参加しました。
訪れたのは、児童74人が津波の犠牲となった大川小学校。
この学校で次女を亡くした佐藤敏郎(さとう・としろう)さんが教職員たちに、失われた命の意味を語りました。

大川小学校で次女を亡くした 佐藤敏郎さん
「ここはとても悲しいことが起きてしまった場所です。
かわいそうな場所とも言われます。
でも未来をひらくことが、1個でも2個でも1ミリでも生み出せたらなと思っています。」

当時、大川小学校の防災マニュアルでは、津波の際の避難場所を『空き地』や『公園』としていましたが、実際には存在していませんでした。
学校の近くには山や高台がありましたが、児童たちはそこに避難することはなく、津波にのみ込まれました。
裁判では、こうしたマニュアルのずさんさが厳しく指摘されました。
中学校の元教員でもある佐藤さんは、事前の備えと教職員の適切な判断があれば救えた命だったと訴えました。

佐藤敏郎さん
「命を救うのは山ではなく、山に登るという判断や行動です。
先生達は何をやっていたんだ、救うことができたのは先生だとという思いはあります。
もちろん、責任も先生にはあると思います。
でも先生たちも救いたかった、ということにもしっかり向き合いたいと思います。」

子どもの命を守る責任。
参加者たちは、その意識を見直す必要性を感じていました。

参加した教職員
「1校でも大川小学校と同じような悲しい出来事を作ってはだめだと思うんです。」

「自分たちも命を守りながらいろいろな学習をしていますが、子どものためじゃないのでは、というときがやっぱりあると思う。」

研修では、徹底した備えが多くの児童の命を救った現場も訪ねました。
校舎が屋上まで津波に襲われるなか、学校にいた児童91人をいち早く高台に避難させた宮城県南三陸町の小学校。
出迎えたのは、震災のとき校長だった、麻生川敦(あそかわ・あつし)さん。
当時、マニュアルで決めていた津波からの避難先は校舎の屋上と、400メートル離れた高台の2か所。
麻生川さんは地震の揺れから、高台への避難をすぐに決断しました。
麻生川さんは命を確実に救えるマニュアルにしようと、常日頃から教職員が話し合っていたからこそ、児童の命を守れたと強調しました。

戸倉小学校 元校長 麻生川敦さん
「1年、2年と時間をかけて協議をしていなかったら、私は迷わず屋上に行ったと思います。
知識を自分で判断して行動に移せるようにしないと。
そうではない防災の知識はやっぱり役に立たないと思います。」

備えは万全か? 研修後にマニュアル再検討

研修最終日に行われたグループ討議。
災害への備えが万全か、不安を口にする教員がいました。
その1人が、高知市の小学校で教頭を務める下坂美和(しもさか・みわ)さん。

高知市立横浜小学校 教頭 下坂美和さん
「防災マニュアルはあります。
避難訓練もやってます。
けれども、本当にこれで命は守れるのか。」

近い将来、発生が懸念される「南海トラフ巨大地震」で、最大16メートルの津波が想定される高知市。
下坂さんの小学校は、海からわずか50メートルしか離れていません。
下坂さんは日頃から防災教育に力を入れてきましたが、被災地での研修に参加後、もう一度、備えを見直すことにしました。

その一つが、防災マニュアルの見直し。
これまで、津波の際の避難場所は校舎の3階としていました。

高知市立横浜小学校 教頭 下坂美和さん
「津波がもし高かった場合、校舎の3階ではもう逃げる余地がない。
校舎のみというところが、ちょっと気になって。」

下坂さんは、別の場所もマニュアルに盛り込もうと、地域住民の避難場所である周辺の高台を見に行きましたが、全校児童の3分の1が避難できるかどうかという、想像以上の狭さでした。

高知市立横浜小学校 教頭 下坂美和さん
「ちょっと全校児童の避難は無理です。
保育園の園児たちも、多分ここに避難するので。」

一方で、広い高台を目指せば徒歩20分以上かかり、避難が間に合うのか課題も浮かび上がりました。
学校に帰った下坂さんはすぐに防災担当の教員を集め、避難場所を練り直しました。

検討の結果、低学年の児童は近くにある地域住民の指定避難場所に。
また、素早く移動できる高学年は遠い高台に避難する選択肢を盛り込みました。
しかし、マニュアルが複雑になるほど、教員の理解度が問われることになります。
防災の意識をどのように高めていくのか。
教職員一人ひとりが問われていると、下坂さんは感じています。

高知市立横浜小学校 教頭 下坂美和さん
「教員に必要なのは、私個人の考えとしては、子どもの命をどのように守るか、ということです。
そのためには覚悟が必要です。
その覚悟を持つためには、日頃からの準備を持つことが必要だと思います。」

教員間での防災教育の「温度差」

再び悲劇を繰り返さないために、事前の備え、しっかりとした防災マニュアルが必要です。
しかし、全国のおよそ9割の学校でマニュアル自体は整備しているものの、災害から確実に子どもの命を守れるのか、内容が精査されていないものも少なくないといいます。
高知市の小学校のように、改めて見直すという姿勢が求められています。

一方で、いまの教育現場は多忙だというのも実情です。
実際に、 NHKが岩手、福島、宮城3県の自治体を対象にしたアンケートでも、およそ3割の市町村が、「教職員が多忙で、防災マニュアルなどを浸透させたり研修を行ったりする時間がない」と回答しています。
こうした現状について、学校の危機管理にくわしい専門家はこう指摘します。

学校の危機管理に詳しい 東京学芸大学 渡邉正樹教授
「学校だけで防災力を高めるのは限界があり、行政や専門知識を持つ機関がサポートすべきだ。
その上で、教職員自身も子どもの命を守ることを最優先と考えて業務を進める必要がある。」

災害はいつどこで起きるか分かりません。
教育現場には命を守る取り組みを、着実に積み重ねていって欲しいと、取材を通じて感じました。

取材:平山真希記者(NHK仙台)

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