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2019年7月23日(火)

ゲノム編集食品で食卓は?

私たちの食卓を大きく変えるかもしれない新たな制度が、2019年夏以降に始まります。
自然界のものより肉づきがよく食べる部分が多いマダイ。
そして、血圧を下げる成分を多く含むトマト。
これらは「ゲノム編集」という、遺伝情報を自由自在に書き換える技術によって生み出された食品です。
新たな制度によってゲノム編集食品の販売が可能になります。
私たちの食卓はどう変わるのか?開発の最前線を取材しました。

食卓を大きく変える!? ゲノム編集食品の最前線

佐賀県唐津市にある研究施設。
立ち入りが厳しく制限された開発現場に、カメラが入りました。
いま水産業界の大きな注目を集めているのが、ある特徴を持つ「サバ」。

九州大学 唐津水産研究センター 大賀浩史助教
「ゲノム編集を使って、共食いをしないサバをつくることを目指して研究しています。」

実は、サバは強い攻撃性をもち、頻繁に共食いするため、これまで養殖は難しいとされてきました。
通常のサバの稚魚は食欲旺盛で、共食いにより、わずか1か月で1割以下に減ってしまうのです。
1分間水槽を見ているだけで、あちこちで5、6件くらいは食い合っているのが肉眼で見えると言います。

共食いしないサバは、遺伝子の一部分を切り取ることでつくり出しました。
研究者が「ハサミ」と呼ぶのは特殊な酵素を含んだ液体。
こうした酵素を魚の受精卵に注入すると、遺伝子に変化が起こります。

こちらは通常のサバと、ゲノム編集したサバの遺伝子の配列。
サバの「攻撃性」をつかさどる遺伝子を、酵素でハサミのように切除し、攻撃性を抑えたサバをつくろうとしているのです。
ゲノム編集したサバでは、1割だった稚魚の生存率が4割にまで上昇しています。

九州大学 唐津水産研究センター 大賀浩史助教
「共食いしにくい技術によって生産量が向上すれば、その分安く提供することができるのではないか。
ゲノムは生命の設計図ですから、これを自由に編集することは今までは考えられなかった。」

ゲノム編集は、食品がかかえる課題の解決につながるとも期待されています。
産業技術総合研究所で長年続けてきたのが卵の研究。
新薬の開発にいかすため、アレルギーの原因となる物質を取り除こうと考えました。
アレルゲン性のあるタンパク質がないニワトリをつくろうと考えたのです。
酵素を使ったゲノム編集技術を用いて、主要なアレルギー成分を取り除くことに世界で初めて成功しました。

この研究をきっかけに、業界関係者は、卵アレルギーに悩む人でも食べられる「新たな卵」が将来的に開発できるのではないかと期待しています。

産業技術総合研究所 大石勲博士
「ゲノム編集で、本当に正確に自分が思ったような遺伝子操作がニワトリの中でできる。
アレルギーの患者さんが将来、加工食として食べることができるかもしれない。」

ゲノム編集食品は日本だけでなく、世界各国の研究者や企業が開発を進めています。
味を良くしたり、収穫を多くするための「品種改良」を効率的に行えるとされているからです。

ゲノム編集食品は、遺伝子組み換え食品とは似て非なるものです。
「遺伝子組み換え」では、例えば害虫に強いトウモロコシを作るためにバクテリアなど別の生き物の遺伝子を組み込みます。
これは自然界では起こり得ない操作で、販売前に国の安全性審査を受けることが義務づけられています。

一方のゲノム編集食品では、遺伝子組み換え食品とは異なり、販売前に安全性を審査する必要はなく届け出をするだけで流通させてよいことになりました。
国は、食品で行われるゲノム編集のほとんどは「もともとある遺伝子の一部分を切断」していて、同じことは自然界でも「突然変異」という形で起きているからだとしています。
実は、私たちがふだん食べている農作物も、「突然変異」を利用した品種改良の結果作られたもので、ゲノム編集食品は、こうした農作物と安全性は変わらないということなのです。

遺伝子組み換え食品はパッケージなどで表示がありますが、ゲノム編集食品の表示をどうするかは、現在、議論が行われているところです。
国は、食品が「ゲノム編集」でできたのか、突然変異で自然にできたのか判別することがいまの技術ではできず、表示を義務化しても取りしまることができないため、表示を義務付けない方向で検討を進めています。
一方、こうした方針に疑問を投げかける専門家もいます。

消費者問題に詳しい 菅聡一郎弁護士
「今まで食べたことがない食品なので、積極的に選択するかしないかということになると、最初は慎重な方もたくさんいておかしくないと思うので、何も表示せずに売ることは消費者が受け入れにくいのではないかと思います。」

国は、表示の制度を早ければ2019年8月中にも整備し、ゲノム編集食品を販売するためのルールは夏以降にすべて整うことになります。
販売が始まった時に消費者が混乱することなく、安心できるよう制度を整えることが求められています。

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