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2019年8月3日(土)

“アートブロックチェーン” 技術活用しアート市場をよりオープンに

今月(8月)公開の映画、『アートのお値段』。
世界中で加熱するアート市場とお金の関係を描いたドキュメンタリー作品です。
コレクターやギャラリーといった限られた人たちに動かされる、アートビジネスの世界が生々しく描かれています。
こうした閉鎖的なアートの世界をオープンにしようという、ある新たな技術に注目が集まっています。

アート作品の売り買い どうすれば…?

先週、都内で開かれたアート作品のオークションです。
アート作品はこれまで、オークションやギャラリーといった専門的な業者を通じ、一部の限られた買い手に渡るのが主流でした。
この日、出品されたのは、プロの目利きが独自性・希少性などから高い価値があると認めたおよそ250点。
参加したのは、一定の資産があるコレクターやアート市場に精通したディーラーなどが中心です。
予想価格40万円の仏像は、予想の25倍の1,000万円で落札。
所有者が名のある芸術家だったということで、値段が跳ね上がりました。
競売を勝ち抜き、目当ての作品を手に入れるには相応のお金が必要になります。

オークション会社 倉田陽一郎会長
「いわゆる富裕層という方が購入されることになるので、その意味では非常に限られた作家しか扱えないという状況があります。」

アート市場の高い壁には、多くのアーティストも突き当たっています。
東京・四谷の銭湯を改装したアートスタジオ。
既存のアート市場への参入が難しいと感じた若手アーティストが立ち上げました。
作品の制作から、展示・販売までを行っています。

スタジオを立ち上げた黒坂祐さんです。
アーティストとしてキャリアを歩み始めてすぐ、既存のアート市場の閉鎖性を実感したといいます。

アートスタジオ代表 黒坂祐さん
「(アート市場では)さまざまなことが不透明な状態であると思っていて。
アートの価値というのがどのようにつくのか示されていない。」

所属する1人、「人間のヒダ」という独創的なテーマを即興で紙に描く、八木恵梨さんです。
自身の理想を追及する八木さん。
こうした実験的な作品を売る場所は、なかなか見つからないといいます。

アーティスト 八木恵梨さん
「私の作品だと、このくらいの大きさで1万5,000円から2万円ぐらい。
絵はまったく売れていないですね。
いやー、赤字ですね。」

ブロックチェーン活用し アートを安心して売り買い

こうした閉鎖的なアート市場のあり方を、技術の力で変えようという動きが出てきています。
その技術を考案した企業が、東京大学にありました。
この企業では、アート作品を誰でも安心して買える取引システム、「ブロックチェーンネットワーク」を開発しています。

「ブロックチェーン」とは、インターネットを通じて行われる、商取引の記録をネット上に分散して保管できる技術です。
“分散型台帳”とも呼ばれます。
このブロックチェーンをアートの世界に応用すると…。
オークションやギャラリーなどの業者がアーティストの作品を見いだし、買い手に販売するこれまでのやり方から一転、台帳上に登録された作品をアーティストから直接買えることで、買い手にとってアート作品の購入が身近になるだけでなく、台帳を作品の信頼性を保証する証明書として利用できるなど、より安心してアート作品にアクセスできる市場ができると期待されています。

自身も作家活動を行ってきた開発者の施井泰平さん。
アートブロックチェーン考案のきっかけは、優れたアーティストが世に見いだされず埋もれてしまう現状への不満だったといいます。

施井泰平さん
「インターネットのダイナミズムの、高校生が作ったものが世界的に“バズる”みたいなことが、あまりアートの中で起こりにくい構造になっていて、それは多分、今の時代のインフラが整っていないせいではと思ったんです。」

新たなテクノロジーが生まれ、アートに革新が起きている時代に、有望なアーティストの芽を摘みたくなかったと施井さんは語ります。

施井泰平さん
「少しでも生き残りを増やす、少しでも世界的なトッププレイヤーとかアートに寄与するような天才アーティストを生む確率を増やす。
そういう発想かもしれないですね。」

黒坂さんも、ブロックチェーンを活用した取引システムに作品を登録し、これまでに20点あまりを販売することができました。
さらに販売後も、自分の作品が世の中でどのように評価されているのかが、ブロックチェーンを使えば追跡可能になります。
例えば、販売した作品が数年後、名のあるコレクターや美術館に所有され価値を認められれば、作者の励みになるといいます。

アートスタジオ代表 黒坂祐さん
「(作品が)二次販売されて、成長していくというか、巣立っていくというかたちは、作品の証明書がないと保証されない。
本当に欲しかったツールかもしれない。」

一方、アートブロックチェーンの広まり方に注意を喚起する専門家もいます。
アートは完全に開かれた市場とはなじまないのでは、という指摘です。

横浜美術大学 宮津大輔教授
「500年前や300年前の作品をわれわれが今楽しめるのは、個人のコレクター達がバトンを渡してきたから今があるわけで、それをすべて民主的であるべきだと考えると、なかなか新しいアートを次世代に残していくことはできなくなってくるので、要はバランスの問題だと私は思っています。」

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