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2019年9月3日(火)

“海の物流”  存続の危機も

平均月収47万円。
それでも深刻な人手不足に陥っている業界があるんです。
それは「内航船」。
国内で貨物船などを運航する海運業です。
運んでいるのは野菜や牛乳などの食料品や、発電に使われる石炭や石油などです。
内航船というと聞き慣れませんが、実は私たちの生活に密接に関わっているのです。
しかし、この内航船の業界は高齢化が進んで船員が足りなくなり、存続すら危ぶまれています。

切れ間無い勤務… 内航船の仕事に密着

今回、特別に貨物船「雄山丸」に乗船させてもらい、取材しました。

この日は製鉄所で使う石灰石2,500トンを和歌山市まで運びます。
船の乗組員は5人。
1人を除き、すべて60代です。
最年長は、船長の堀之内己年さん、66歳。
50年近く船に乗っていますが、内航船の仕事は、いまの若者には厳しいのではと感じています。

午後5時前に出港。
沖に出るまでの事故が起きやすい時間帯は船長がかじを握ります。
出港から1時間。
安全が確認できたところで休憩に入りました。
実はこの日は早朝から働いていました。

堀之内さんのスケジュールです。
赤色が仕事で、青色が休憩の時間です。
前回の航海を終え、高知港に入ったのが午前10時半。
午後1時半、短い休みを挟んですぐに今回の荷物を積み始めます。
食事や入浴、仮眠もとれる、まとまった休息は限られています。
午前0時半、僅かな仮眠をへて再び当直に戻った堀之内さん。
最も気を使う業務に当たります。

深夜でも多くの船が往来。
レーダーには、10隻以上の船が映っていました。
暗闇に浮かぶ、かすかな光を頼りに、かじをとります。
一瞬たりとも気が抜けません。

雄山丸船長 堀之内巳年さん
「近いなと思ってもレーダーで見てみたら遠かったりする。
結構、距離感がね…。」

午前4時、和歌山市の港に到着。
ようやく、緊張が解けました。
夜明けから荷物を降ろしはじめ、再び次の目的地へ向かいます。
切れ間無く続く内航船の仕事。
休日のない生活がなんと3か月も連続して続くといいます。

雄山丸船長 堀之内巳年さん
「70歳ぐらいが(船乗りを続ける)限度かなと思っていますけど。
若い人は続かないんだろうね。
残念ですけど、こればっかりはなんとも言えないですね。」

船員不足で今後の見通しに不安も

堀之内さんが勤める愛媛県の海運会社では、積極的に若者を採用しているものの、その多くが厳しい労働環境からすぐに辞めてしまうといいます。

正和汽船 瀬野和博社長
「半年くらいでもうやめたいという感じで。
ものにならなかったというような事例が大半。」

その結果、社員の7割近くが60歳以上。
船員の確保が難しくなるなか、会社は去年、船を1隻手放しました。
この先、人手不足を解消できなければ、事業そのものが立ちゆかなくなると危惧しています。

正和汽船 瀬野和博社長
「人生の最後の方の人に頼るような環境になっている乗組員の構成が、自分の事業をどうつなげていくか不安です。
若い子入れなくちゃ。」

船ならではの特殊な勤務

こうした勤務は、この会社に限ったことではありません。
ほとんどの会社が「3か月働いて1か月休む」という特殊な勤務形態になっています。
船員は「船員法」という特殊な法律で管理されているので法律違反ではなく、効率よく全国の港を回るため、船員の乗船期間が長くなっていて、いわば「業界の慣習」となっています。
さらに、外国人船員は安全保障などの理由から内航船では働けない制度になっています。
こうしたこともあって、内航船の船員の数は25年前の半分と激減しています。
働き方を抜本的に変えるには、運送料金の値上げの検討など、発注する側の企業も巻き込んだ議論が必要で、一企業の努力だけでは難しい実情があります。

このため、国はことし(2019年)6月、委員会を設置し、「特殊な船員の働き方」や30年間値上げされていないという「運送料金のあり方」など、事業環境の根本から改善していこうという議論がまさに現在、行われています。
さらに国だけではなく、業界も動きだしていて、何とか若い人を呼び込もうという取り組みもはじまっています。

手厚い指導で若者を呼び込め

広島県尾道市では、ほかの業種から若者を呼び込もうと、民間の海運会社が共同で船員の資格取得をサポートする教育施設を設立しました。

最大の特徴は1か月間の乗船実習です。
1つの船に乗船する受講生は1人。
航海機器の操作方法や設備のメンテナンス、そして、手早く料理するコツまでベテランの船員たちが手取り足取り教えます。
さらに、航海中は生活費がかからない事に加え、初任給の平均が35万円などの待遇面や、1か月連続して取れる休暇の長さなど内航船の魅力も伝えていました。

実習生
「食事も自分からお金を出すことはないので恵まれた環境だと思う。
私のこと気を遣っていろいろ教えてくれたので、それに見合った働きが出来るような一人前の船員になりたいです。」

この施設からは毎年100人ほどが内航船員に転職し、8割以上が辞めずに働くなど一定の効果が出ています。
業界の慣習を抜本的に見直そうという国の議論はまだ始まったばかりです。
3か月連続の特殊な勤務の改善や、本当に運送料金を値上げすることができるのか。
私たちの生活にも影響がある問題だけに、さらなる対策が期待されます。

取材:浅川雄喜記者(社会部)・ 高秀侑ディレクター(おはよう日本)

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