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2019年5月24日(金)

『82年生まれ、キム・ジヨン』 韓国小説が異例のヒット

和久田
「3年前に韓国で発売され、100万部を超えるベストセラーとなった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』。
1人の女性が結婚や出産など、人生のさまざまなステージで経験する女性ならではの差別や苦悩を淡々と描いた小説です。」

高瀬
「日本で去年(2018年)12月に出版されたところ口コミで人気となり、韓国の翻訳小説としては異例の13万部が発行されています。
共感が広がる背景を取材しました。」

女性の社会進出が進む中で変わらない意識

リポート:金知英(NHK福岡)

“ときには「家で遊んでいる」とばかにされるし、ときには「家族の生命を守る仕事」なんて持ち上げられる。”

小説「82年生まれ、キム・ジヨン」。
韓国で女性の社会進出が進む一方で、変わらない人々の意識。
そのひずみを感じる30代の女性の半生を描いた物語です。
読者の共感を呼んだのが、出産をめぐって夫に詰め寄るシーン。

“最悪、君が会社を辞めることになったとしても心配しないで。
僕が責任を持つから。”

“私は今の職場や友だちも、今までの計画も、全部失うかもしれないんだよ。
あなたは何を失うの?”

妻に寄り添うようにも見える夫の発言の中に、出産したら女性は仕事をやめるのが当たり前という意識が感じられ、キム・ジヨンは悔しさを覚えます。

男女の役割に疑問 作者が小説に込めた思い

作者のチョ・ナムジュさんです。
チョさん自身も出産を機に退職しました。
当時は、ほかに子どもを育てる方法はなく、仕事をやめましたが、世の中で当たり前とされる男女の役割に疑問を抱くようになり、この小説を書きました。

作者 チョ・ナムジュさん
「自然と体に染みついている世の中の慣習や価値観があると思う。
そういった考え方が変わって欲しい。」

リアルな描写に日本人女性も共感

小説に書かれたリアルな描写は、日本の女性たちの心もつかみました。

チョさんが来日したイベントには、およそ400人の読者がかけつけました。

読者
「今後自分がどう生きていくか、立ち居振る舞いを考えるきっかけになる。」

読者
「おもしろかったですし、すごい近いんだなと、日本と韓国って。」

主人公の姿に自分を重ねた人も

子育てに悩むキム・ジヨンの姿に自分を重ねた人がいます。

キム・ジヨンと同世代の楠田奈緒子さんです。
理学療法士として病院に勤めながら、4歳の娘を育てています。
小説のある一節が、楠田さんの目にとまりました。
キム・ジヨンが出産のために仕事をやめて落ちこんでいるときに、夫が自分も家事や子育てを“手伝う”と励ますシーン。
その言葉に腹を立てます。

“家事も手伝う、子育ても手伝う、私が働くのも手伝うって、何よそれ。
どうして他人に施しをするみたいな言い方するの?”

以前、楠田さんも同じような気持ちを抱いたことがありました。
産休を終え、仕事に復帰した後、家事や子育てのほとんどを楠田さん1人でこなしていました。
夫が自分から家事に取り組もうとしなかったのです。

楠田奈緒子さん
「(今は)子育ても参加してくれているんですけど、なかなかそこに行くまでに『自分の仕事じゃない』っていう感覚があると思うので、今まで違和感を感じていたことが正しかったのかどうか分からないけど、他の女の人も思っていたんだなってわかりました。」

社会の実態も指摘

小説は、こうした意識の問題だけでなく、社会の実態がともなっていないことを指摘しています。

九州の大学に通う4年生の田坂真希さんです。
この小説を読んだのは、就職活動の真っ最中。
ある一節が胸に刺さりました。
小説の中で就職活動をしている女子学生に対し、大学の教授が発した一言です。

“女があんまり賢いと会社でも持て余すんだよ。”

田坂真希さん
「大学にいるときは、こういう風潮はあまり感じないんですけど、地元に帰るとこういうこと言う方はちらほら見かけるので。」

田坂さんは将来、結婚や出産をしても仕事を続けて、キャリアを積んでいきたいと考えています。
就職活動をする中で、現実には女性管理職の数は想像以上に少ないと感じ、ロールモデルを思い描くことが難しかったと言います。

田坂真希さん
「(女性の管理職は)いっぱいいると思ったら、10人中1人とか2人なので、男だからとか女だからとか、審査に響かない会社で働けたら楽しいだろう。」

“女性の生きづらさ” 社会が目を向けるきっかけに

3年前、小説に共感が広がった韓国。
その後、「キム・ジヨン法案」とも呼ばれる、男性も産休や育休をとりやすくする法案が国会で発議されるなど、社会が変わり始めています。
作者のチョさんは、日本でも共感が広がり、女性たちの生きづらさに社会が目を向けるきっかけになればと考えています。

作者 チョ・ナムジュさん
「女性ひとりひとりが選んだ行動に見えても、社会の慣習や制度など、あらゆることに影響されていると思う。
女性が個人で解決するものではなく、社会が向き合うべき問題だと伝えたい。」

世界17の国と地域で翻訳が決定

和久田
「読みましたが、『あっ、これは自分の話だ』と思う場面がやっぱりありました。
じゃあ、何が大切なのかと考えたときに、やはり社会の中で何となく共有されている価値観や常識に対して、決して鈍感にならずに、それが本当に正しいのか、常に敏感で注意深くあらねばならない。
そして、行動するときに、ひとりひとりがもう少しだけ思慮深くあらねばならない、そういうふうに感じました。」

高瀬
「よかれと思った発言の背景とか前提に古い価値観とか、凝り固まった考え方がないかということを考えないといけないんだなと思いました。」

和久田
「縛られていることに気づかなければ、変わらないだろうなと感じますよね。
この小説は、日本やタイなど、これまでに出版されている国を含めて、アジアや欧米など、世界17の国と地域での翻訳が決まっています。」

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