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2019年7月28日(日)

台湾の総統選挙 中国との距離が争点

中国への接近か、それとも距離を置くのか。
台湾ではきょう(28日)、来年(2020年)1月の総統選挙に向けて、最大野党の候補者が正式に指名され、選挙戦が事実上スタートしました。
中国に融和的な野党・国民党。
景気が低迷するなか、中国との関係改善で経済を良くすると訴え、最近の地方選挙でも優勢でした。
一方、中国からの独立志向が強いのが、蔡英文総統が率いる与党の民進党。
このところ支持率が低迷していました。
そうした中で、容疑者の身柄を中国本土にも引き渡せるようにする条例の改正案をめぐって香港で続く、大規模なデモが与党・民進党への思わぬ追い風となっています。

台湾総統選 広がる香港デモの波紋

先月(6月)デモを続ける香港市民への応援歌が発表されました。

(歌)
「もっと勇敢に夜明けまで希望を持ち続けよう~」

香港と台湾の人気歌手やバンドが、共同で制作しました。

いま台湾では、香港のデモにエールを送ろうという運動が広がっています。
背景にあるのが、デモをきっかけに広がる、中国への警戒感です。

市民
「香港の現状を見ていると、あすはわが身だと感じます。」

「経済に重心を置くと、中国に支配されてしまいそうです。」

運動の参加者の中には、香港から逃れてきた人もいます。

林栄基(りん・えいき)さんです。
香港ではここ数年、言論の自由が急速に失われていると訴えています。

林栄基さん
「香港では、中国政府が報道してほしくない記事を書くと、逮捕される可能性があります。
このままだと香港はダメになってしまう。」

林さんは、20年にわたって香港で書店を営んできました。

しかし4年前、突然、中国当局によって拘束されます。
中国共産党に批判的な本を扱っていたことが、理由とされました。
8か月の拘束のあと香港に戻ることができましたが、それ以来監視が続いているといいます。

林栄基さん
「常に尾行されているのでは、という不安を感じています。
中国政府によって支配される香港は、もう安全な場所ではありません。」

いま林さんは、台湾に移住したいと考え、ことし(2019年)4月から滞在しています。
言論の自由が守られたこの場所で、再び書店を開くことを目指しています。

林栄基さん
「台湾は自由な社会が保障されています。
尾行される心配もないでしょう。
台湾の人たちは、香港の現状を教訓によく考えてほしい。」

経済的なメリットを考え中国との関係を強化するのか、それとも距離をとって台湾としての立場を守っていくのか、揺れ続けている台湾社会。
香港のデモの影響が広がる中、有権者の中には、選挙戦への向き合い方が変わったという人が出始めています。

眼鏡店で働く楊青純(よう・せいじゅん)さんです。
去年の地方選挙では、地元の経済を改善してもらいたいと、国民党の候補に投票しました。
しかし連日のデモを見ているうちに、経済的なメリットよりも台湾の主権を守ってくれる候補者を見極めたい、と考えるようになったといいます。

楊青純さん
「中国寄りの候補者が総統に当選したら、台湾の未来は香港のようになりかねません。
いくら経済がよくなっても、言論の自由や主権がなくなってしまうのは耐えられません。」

こうした中、中国に融和的な立場をとる国民党の候補は、苦境に立たされています。

先月(6月)上旬、香港のデモについて質問を受けた際、香港のデモを「知らない」と答え批判が殺到。
世論調査では、若い有権者を中心に支持を失いました。
その後も中国との関係について、慎重な発言を繰り返しています。

市民
「あの発言には失望しました。
もっと関心をもつべきだと思います。」

一方で、支持率が低迷していた民進党の蔡英文総統は、香港のデモの参加者に共感を示し、有権者の支持を取り戻しています。

民進党 蔡英文総統
「私が一番重要だと考えるのは、台湾の民主主義と主権を守ることだ。」

“いまの香港はあすの台湾” 高まる危機感

台湾の人たちの間で高まっているのは、「いまの香港はあすの台湾だ」という危機感です。
ことし1月、中国の習近平国家主席は、台湾統一のあり方として、香港と同じような「1国2制度」のもとで統治することがふさわしいと発言し、それ以来、台湾では中国への警戒感が広がっていました。
そうした中で先月(6月)から香港のデモが起き、特に若い世代を中心に、香港の抗議デモを自分たちの問題と捉えている人が多く、今の台湾の姿を守らなくてはならないという意識が高まったのです。

取り締まりが強まる抗議デモについて、蔡英文総統は「私たちが希望するのは、きょうの台湾があすの香港となることで、民主的で自由な生活が香港でも享受されるよう希望している」と話しています。
実際に、来年の総統選への影響は具体的な数字にも表れています。

蔡英文総統の支持率は去年の秋頃、一時は20%を切り、再選も厳しいという見方がでていました。
それが、ことし1月に香港のような「1国2制度」を受け入れないと明言して以降、支持率が改善し始め、そこに香港のデモが起きて支持率は上向いています。

一方の国民党は、自分たちも「1国2制度」には反対だと訴えて不安の払拭に努めています。
依然、40代以上でリードを保っているという世論調査もありますが、中国への警戒感が高まりがこの先も続くと、情勢は不利になる可能性があります。

中国や香港の状況が複雑に絡む選挙戦に

こうした台湾での動きは、中国にとってジレンマとなっています。
中国政府は、最近発表した国防白書でも民進党政権は分裂を促していると批判し、本音では、国民党政権に交代してほしいと思っています。
ただ選挙を半年後に控える中、中国が台湾への圧力を強めれば強めるほど、台湾の有権者は不安にかられ、民進党にとっては追い風となります。
台湾のトップを決める総統選挙。
中国や香港の状況とも複雑に絡み合いながら、来年1月まで選挙戦が展開することになりそうです。

(取材:台北支局・高田和加子記者)

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