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2019年8月23日(金)

ハワイ 広がる抗議デモ 背景になにが

日本人にも人気の観光地ハワイ。
この夏休み、訪れた方もいるのではないでしょうか。
中心地・ホノルルなどでは、連日のように大規模なデモが起きています。
参加者が主張するのは、先住民が“聖地”とあがめる山・マウナケアを守ること。
この活動には、ハワイ出身の歌手ブルーノ・マーズさんや、俳優のレオナルド・ディカプリオさんらも支持を表明。
運動が急速に広がっています。
ハワイでいったい何が起きているのでしょうか。

ハワイで最も大きな島、ハワイ島の最高峰・マウナケア。
標高4,205メートルの山頂には、各国が建てた13の望遠鏡が並びます。
晴れた日が多く、大気の揺らぎが少ないことから、世界で最も天体観測に適した場所の1つと言われています。
多くの人々が天体観測に訪れる、ハワイ有数の観光地です。

ところが、この山に向かう道は、1か月以上閉ざされたままです。
新たな施設の建設を阻止しようと、市民たちが封鎖しているのです。
これまで30人以上が逮捕され、一時はハワイ州政府が緊急事態宣言を出す事態に陥りました。

議論となっているのは、次世代望遠鏡・TMT。
先月(7月)、工事が始まる予定でした。
既存の望遠鏡をはるかにしのぐ、口径30メートルの巨大な望遠鏡が建設される目的の1つは「第2の地球」を探すことです。
太陽系の外にある惑星に、酸素や水などが存在しているか探ろうというのです。
日本やアメリカなど5か国が共同で、およそ15年前から進めてきた国際プロジェクト。
建設費用は1,800億円になります。

国立天文台TMT推進室長・臼田知史さんは、「地球の外で生命が誕生するのか調べることができるかも知れない。そうすると地球上でどうやって生命が誕生してきたのかっていう謎の解明に役立つ」と指摘します。
地元自治体も、計画を積極的に後押ししてきました。
新たに建設される巨大望遠鏡は、地元経済への大きな波及効果が見込まれるからです。
ハワイ島の行政を担うハワイ郡ハリー・キム郡長は、「TMT建設をうまく進められれば、ハワイ経済の大きな弾みとなる。」とTMT建設に期待を寄せています。

TMTの建設の反対運動を主導するのは、ハワイの先住民らです。
リーダーの1人、ケクヒ・ケアリイカナカオレさん、52歳です。
マウナケアは、自然を崇拝する先住民にとって何よりも大切な場所だと言います。
ケクヒさんたちが、抗議活動の場で毎日行っているのは伝統の儀式。
踊りや祈りを通して、自然と一体になるのだと言います。
先住民にとって、神々や先祖であり、自分自身でもあるというマウナケア。
その山が意に反して開発されていることに、先住民たちは怒っているのです。

既に多くの望遠鏡が建ち並ぶマウナケア。
先住民たちは、これまでも、山頂にある施設を複雑な思いで見つめてきました。
一体なぜ今回、反対運動が高まっているのでしょうか。
背景にあるのが「若い世代」の意識の変化です。
先住民の文化を大切にしようという若者が増えています。
ハワイではかつて、ハワイ語が禁止されていた時代もありましたが、この30年でハワイ語を教える学校が増加。
一時は、ほとんどいなかったハワイ語を話す人は、今では1万人を超えています。

若者たちの間で先住民文化が根づくにつれて、マウナケアを守りたいという気持ちが育っているのです。
若い世代は活動の様子をSNSで拡散。
抗議活動は一気に広がりました。
ハワイ出身の有名歌手や、若者らに影響力をもつ著名人たちもデモに参加するなどして、抗議活動の支持を次々と表明しています。
抗議活動の広がりを受け、先月TMTの建設開始は先送りされることになりました。
着工を目前にしての計画変更に、関係者は戸惑いを感じています。
これまでも地元の学校やコミュニティーで、TMTの重要性を説明し、計画への理解に手応えを感じていたからです。

国立天文台TMT推進室長・臼田知史さんは「地元とは、いい関係っていうのは築けてきたと考えてはいたんですけれども、正直にいうと、今回あそこまで大規模に反対が起こってしまったということは、残念でしかたない。」と言います。

今もなお続く、抗議活動。
参加者が求めているのは、建設の「先送り」でなく「中止」です。
科学を発展させる望遠鏡の建設と、先住民の文化の尊重。
その両方を共存させることはできるのか。
模索が続いています。

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