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2019年8月19日(月)

「個人事業主」の厳しい現実

会社員とは違い、勤務先と雇用契約を結ばずに働く「個人事業主」。
いまや、さまざまな仕事に広がっています。
システムエンジニアやデザイナーのほか、コンビニエンスストアの店長。
最近ですと、空いた時間をうまく使って、飲食店の従業員に代わって料理を宅配する人たちにも「個人事業主」は数多くいます。
会社側にすると、必要な時に必要な仕事をお願いできる、というメリットがありますし、個人事業主側からすると、勤務時間に縛られることなく自分の能力をいかして報酬につなげていける、というメリットがあります。
しかし一方で、個人事業主には決してメリットだけではない、厳しい現実があるんです。

自由な裁量のはずが… 苦しむ「個人事業主」

美容師のAさんは去年(2018年)、正社員として勤務していた美容室で、みずからの技術を高く売りたいと、「個人事業主」として会社と契約し直しました。

Aさん
「前は社員で働いていて保障があって、それに対して仕事の時間とか労働時間がしっかりしていてよかったんですけど、その分、賃金が少ない。
だから委託業務にして稼げますよ、というのをけっこう教えてもらっていて。」

個人事業主になれば、自分の裁量で仕事ができると思っていたAさん。
しかし、実際は違っていました。
まずは勤務時間。
他の社員と同じ朝9時の出勤を求められ、断ることが出来ませんでした。
そして料金。
当初は一人当たり、カットとシャンプーで5,000円でしたが、ライバル店が値下げすると、会社はカットのみで2,500円に下げるよう要求。
これも断ることができませんでした。
契約書では、売り上げの40%がAさんに入ると決めていました。
料金を下げたことで、収入が大幅に減ってしまいました。
会社に改善を求めたものの、折り合わず。
いまは別の美容院で働いていますが、「個人事業主」という働き方は、理想とはかけ離れていたといいます。

Aさん
「だんだん、やりたい美容師とかけ離れていく。
自分が苦しくなる、働きづらいなというのはあるかな。」

「個人事業主」で長時間労働が可能に?

首都圏に展開するクリーニング店で働くBさんです。
2年前、パート社員から店長になるとき、個人事業主になりました。
会社からは「店長になるか辞めるか、どちらかを選べ」と告げられたと言います。

Bさん
「いきなりお店に来て、オーナーにするからって話だったんで。
それもすぐ返事をよこせみたいな。
契約書が2つポンと置いてあって、『はんこを押せばいいから』と。」

もともとこのクリーニングチェーンでは、店に社員を派遣し、パートと共に営業する形をとっていました。
ところが2年前、その方針を転換。
社員の代わりにパートなどを店長にし、個人事業主としてそれぞれの店の経営を任せる方式にしたのです。
Bさんは店長になることで、年収460万円を保障されるようになりました。
手取りにすれば月30万円ほど。

Bさん
「だいたい先月は(パート代で)15万円くらいかかっていますね。
だからもう、30万円もらっても(収入は)半分です。」

さらに、「個人事業主」になったことで、働き方にもしわ寄せが。
店では連日、閉店時間の8時が近づいてもお客さんがやってきます。

Bさん
「その時間帯に持ってこられた品物は、当日タグ付けして翌日の朝配送が取りにくるまでには仕上げてなきゃいけないんですね。
(閉店時間に仕事が)終わるわけがないんですよ。」

結局、この日の作業が終わったのは、午後11時近く。
毎月の労働時間は300時間以上にのぼります。
店は正月3が日以外は無休のため、Bさんはずっと働き続けなければいけないこの状況に不安を募らせています。

Bさん
「一番しんどいのは、やっぱり長時間労働と後は休みがないことですね。
だいたい月に休めて4日。
パートの方が全然よかったですよね。」

Bさんは、同じチェーン店の店長たち5人と労働組合を立ち上げました。
現在、サポートを受けながら会社に待遇改善を申し入れています。

Bさんを支援する 日本労働評議会 工藤貴史さん
「目下のところ会社に要求しているのが、ひとつ定休日を設けさせろと。
定休日を設けることによって、パートを使うことを抑えることができるわけです。
それによって店長さんのもとに残るお金も確保できるわけです。」

一方、こうした当事者側の声に対し、会社側の見解は以下です。

▼オーナーになることを打診したところ、それに応じたため契約内容を明らかにした上で業務委託契約を締結するにいたった。
▼メリットがあると判断し、複数店舗を経営したいと申し入れてくるオーナーもいる。
▼今後、改善策について当事者らと話し合っていく。

本来は対等な契約関係ですが、働く場所を提供する会社から変更を申し出られると断るのは難しい面があり、こうしたケースは少なくありません。
また社員の働き方改革を迫られている会社にとって、残業がつかない個人事業主は都合がよい労働力になりがちです。
労働問題に詳しい専門家は、「同じ境遇の人たちと声をあげ、実態を広く知ってもらうことが大事。そうすれば行政などが会社に調査に入る可能性がある」と話しています。

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