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2019年2月26日(火)

過熱する障害者雇用 現場で何が

高瀬
「2.2%。
これは、障害者の法定雇用率です。
企業は法律で、従業員の2.2%は障害者を雇用するよう義務づけられています。」

和久田
「去年(2018年)4月に、この雇用率が0.2ポイント引き上げられたことで、今、企業の間で障害者の人材獲得競争が激しくなっています。」

法定雇用率2.2% 過熱する障害者雇用

リポート:髙橋広行記者(NHK千葉)

都内の人材紹介会社です。

「職種の方は何かご希望ございますか?」

「事務のご経験ありますし…。」

この1年で「障害者を雇い入れたい」という企業からの問い合わせが急増。
今年度の紹介実績は、前の年の2倍以上に上っています。

人材紹介会社 セントメディア 森晴貴事業部長
「(障害者を雇用したいという)ニーズは圧倒的に増えたと思います。
今まで働きたくても働けなかった方々が、チャンスが得られたんじゃないかと認識しています。」

視覚障害のある、50代の男性です。
企業でマッサージ師として働いてきましたが、今回、別の企業からこれまで以上の年収を提示され、転職を決めました。

視覚障害のある男性
「最高の望みがかなった。
後輩の夢が、希望がわくような仕事をしていきたい。」

障害者雇用 採用後の待遇に課題

ところが、採用された後、企業の待遇に課題を感じている人もいます。

久保田譲さん
「今も痛みます。」

久保田譲さん、53歳です。
交通事故により左足に障害があり、30年近く、企業の「障害者枠」で働いてきました。
久保田さんが勤めたのは、化学メーカーや通信会社など3社です。

久保田譲さん
「フォークリフトと有機溶剤…公的な資格では6個。」

それぞれの職場で、キャリアップを目指して勉強し、6つの資格を取得しました。

しかし、仕事は書類の管理やデータ入力などの補助業務ばかり。
資格が生かされることはなく、昇給もほとんどありませんでした。

久保田譲さん
「障害者として入っているから、相手もそういうふうに見ているから。
“これしたいんです”と言っても、“いや、それは無理だよ”。
キャリアアップにつながっていかない。
ここまでできれば、次の段階にいけるのに。
そこで足踏みしている状態がすごいあるのかな。」

“能力の発揮”に課題

なぜ、障害者の能力が企業で発揮されないのか。
労働組合の担当者は、雇用率の達成に向けて、採用自体が目的化していると指摘します。

ソーシャルハートフルユニオン 久保修一書記長
「障害者を雇わなきゃいけないから雇うというところから始まって、ある程度、その人がいてくれればいいよと。
どんどんスキルアップしたい、キャリアアップしたいという人に、“こちらをトライしてみますか”という選択肢が、今、全くない状態なんです。」

採用のすそ野をどう広げるか

高瀬
「取材した髙橋記者です。
やる気に満ちているのに、企業がその人材を活用しようとしていないようにも思えて、とてももったいないですよね。」

髙橋広行記者(NHK千葉)
「多くの企業では、まず採用することで手一杯となっていますが、人手不足の中だからこそ、障害のあるなしに関わらず、1人1人の特性を見極めて仕事に生かしていかなければなりません。
さらに、障害者雇用には、もう1つ大きな課題があります。
採用のすそ野を、どう広げるかということです。
実は、今回取材した人材紹介会社では、紹介実績のおよそ8割が身体障害者でした。
こうした中、採用を知的障害や精神障害がある人にも広げていこうと、模索を続けている企業を取材しました。」

農業で法定雇用率を達成?

千葉県にある、成田空港会社です。
ターミナルビルの運営を担い、およそ900人の社員が働いています。

去年まで2年間、法定雇用率を達成できていませんでした。
これまで、採用は身体障害者が中心でした。

成田空港会社 大場学人事室長
「障害者の方にできる仕事はどういうものがあるか、ピックアップしてもらう。」

今後は精神障害や知的障害がある人も採用したいと、業務の洗い出しを行ってきました。
洗い出した業務のリストです。
「郵便物の仕分け」や、「廃棄文書のシュレッダー」などが挙げられましたが、雇用できるほどの業務量にはなりませんでした。

成田空港会社 大場学人事室長
「なかなか1人雇う分の業務ボリュームが見いだせなかった。
やはり難しいのひと言ですね。」

そこで目をつけたのが、本業とは違う農業の仕事です。
雇用した障害者に、野菜を栽培してもらおうというのです。

成田空港会社 大場学人事室長
「これ、前に何作ってたの?」

「ここにブロッコリー。」

成田空港会社 大場学人事室長
「いいよね、おいしいもんね。」

利用したのは、共同農園。
この共同農園は、成田空港会社ではなく、別の会社が運営しています。
成田空港会社は、農園の一部を借り受け、雇用した障害者に働いてもらいます。
収穫した野菜は、空港で働く社員に福利厚生の一環として、無料で配布する仕組みです。

空港会社は、今年度、この仕組みで知的障害や精神障害のある人たち9人を新たに雇うことができ、法定雇用率を達成しました。
働く人の多くは、これまで福祉施設などで軽作業にあたってきた人たちです。
今の月給はおよそ10万円。
これまでの2倍から5倍に増えたといいます。

「楽しいです。」

「(野菜を)自分で選んで種を植えることができるので、トライができて、励みになり、やりがいにつながってます。」

成田空港会社 大場学人事室長
「障害者の方の雇用の場を提供できたという意味では、よかったと思います。
こういった場の活用とあわせて、社内で継続的に雇用ができるような取り組みを続けていく。」

一人一人を生かすために

高瀬
「この共同農園の仕組み、法定雇用率も達成して働く人たちの所得も向上したと。
ただ、本来の障害者雇用の目的とは少し違うような気もしますが、どうでしょうか?」

髙橋記者
「本来であれば、同じ社内で仕事をするのが理想ですが、この共同農園は、都内を中心に200社以上の企業が利用していて、社内で障害者を雇用することの難しさを象徴していると言えます。」

和久田
「やはり企業は、雇用する以上は、社内での雇用も含めて、一人一人の力を生かせるような環境作りを進めていく必要がありますね。」

髙橋記者
「そのとおりだと思います。
しかし障害者雇用は、人材紹介会社や企業の人事担当者といった一部の人たちだけが関心を持っているのが実情です。
法定雇用率は、今後さらに引き上げられることになっています。
『数合わせ』とならないために、どうすればいいのか。
私たち一人一人が考えていかなければいけないと思います。」

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