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2019年8月2日(金)

障害あるわが子のために… “親なきあと相談室”

自分の死後、子どもは一人で生きていけるのか。
多くの親が抱く不安ですが、障害がある子の親にとってはなおさらです。
統計によると、障害の種類に関わらず、障害がある人のほとんどは自宅で生活しています。
障害がある人の生活を支える仕組みは整えられつつありますが、まだ現状では親に大きな負担がのしかかっています。
その親が亡くなった後、障害があるわが子はどうなってしまうのか。

障害があるわが子 誰が支える?

都内で開かれた知的障害や発達障害、精神障害の子を持つ親の勉強会。
参加した人の多くが子どもが一人になってからのお金のこと、住まいのことに不安を感じていました。

参加者
「将来に向けて心配なことだらけです。」

参加者
「一人になって孤独死しないか心配。」

会場に集まった、親に対して、行政書士・社会保険労務士の渡部伸さんは、親が子どものことを全部抱え込んでしまうケースが多いため福祉や行政の支援をうまく使うように訴えました。

行政書士・社会保険労務士 渡部伸さん
「できればギリギリまで子どもの面倒を見たいっていう親御さんは多いです。
でも、気持ちはよく分かりますが、ギリギリっていつですか?」

渡部さん自身も、知的障害がある娘の父親です。
親亡き後の準備を進めようとしたとき、どこに相談すればよいのか分からず戸惑った経験があります。

行政書士・社会保険労務士 渡部伸さん
「住まいのことなら住まいの相談窓口、お金の相談はお金の窓口、全部バラバラで困りました。
一か所で全部解決できる窓口があったほうが、親は助かると感じました。」

相談する場所もなく、親が全て抱え込む現状を何とかしたい。
渡部さんは、「親なきあと相談室」を開きます。
相談室では、福祉サービスやお金の残し方など、多岐にわたる悩みを聞き、適切な専門機関に橋渡しするのです。

障害があるわが子 “今やるべきこと”は?

相談室を訪れる親の多くは、将来のことを心配して、「今すぐあれもこれもやらなければ」と、焦っている人が多いと言います。
知的障害がある23歳の息子の母親、田中さん(仮名)も、そんな1人でした。
田中さんは、親亡き後に備えようと、たくさんの資料は集めたものの何から手をつければいいのか分からず、途方に暮れていたと言います。

知的障害のある息子の母親 田中さん(仮名・58)
「これも必要、あれも必要と、気ばかり焦ってもやもやしたような気持ちを、相談室で伝えて、どうしたらいいのかと聞きました。」

渡部さんは、田中さんの「やるべきこと」に「優先順位」をつけてくれました。

今すぐやるべきことは、福祉サービスを受けるために必要な認定をとっておく。
これから準備すべきことは、将来、施設でも暮らせるように、自宅以外での宿泊に慣れさせる。
後で考えればいいことは、お金の問題、と整理してくれたのです。
何もかも、急いでやらなくては、とパニックになっていた田中さんの気持ちは、次第に安らいだと言います。

障害があるわが子に“お金”の残し方

相談の中でも深刻なのは、「お金の残し方」です。
知的障害がある20代の娘の両親が相談室にやってきました。
障害が軽度なため、ある程度、自分で判断できるため、かえって浪費が心配だと言います。
過去にも有料のアプリを使い、高額の請求が来たことがありました。
夫婦は自分たちの死後、お金をどう残せばいいのか、という相談でした。

渡部さんが夫婦に紹介したのは『生命保険信託』です。
親の死後、保険会社から生命保険の保険金が、まず銀行に支払われます。
銀行は、子どもに対して定期的に決まった額だけ振り込む仕組みです。
この方法なら、お金の使いすぎを防ぐことができます。

保険や金融、福祉サービスなど多岐にわたる相談に応じる「親なきあと相談室」に、多くの相談が寄せられています。
困っている親の多さを実感した渡部さんは、行政書士などに協力を呼びかけ、現在、相談室を全国55か所にまで増やしました。

親なきあと相談室 渡部伸さん
「親だけで全部やろうなんて思わない方がいいと思います。
わからないことは誰かに聞く。
その誰かを捕まえてほしいと思います。」

障害のあるわが子を“地域”に託す

多くの親の相談に乗る中で、渡部さんが、最も大切にしていることがあります。
それは、親亡き後、子どもを託す地域の人々とつながりを作るということです。
去年(2018年)相談に訪れた、自閉症の息子をもつ山本さん(仮名)は、渡部さんのアドバイスを受け、地域の顔見知りを増やそうと、息子と一緒に積極的に外に出て行くようにしています。
親なき後、障害があるわが子が地域で暮らしていくには、普段から見守り、異常があったときに行政や福祉の窓口につないでくれる近所の人の協力が欠かせません。
親が元気なうちに、お金を残すよりも、地域の人との接点を増やすことが重要だと渡部さんは強調します。

渡部さんがもう一つ勧めているのが、ふだんから障害がある子どもの性格、配慮が必要なことなどを、細かく記録しておくことです。
将来、福祉サービスを受ける際、支援してくれる人に参考にしてもらいます。
山本さん(仮名)は、ノートに「赤ちゃんの泣き声や、人の怒ってる声が苦手」と書きました。
いつか自分がこの世を去った後、息子の世話をしてくれる人へのいわば「引継ぎノート」です。
こうした準備を進めていくうちに山本さんは、親だけで見守るより多くの人に助けてもらうほうが、わが子の人生が豊かになると感じるようになったと言います。

自閉症の息子の母親 山本さん(仮名・57)
「親という、太い一本じゃなくて、何本も頼れる先を作っておくことが、その子にとっての自立につながっていくと思います。
これからも積極的につながりを強めていきたいです。」

「親なきあと相談室」を創設し、行政書士・社会保険労務士でもある渡部伸さんは、今の制度をうまく使いこなせば、どんなケースでもなんとかなる、と考えています。

親なきあと相談室 渡部伸さん
「つながりをたくさん持っていることで、自分ができなかったことは『あとはよろしく』っていうふうに託せるわけです。
あとはなんとかなるよねって、多くの親御さんが思ってくれればいいなと思っています。」

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