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2019年7月31日(水)

“戦争の記憶を伝える” 俳優たちの日々

「キャッツ」や「ライオンキング」など、劇団四季が上演してきた数々の名作ミュージカルの演出を手がけた浅利慶太さんは、去年(2018年)7月、85歳で亡くなりました。
先週始まった追悼公演で上演されているのは「李香蘭」という、戦争をテーマにしたミュージカルです。
空襲で焼け野原となった東京を目にした浅利さんが、戦争の記憶を後生に伝えたいと、強いこだわりを持っていた作品。
若い俳優たちはその思いをどう受け止め、舞台に臨んだのでしょうか。

戦争の記憶 どう受け継ぐ? 「李香蘭」俳優たちに密着

浅利慶太さんが、50年以上にわたって俳優たちを鍛え上げてきた稽古場で先月(6月)、李香蘭の稽古が始まりました。

浅利さんの妻・野村玲子さんは30年近く、李香蘭の主演を務め続けてきました。
今回、浅利さんが俳優たちに何を求めていたのか、若手たちへ伝えていく役目を担います。

野村玲子さん
「先生が大事にされた、亡くなった人の心の震えをきちんと深く持って。」

日本人であることを伏せて、中国で活躍した女優の半生をテーマにしたミュージカル「李香蘭」。
特攻隊など、日本が戦争へ突き進む中で起こった悲劇が描かれています。

野村玲子さん
「もし演出家として最後になるんだったら李香蘭って、ぼそっと言っていた時があったんですよ、実は。
ちゃんと語り継いで残していってくれと、ずっと言っていました。」

若手俳優のひとり、塚田正樹さんは子どものころ、海軍の兵士だった祖父の話を聞いたことがあります。
しかし、あまり興味はわきませんでした。
そんな塚田さんが、李香蘭で重要な役を任されることになりました。
特攻隊員の役です。
出撃する直前、家族や恋人に別れを告げる「わだつみ」と呼ばれる場面。
せりふは、戦没学生の手記から集めたものです。
浅利さんが特に思い入れを持っていたといいます。

この日、塚田さんは初めて稽古で「わだつみ」に挑みました。
しかし野村さんからは、まだ特攻隊員の気持ちが理解できていないと指導されました。

野村玲子さん
「中途半端な気持ちでやらないで。
ことばが聞こえないと言われたら、それでもいいから。」

塚田正樹さん
「同じ日本人なんですけど、ちょっと違うなって思いがあるところから稽古していたので、やっぱりその時代を生きた人間じゃないし。
いかに当時の実感に近づけて届けられるかという作業が、すごく大変だなと思ってます。」

戦争の記憶を伝えるために、浅利さんは俳優たちにどう語りかけていたのか。
そのことばがファイルに残されています。
「戦死した人の気持ちをもっとわかれ。」
求めていたのは、戦争を生き、死んでいった人たちの気持ちを理解することでした。

稽古の合間、塚田さんは特攻隊員が残した遺書が展示されている施設を訪ねました。
熱心に読んでいたのは、塚田さんが演じるせりふの元となった遺書です。
大学生の時に召集された特攻隊員が書きました。

「自由のない全体主義国家は必ず最後には敗れる」と、当時の日本を批判する言葉が綴られています。

塚田正樹さん
「その人がどんな字を書くのか、その人がどんな風に時代を見ていたのかというのがただ単に書籍を見て調べて、活字を追っているよりもすごく身近に感じられました。」

舞台初日まで2週間を切ったこの日。
塚田さんたち若手俳優は、「わだつみ」の場面に慣れてきました。
しかし長年、浅利さんの指導を受けてきたベテランは、演技をうまくまとめようとしすぎて何も伝わらない、と危機感を感じていました。

先輩俳優
「やっぱり先生がいた時にはそうじゃないぞ、戦争っていうのはこういうもんだっていう、先生の生の言葉が聞けた。
ダメになっちゃった時に。
そうなった時に、ああ…って、かえることができたんだけれど、今はそのことばがない。
難しいけれど、常にそれを考えていないとダメかなって。」

“戦死した人の気持ちをもっと分かれ”
浅利さんが残したこのことばに、塚田さんは再び向き合うことになりました。

自分が演じる特攻隊員は何を思い、死んでいったのか。
塚田さんは、戦争によって自由を奪われたことに憤っていたのではないか、と感じるようになりました。

塚田正樹さん
「自分が今後こういう風に生きていきたい、あれがしたいという思いが明確になって。
その中で、戦争って自分の人生にはあって欲しくないという思いが、強くあった。」

そして迎えた「わだつみ」の場面。

塚田さん(せりふ)
「思えば長き学生時代を通じ得た、信念とも申すべき道理から考えた場合、自由の勝利は明白な事と思います。
人間の本性たる自由を滅ぼすことは絶対に出来ず、権力主義の国家は、必ずや最後には敗れます。
明日は自由主義者が一人、この世から去っていきます。」

戦争の記憶を後世に伝えたいという、浅利さんの思い。
若い俳優たちは、これからも向き合い続けます。

塚田正樹さん
「戦争について考えるというと、すごく仰々しいんですけど、自分がこれからどう生きていきたいか?みたいなものを考えるきっかけになった。
(戦争の記憶を)伝えます。
それが僕の責任だと思っています。
この演目に参加する上での。」

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