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2019年8月11日(日)

北海道 美瑛の丘 “観光公害” どう防ぐか

北海道のほぼ中央に位置する美瑛町。
なだらかな丘の上には、小麦やジャガイモ、豆類など、色とりどりの畑が連なっていて、「パッチワークの丘」と呼ばれています。
この美しい風景を写真に収めようと、人口1万の小さな町に、年間200万人を超える観光客が訪れています。

今、特に増えているのが、アジアなど海外からの観光客です。
しかし、習慣やルールの違いから地元住民との間でトラブルが生じるケースが急増。
こうした状況は「オーバーツーリズム」「観光公害」と呼ばれ、大きな問題となっています。

マナー違反が続出 急増する“観光公害”

取材班が美瑛町に向かうと、道路上に三脚を立てる人や道の真ん中で写真を撮る人など、事故になりかねない危険な場面を相次いで目撃しました。
さらに、パトロールしている地元の観光協会の職員に同行すると立ち入り禁止の看板があるにもかかわらず、農家の私有地の畑に入るなど、次々とマナー違反の観光客に遭遇しました。

SNS映えをねらった、過剰な撮影が横行しているのです。
地元の農家の怒りは限界に達しています。

美瑛町の農家
「畑に入っていったのを注意しても行き過ぎたら、すぐにまた入って撮影する人もいます。
ことばも通じないので何回説明しても説明のしようがないし、言ったあとに嫌な思いにもなります。」

美瑛町観光協会 真保幸雄さん
「外国の人は、畑に入ったらダメだというのがわからないみたいなんです。
パトロールしてもなかなか追いつかない現状ですね。」

観光客に頭を悩ませている農家の1人、大西智貴さんです。

38ヘクタール、東京ドーム8個分の畑で、ジャガイモや小麦などを栽培しています。
撮影スポットのすぐ近くにある大西さんの畑にも、観光客が頻繁に立ち入ってくるそうです。

大西智貴さん
「本当に、ここ2、3年畑に侵入される件数の増え方が半端ないんです。」

大西さんは、観光客が畑に入ることで農作物に病気や害虫が発生してしまうのではないかと不安を抱えています。
北海道内56の市町村で広がっている害虫の「ジャガイモシストセンチュウ」。
根っこから養分を吸い取って枯らします。
収穫量が半減することもあり、1度かかると根絶が難しいとされています。
美瑛町ではまだ被害の報告はないものの、北海道内の別の地域を回った観光客の靴の裏から持ち込まれるのではないかと大西さんは恐れているのです。

大西智貴さん
「病気を持ち込まれたら本当に決定的な事態で、農家側には壊滅的なダメージになります。
収入がなくなったらと思うとすごく怖いですね。」

悩む農家の中には美しい景観に手を入れた人もいます。
たばこの広告で有名になった畑とカラマツの並木の風景。
これを目当てに畑に入る観光客が多いことなどから、去年(2018年)の春、畑の所有者が並木のほとんどを伐採してしまったといいます。

“観光公害”を防げ!始まった新たな対策

こうした事態を防ごうと、いま、町全体で動き始めています。
観光協会などで作る団体は「美瑛観光ルールマナー110番」という新たな仕組みを作りました。

畑に入るなどのマナー違反の様子を、地元の人や観光客にもスマートフォンで撮影してもらい、位置情報などとともに画像をサイトに送ってもらう「通報システム」です。
一般の人たちにもパトロールを担ってもらうねらいです。

取り組みを始めて2か月あまり。
農作業中にもかかわらず畑の中に入って撮影する人たちや、牧草地に乗り入れている車の写真など、徐々に画像や情報が寄せられ始めています。
さらに、これらの写真は、マナー違反を取り締まる際の有力な証拠にもなっています。

写真からバス会社を割り出し、ベトナムの旅行会社のツアーであることを突き止めました。
これをもとに、日本の代理店を通じて本国の旅行会社に注意を促したのです。

丘のまちびえいDMO 佐竹正範さん
「注意を促すことまでできたのは、情報提供をしていただいた成果だと思っています。」

一方、あえて畑に入ってもらうことで、観光客にマナーの必要性を感じてもらう取り組みも始まっています。

畑をめぐる体験プログラムです。
農家から特別に許可を得て、畑の敷地に入ってガイドが案内します。
また、敷地へは靴の底を消毒してから入ります。
この日は、韓国からの留学生が参加しました。
ふだん旅行者は入れない、農家しか知らない絶景ポイントを紹介し、写真撮影を堪能してもらいます。
途中、ガイドが害虫の怖さなど無断で畑に立ち入るリスクも伝えます。
ホームページやポスターでPRを行っていて、ことし(2019年)はすでに30人以上が参加しています。

韓国人の参加者
「勝手に入ると本当に迷惑かけちゃう、そんな気持ちになりますね。
こんなきれいな景色を農家さんが努力して作ってくれていて、それをわれわれが見られるというのは本当にありがたいと思います。」

プログラムに協力する農家 大波太郎さん
「日々の苦労や思いをわかってもらえただけでも進歩したような気がします。
この経験を本国に持ち帰ってもらって広めてもらえれば、僕らもありがたいですね。」

“観光公害”防ぐには?

外国人観光客は町の経済への効果が大きいだけに、観光客と住民との間の溝が広がってしまうような事態だけは避けたいところです。
そのためにも大事なのは、いかに観光客に地元の事情を知ってもらうか。
美瑛町では農家みずから乗り出している対策もあります。

こちらは、若手農家のグループが畑と道路の境に設置した看板です。
QRコードにスマートフォンをかざすと畑を所有する農家や作物の情報が見られるようになっていて、親しみをもってもらい、畑の立ち入りをとどまらせようというねらいです。
今後は多言語化して外国人向けに発信したり、一緒に農地を守ろうという意識を持ってもらうため、看板を通じ気軽に募金できるようにしたりする計画です。

今後も外国人観光客が増えると見込まれる中、問題を深刻化させないためには、観光客にはマナーを理解してもらい、地元の住民も観光客を歓迎できるよう「持続可能な観光」の仕組みづくりを進めていく必要があると言えそうです。

旭川放送局:山田裕規記者

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