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2019年7月26日(金)

障害者殺傷事件3年 “意思にそった暮らし”探して

3年前の今日(26日)、相模原市の知的障害者施設で45人が殺傷された事件。
「意思疎通のできない人間は生きる価値はない」。
事件を起こした植松聖被告が語ったのは理不尽な動機でした。
事件後、私たちはある被害者とその家族の日々を記録し続けてきました。

「重い障害があっても、意思はあり、その人らしく生きていけるはずだ」。
事件から3年の記録です。

相模原 障害者殺傷事件 “意思にそった暮らし”探して

事件が起きた津久井やまゆり園の人たちが、一時的に身を寄せている施設です。
被害者の1人、尾野一矢さん、46歳。
事件の後、ここで暮らしてきました。
のどや腹など5か所を刺されて一時、意識不明となった一矢さん。
事件から3週間後のこの時、一矢さんの両親、剛志さんとチキ子さんがずっと付き添っていました。

重い知的障害がある一矢さん。
自傷行為などをすることもあったため、両親は、一矢さんが12歳のときに施設に預けました。
言葉で伝えたり、感情を表したりすることはほとんどありませんでしたが、職員に介助を受けながら穏やかに暮らしていたと言います。
その暮らしを事件が変えました。

一矢さんの父 尾野剛志さん
「かんちゃん、うまい?おいしい?」

尾野一矢さん
「…。」

一矢さんの父 尾野剛志さん
「うんでもない、すんでもない。」

尾野一矢さん
「…。」

以前にもまして、親の呼びかけにも反応しなくなった一矢さん。
しかし、重い障害があっても「意思はあり、望む暮らしがあるはずだ」。
それを引き出しながら実現していくことが、被告への反論になると両親は考えるようになりました。

一矢さんの父 尾野剛志さん
「(意思を)出せなかったっていうよりも、出させなかったっていうほうが多いかもしれない、僕らが一矢の気持ちを出させなかった、一矢が気持ちを出してっていうよりも前に僕らがやってしまった。
本当に一矢が一番幸せになれるっていうことを考えようって。」

一矢さんの意思をどう探っていくか、父の剛志さんは、やまゆり園の職員や市の福祉担当者などと話し合ってきました。
日常の中で、意思を引き出しながら、少しずつ地域での体験も重ねていくことになりました。

園の中では、職員たちが一矢さんの様子を注意深くみていきます。

職員
「おかわりしよっか?」

尾野一矢さん
「おなか痛い、やめとく、おなか痛い。」

言葉ではアイスの「おかわりをやめておく」という一矢さん。
しかし、部屋を出て行こうとはしません。

「言葉」と「意思」が違うのかもしれない。
職員は、聞き方を変えてみました。

職員
「おかわり、一緒にもらい行こう。」

尾野一矢さん
「だいじょうぶ?」

職員
「大丈夫。
もらえるよ、おかわりもらえるよ。」

一矢さんは自ら立ち上がり、アイスをおかわりしました。

津久井やまゆり園 職員 大崎務さん
「意思表示をしないのではなくて、できないのではなくて、必ずどこかで意思表示をしていて、それをこちらがくみ取れるか、気付けるかどうかっていうところだと思うので。」

さらに、施設を出て地域での暮らしも経験していきます。
ファミリーレストランでは、自分が食べたい料理を伝えてくれるまで待ち続けます。

NPO法人 自立生活企画 大坪寧樹さん
「一矢さん自身が、外に出て行きたいというような意思を強く持っているのではないかなと。
どんどん変わっていっている、周りに、社会に、自分を開こうとしているような感じ。」

この日、自宅で一矢さんの誕生日を祝うことになりました。
実は、剛志さんとチキ子さんがここに引っ越してから、一矢さんは自宅を訪れたことはありません。
初めての場所が苦手な一矢さんがパニックを起こさないか、不安を感じていました。

一矢さんの父 尾野剛志さん
「はじめてここに連れてくるんで、やめとくってなったら、何もしないで帰らなきゃいけないから。」

一矢さんの母 尾野チキ子さん
「はじめの一歩だから、ほんとにごくごく当たり前の。」

そして…。
少し戸惑いながらも、一矢さんはその一歩を踏み出すことができました。

「ハッピーバースデー、ディア、かずやー。」

「おめでとー。」

一矢さんの意思がどこにあるのか、そのすべては分かりません。
それでも両親は、一矢さんらしい生き方を一緒に探していきたいと考えています。

一矢さんの父 尾野剛志さん
「どんなに重度の知的障害があっても、やっぱりその周りで支えてくれる人たちがいれば、皆さんと同じように生きていけるんですよって。」

一矢さんの母 尾野チキ子さん
「私はただ、ほんとに植松に負けたくないんです。
それがすごく強いですね。
いらない人なんていないんですよね、その一心です。」

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