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2019年8月20日(火)

“18歳のアトム”に託す 若者への思い

21世紀を舞台に、9歳のロボット「アトム」が人間を守るために戦う「鉄腕アトム」。
漫画家・手塚治虫さんの代表作です。
実は今年(2019年)、そのアトムの9年後を描いた「18歳のアトム」という絵本が出版されました。

表紙は、暗闇の中、歯を食いしばり、何かを訴えるかのように目を見開くアトム。
絵本にはこうしたアトムが独特のタッチで描かれています。
描いたのは、北九州市在住の世界的なイラストレーター・黒田征太郎さんです。
黒田さんは、18歳のアトムに次の時代を担う若者への思いを託しています。

イラストレーター黒田征太郎さんが描く“18歳のアトム”

今年80歳を迎えた黒田征太郎さん。
日本中に夢と希望を与えた「アトム」が18歳に成長したときに、今の時代をどう生きようとしているのかを描きました。

イラストレーター 黒田征太郎さん
「アトムというのは手塚治虫さんの読者に対しての謎かけだったんだと思いますね。
あらゆる力を持って縦横無尽に飛び回れるアトムがどうなっていくか。
失礼を承知の上で、僕なりのアトムの行く末を(描いた)。」

アトムが見つめる人間の愚かさ

絵本は冒頭、アトムの独白で始まります。

“人間の世界を守るために戦って…傷ついて…。”

“周りの海は、濁っている。”

“人間たちは苦しそう。”

アトムが見つめる先には、軍服を着た男の姿も。

“人間の脳は、人間を殺してきた。
地球を破壊してきた。”

黒田さんは、今も戦争を繰り返す人間の愚かさをアトムに気付かせます。

イラストレーター 黒田征太郎さん
「人という生き物は残念なことにやっぱり戦争をやめることができないんじゃないかな。」

6歳の時、空襲を経験した黒田さんは、これまで平和の大切さや命の尊さを自らの作品に込めてきました。
その思いを18歳のアトムにも託したのです。

アトムが気付く命の尊さ

絵本の中盤、アトムは争いを繰り返す人間を守ることがむなしくなり、死人のように青白く横たわります。
意識が遠のいていきます。

アトムを救ったのは、生きる喜びにあふれる小さな草花の姿でした。

“命って、美しいなぁ…。”

アトムは、生きることがいかに尊いか、草花たちに気付かされます。

イラストレーター 黒田征太郎さん
「アトムは自分がたった一つの命なんだと思ってしまったんですね。
それまでは、あっちに行け、こっちに行け、こうしてくれとか、他動的に動いていたと思うんですよ。
そうじゃないんだ、僕は僕の意思で動いてもいいんだと。」

人間として自問自答するアトム

絵本の終盤、ロボットだったアトムは突然、人間に生まれ変わります。
体温のぬくもりや血液の流れる音、そして息が吸えること。
人間としての喜びをかみしめます。
しかし、ロボットの時に持っていた強力な力は失いました。
絵本は、人として自問自答するアトムのことばで締めくくられています。

“ぼくは、人間に生まれかわったんだ!”

“ぼくも、無数の〈命〉の一つに…!”

“前のようなことはできなくなる。
これからどうすればいいのだろう…。”

今の時代をどう生きるか 若者への問いかけ

今月(8月)、都内で「18歳のアトム」の読書会が開かれました。
絵本に込められた黒田さんの思いは戦争やアトムを知らない若い世代にも共感を呼んでいます。

高校3年生(18)
「自分も何か動かなきゃいけないなって。
何かできることがあるのかもしれない。」

高校2年生(16)
「最後のほうに疑問が投げかけられてると思うんですけど、私たち自身に、かけられている疑問だなって思いました。」

高校2年生(16)
「暴力とか武器を使うんじゃなくて、人間の良さである個性とかをちゃんと使って話し合って進んでいってね、みたいな印象を持ちました。」

平和の意味や命とは何かを「18歳のアトム」に託した黒田征太郎さん。
今の時代をどう生きるのか、若い世代に問いかけています。

イラストレーター 黒田征太郎さん
「どうすんの!せっかく生まれてきたんじゃない。
たった一回だよ。
生きているということが素直に喜べて、生きているということを真剣に考えることができたら、殺すことはないですよね。
もうちょっと、やっぱり、考えないと、さみしいですよね。」

黒田さんはこれまで、作品に込めた思いは見てくれた人が感じ取ってほしいと、自らの口で語ることはほとんどありませんでした。
しかし、戦争を体験した人が少なくなる今、自らの言葉で若い世代に命の尊さを訴えたいと考えるようになったといいます。
黒田さんは絵本にとどまらず、今「18歳のアトム」のアニメを制作しています。
今年秋の完成を目指していて、完成後は、全国各地の学校などで上映会を開き、若い世代と命の尊さについて話し合いたいということです。

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