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2019年7月14日(日) NEW

中国のAI開発 急成長の秘密は?

開発競争が激化する「AI=人工知能」。
今月(7月)、経済産業省が発表した各国のAI関連の特許出願数です。
多くの世界的IT企業を抱えるアメリカを猛追している国が、中国です。
出願数は、ここ5年で7倍に増加。
国家をあげてAIの開発を加速させています。
急成長の秘密はどこにあるのか、取材を進めると“中国ならではの強み”が見えてきました。

中国政府も後押し 加速するAI開発

去年(2018年)11月にリニューアルした北京市内の公園。
走っているバスをよく見ると、運転手のいない自動運転です。
園内の1.6キロを回り、これまで無事故で運行。
家族連れなどの足となっています。
この公園では、ほかにもAIを使ったさまざまなサービスが提供されています。

例えばウォーキングをすると、いたるところに設置されたカメラの映像をAIが解析し、歩いた距離や消費カロリーをモニターに表示してくれます。

この公園を運営するのが中国の大手IT企業。
AI技術を市民に浸透させようと、さまざまな分野への投資を加速しています。

中国 李克強首相
「技術革新は発展をリードする一番の原動力だ。
国の核心に位置づけなければならない。」

中国政府も巨額の補助金を出すなどして、こうした企業を後押ししていて、2030年までにAIに関連する産業の市場規模を160兆円(10兆元)まで拡大させるとしています。

AI開発を下支え 農村の労働力

目覚ましい発展を遂げる中国のAI技術。
それを支えているのが、地方にある中小の会社です。
およそ1,000万人が暮らす、河南省鄭州市。
いまこの町に、AI開発に必要なデータ収集を行う会社が相次いで生まれています。

去年11月に創業したこの会社では、自動運転に使うデータを集め、大手のAI開発企業に販売。
ことし(2019年)は1億5,000万円の売り上げを見込んでいます。
集めているのは、画像に写っている「人」や「モノ」に情報をひも付けた、“学習データ”と呼ばれるものです。

例えば、「車」が写っている写真に「乗用車」という情報を加えたものが、学習データとなります。
これをもとにAIは「車」を認識できるようになり、さらに、さまざまな状況のデータを与えることで知能のレベルを向上させていきます。

自動運転では、学習データを集めれば集めるほど、より高い精度で周囲の状況を識別できるようになり、予測して動くことができるようになるといいます。

データ収集会社 技術責任者 李強さん
「学習データは、AIを育てていくための栄養のようなものです。
これらのデータは、ますます重要になっていくと思っています。」

この会社では、学習データに必要な写真のバリエーションを増やそうと自ら撮影もしています。
大手AI企業に納入するデータの量は1日50万件ほど。
求められる数は増え続けているといいます。

データ収集会社 技術責任者 李強さん
「いまは非常に多くのデータ収集の依頼があります。
大変だけど、すばらしい将来性があると感じますよ。」

学習データの需要が高まる中、データを販売する会社の中には、簡単な作業だけを下請けに発注し、より多くのデータを集めようという動きが出てきています。
河南省では、データ作成を下請けする会社がこの1年で急増しているといいます。

そのひとつがあると聞き訪ねたのは、町から120キロほど離れた農村地帯です。

この会社は去年、綿や麻の加工場だった場所に創業。
周辺から集められた主婦や学生たち、30人が働いています。

従業員が行うのは、学習データを作るための“タグ付け”と呼ばれる基本的な作業です。
写真に写っている車を選んでは、「乗用車」「トラック」など車の種類を入力していきます。

3か月前からこの会社で働いている張夢コウさん(27)。
これまでは専業主婦をしていました。
1つの画像にタグ付けを行うごとに0.15元、日本円で2円余りが支払われます。

張夢コウさん
「この仕事は割と簡単です。
慣れてきたらもっと早くできるようになると思います。」

データ作成会社 李楊社長
「農村部では、創業初期のコストが低く、人員の募集も比較的に簡単に行うことができます。
賃金も大都市より低く済むのでメリットも大きいです。」

張さんは、この仕事をするために夫や子どもと離れて暮らしています。
会社の近くに家を借り、町の学校に通う妹と一緒の生活です。
実家に預けた子どもは3歳になりますが、帰れるのは週末だけ。
SNSでのやりとりが唯一の楽しみです。
現在の収入は、1か月1,500元(約2万4,000円)ほど。
こうした農村の労働力が、中国のAI開発を下支えしています。

張夢コウさん
「ここは小さな町なので、私みたいな子どもがいる主婦は理想的な仕事にはなかなか就けないのが現状です。
可能なら長く続けていきたいと思っています。」

農村などで集められた膨大な学習データは、今後、中国のAI技術の躍進を支える強みになっていくと専門家はみています。

国立情報学研究所 山田誠二教授
「AIの先生を誰がやるかというと、基本的には人間しかいないんです。
ですから、どうしてもある意味泥臭く人海戦術でやらざるを得ないところが残っていて、実はそこが一番コストがかかるんです。
AIを実世界に導入するときにそういった地道な作業が必要なので、人件費が安い中国では、工場に集まってやる形などで補っていけるという一例だと思います。」

AI開発 日本は?

こうした中国の動きに日本が太刀打ちするには、何が必要なのでしょうか?
政府はAI関連の予算を昨年度の1.5倍にあたるおよそ1,200億円を計上して、AI人材の育成などに力を入れています。
ただ、投資額や人材の数では中国と大きな差があるのも事実です。
そうした中で、専門家は医療分野など、より専門性の高い技術に特化して開発を進めていくべきだと指摘しています。

国立情報学研究所 山田誠二教授
「典型的なのは、X線の画像に腫瘍が写っているかどうかのラベルを付けるといった、非常に専門知識が必要で質の高い情報をつけることが重要になってきます。
その方向に金、人材を集中させていくことが非常に大事になっています。
今やらないと手遅れになってしまう状況だと思います。」

開発を巡る競争が激しくなる中で、各国が今後、AIの開発でどの分野に力を入れていくかにも注目していく必要がありそうです。

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