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2019年8月29日(木)

大林宣彦監督 がんと闘い“戦争”を撮る

映画監督、大林宣彦さん、81歳。
大林監督といいますと、1983年に公開された「時をかける少女」を覚えている方もいらっしゃるかもしれません。
一連の青春映画が大人気となり、日本を代表する映画監督と呼ばれるまでになりました。
ところが近年、大林監督が取り組み続けているのは、「戦争」をテーマにした映画です。
実は、大林監督は、3年前、がんと診断され、余命の宣告を受けました。
まさに今、命を削りながら、戦争映画の制作に取り組んでいます。
大林監督の映画制作に密着しました。

大林監督ががんと診断され1年がたった頃、私たちは、取材を始めました。
近所の公園の散歩していた大林さんは、足元の雑草を見ながら、心境を聞かせてくれました。

映画監督 大林宣彦さん
「これは僕たちは草だと認識してるんだけど、命に見えてきたのね。
みんな命なんですよね。
当たり前のことだけど。」

大林監督の最新作、『Labyrinth of Cinema=海辺の映画館 キネマの玉手箱』は、映画館にいた現代の若者3人が突然、戦争の時代に引きずり込まれるという、大林監督得意のエンターテインメント映画です。
主人公たちは、明治から昭和の戦争を駆け抜け、最後は人々を原爆の被害から救おうとあがきます。

大林監督がこの映画に取り組んだ背景には、幼少期からの思いがありました。
昭和13年、広島県尾道市で生まれた大林宣彦さん。
7歳の時、原爆の投下。
そして、終戦を迎えます。
このころ、進駐軍が来てみんなが殺されるという噂が立ち、母親と心中することも覚悟したといいます。

映画監督 大林宣彦さん
「国破れれば命はないわけですよね。
だから当然母親と2人で自決も考えて。
いつの間にかまた戦争が起きてしまうという危機感が今の僕たちにはいっぱいあるわけで。
『もう二度と戦争なんか嫌だ』とね。
死ねないんです、そういうことをちゃんと伝えておかないと。」

映画のロケは、去年(2018年)の夏、監督のふるさと・広島県尾道市で始まりました。
大林監督は、この日、台本にはないカットを1つ加えました。
それは、雑草を手に取る、わずか3秒ほどのカット。
そして役者にこう伝えました。

映画監督 大林宣彦さん
「草を慈しみましょう。
戦争なんてバカなことをしちゃいけない。」

細部の表現にこだわり続ける大林監督。
現場で、私たちにこう語ってくれました。

映画監督 大林宣彦さん
「痛みを感じる心を持っている人間は、優しくすることもできるので。
その瞬間が映画になるということですよ。
それがなきゃ映画なんか作れない。」

今年(2019年)6月、大林監督は、妻でプロデューサーの恭子さんに手を引かれ、都内の編集スタジオにやってきました。
入退院を繰り返す中で、セリフの練り直しの作業を続けていたのです。
現場ですでに収録した役者のセリフにも修正を重ねようとしていました。

主人公たちが、原爆の投下直前、広島行きの汽車の中で、「広島って原爆落ちるのいつだっけ?」「8月6日」と会話を交わすシーンでは、「8月6日」というセリフに手を加えました。
大林監督は、「それは、この8月の6日」と読んでくださいと役者に伝え、「ぞっとしますね」とつぶやきました。
若い世代は、広島に原爆が落とされた日も知らないのではないかと、8月6日という日を少しでも印象づけようとしていたのです。
こうした一つ一つの言葉にこだわり抜き、スタジオでの作業にいつもの3倍以上の時間をかけました。

映画監督 大林宣彦さん
「映画の中の言葉はすべてよく理解できるように、気持ちが誘われていくように演出をしなきゃいけないので、やってみては直していくということで、進めているわけです。」

監督のこの徹底したこだわりについて、妻でプロデューサーの大林恭子さんは次のように語りました。

妻(映画プロデューサー) 大林恭子さん
「どう伝えたら伝わりやすいかとか、伝えておかなきゃいけないと思っていることとか、とにかく残さず、やりたいんじゃないかしら。
この映画は、監督にとって遺作というか遺言です。」

3年にわたり、がんと闘い、制作を続けた大林監督は、たどりついた境地を最後のナレーションに加えました。

「宇宙もまた同じ命の仲間。
人間も一つの小さな命として仲間になれば宇宙は平和です。」

今月(8月)、大林監督は、関係者向けに行われた試写会に赴きました。
出席者に向けて語ったのは、映画の限りない可能性でした。

映画監督 大林宣彦さん
「皆さん、今、世界は映画を本当に必要としております。
映画で戦争の過去の歴史を変えることはできないが、未来の平和をたぐり寄せる力は映画にはあるんだよ。」

大林監督の最新作「Labyrinth of Cinema=海辺の映画館 キネマの玉手箱」は、10月の東京国際映画祭と11月の広島国際映画祭で上映されたあと、戦後75年にあたる来年(2020年)の春以降、全国の劇場で公開される予定です。

報告:川﨑敬也(映像センター)

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