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2019年4月5日(金)

映画「セメントの記憶」 世界が称賛する理由

高瀬
「シリアの内戦で周辺国に逃れた難民は、およそ560万人いると言われています。
このうち、隣国レバノンの建設現場で働く人たちを描いた、ドキュメンタリー映画『セメントの記憶』。
これまでに30以上の国際映画祭で賞を受賞しています。」

和久田
「これほどまでに人々の心を捉えたのはなぜなのか。
日本での公開に合わせて来日した、シリア人監督のクルスームさんに、映画に込めた思いを聞きました。」

内戦から逃れたシリア人労働者 過酷な現実

“手は荒れ、作業員はもう日にちを数えなくなる。
建物の階ができる頃には指紋も消えている。”

映画に登場するのは、内戦を逃れたシリア人労働者たち。
建設ラッシュに湧くレバノンの首都、ベイルートで働いています。
朝7時から高層ビルの作業現場に立ち、日が暮れて戻るのは、セメントで固められたビルの地下。
建設現場の中だけで日々が過ぎていきます。

“午後7時以降、シリア人労働者は外出禁止。
違反者は法により処罰する。”

映画では、生活の自由を剥ぎ取られた過酷な現実が描かれています。

シリア人監督 映画に込めた思い

先月(3月)下旬、クルスーム監督が日本での公開に合わせて来日しました。
難民として6年前にシリアからレバノンに亡命した、クルスーム監督。
映画を撮影したのは、内戦から逃れても過酷な生活を続けるシリア人の現状を知ってほしかったからだと言います。

映画監督 ジアード・クルスームさん
「彼らは、シリアから逃げてきたのに、結局ベイルートで地下の暗い穴の中にいます。
私は、彼らが何の権利も与えられず、奴隷のように扱われていることを訴えたかったのです。」

一人称で描かれる心象風景

外出が禁じられている夜間、テレビで故郷の内戦の様子を見つめるシリア人労働者たち。
カメラの前では、自分や家族に危害が及ぶことを恐れ、思いを語ろうとしません。
そうした中で、監督が採った手法が架空の「僕」という一人称で心象風景を描くことでした。

“セメントの味が僕の心を蝕んだ。
死の味だ。
僕は逃げた、虚空へと。”

築き上げたものを壊していく戦争の不毛さ

実は、クルスーム監督はシリアにいたころ、徴兵され、政府軍の兵士となった時期がありました。
デモを鎮圧する現場に派遣された時、兵士が市民を殺すさまを目の当たりにしたと言います。

映画監督 ジアード・クルスームさん
「こんな状況がなぜ許されるのか、全く理解できませんでした。
自分に何度も問いましたが、答えは出ませんでした。
特につらかったのは、爆撃が行われている間、これが誰かの家族を殺すことになるのだと考えたときです。
武器を持つことは、私にとって、もはや耐えられないことでした。」

クルスーム監督は軍を脱走し、レバノンに逃れました。
監督が映画の中で、象徴的に描いたシーンがあります。

建設作業と、内戦で街が破壊される映像を交互に重ねた場面です。
築き上げたものを壊していく戦争の不毛さを描きました。

映画監督 ジアード・クルスームさん
「労働者たちが建設作業をしている、そのときに、家々が破壊されているさまを描きたかったのです。
人間が、ひとつの戦争からまた別の戦争へと繰り返し、過去の戦争から全く学んでいないということに焦点を当てたかったのです。
内戦はもう8年も続いていて、いつ終わるのか想像するのも難しいです。
それでも、この内戦が早く終わり、映画で描いた労働者のような人たちが自由を取り戻し、シリアで自分の国を再建できることを願っています。」

「平和な国でこそ、世界の現実に目を向けてほしい」

世界でシリアの現状を訴えてきたクルスーム監督。
平和な国でこそ、世界の現実に目を向けてほしいと考えています。

映画監督 ジアード・クルスームさん
「私は、いつも自分の国の状況を伝えようとしてきました。
シリアで何が起こっているのかを人々が理解することは、戦争を繰り返さないためにとても重要だと思います。」

シリア難民の帰還 いまだ見通し立たず

高瀬
「映画の中で、光の強さに対しての影の濃さというのが印象的でしたけれども、シリアでは、内戦の終結を見据えて政権が難民の帰還を促しているんですが、帰還すれば拘束される、また徴兵されて最前線に送られるという不安から帰れず、今も出口の見えない状況が続いています。」

和久田
「この映画は現在東京で上映されていて、今後、大阪、名古屋などで順次公開される予定です。」

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