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2019年1月18日(金)

「電話が使えない」 聴覚障害者の苦悩

高瀬
「皆さんは、耳が聞こえない方にこんな困り事があることをご存じでしょうか?」



車で買い物に出かけた際、カギを車内に置いたまま、誤ってドアをロックしてしまったこちらの女性。
実は、両耳が聞こえません。
当時、時間は午後10時過ぎ。
周囲には人もいなし、電話もできません。

福田良美さん
「心細いし、寒いし、夜中で助けてくれる人はいないし、家にも帰れないし、本当に困りました。」

こちらの夫婦も、ともに耳が聞こえません。
18年前、妊娠中の妻が予定より早く産気づき、今にも生まれそうになりました。
救急車を呼ぶか迷いましたが、時間は真夜中。
近所の人にも頼めず、病院にFAXを送ったものの、返信がありません。
結局、自宅で出産。
赤ちゃんは幸い無事でした。

田原直幸さん
「夜中の12時や1時なので、隣の方に(電話を)頼むこともできませんでした。
孤独な気持ちになりました。」

18年たった今でも、電話ができない態勢が変わらないことに不安を感じ続けています。

聴覚障害者が求める 「電話リレーサービス」

高瀬
「日常的に電話が使えない聴覚障害者。
『再配達の依頼が出来ない』『店や病院の予約が取れない』など、日常生活でさまざまな困難に直面しています。」

和久田
「そんな聴覚障害者の方々が長年求め続けてきた、あるサービスがあるんです。
それがこちら、『電話リレーサービス』と呼ばれるものです。

耳が聞こえない人が手話通訳者のオペレーターに、スマホやパソコンのテレビ電話で要件を伝えます。
そして、オペレーターが代わりに、病院などに電話をかけてくれるというものです。
さらに、その回答を今度は手話で伝えてくれます。
まさにオペレーターが同時通訳者となってコミュニケーションを助けてくれる仕組みです。」

高瀬
「実は電話リレーサービスは、アメリカやイギリスなど世界20か国以上では、国が整備する公共サービスで、その多くは24時間対応です。
一方、日本では、民間の試験的な事業にとどまり、利用時間も朝8時から夜9時までと限定的です。
この電話リレーサービスの整備が進んでいないことで、命が脅かされる事態も起きています。」

緊急事態にオペレーターは

去年(2018年)10月、北アルプス・奥穂高岳で3人組のパーティーが遭難しました。
3人は聴覚障害者。

警察や消防に直接電話ができない中、頼ったのが、民間の電話リレーサービスでした。
オペレーターに連絡が寄せられたのは午後5時半。
日暮れも近く、事態は緊急を要していました。
ここで、1つのルールが問題となりました。
現在の民間の事業では、110番や119番への通報は取り次がないことにしています。
万が一、手話を誤って伝えた場合の責任を負いきれないためです。
しかし、電話を受け取ったオペレーターは、そのルールを超えて対応を始めました。
遠山至さんです。

民間事業者のオペレーター 遠山至さん
「(手話で)“ヘリお願い”“奥穂高”というキーワードが出てきた。
(状況を)察するに緊急の事態だろうと。」

ジレンマを抱えながらも、命に関わると判断し、やり取りを続けた遠山さん。
遭難した場所や状況を逐次、長野県警に連絡。
サービス時間外の夜中0時過ぎまで対応し、翌朝の救助につなげました。
寒さで衰弱し、50代の女性1人が亡くなりましたが、2人の命は助かりました。
遠山さんは今回の事故で、制度の不備を強く感じたと言います。

民間事業者のオペレーター 遠山至さん
「あすにでも(救助を求める)電話がかかってくるかもしれない。
誰もが迷わず、安心して対応できるような形を望む。」

今回、山岳事故で命を落とした女性の遺族が初めて取材に応じました。
命を守るために、国が責任を持って電話リレーサービスを整備してほしいと強く求めています。

遺族の男性
「電話リレーサービスがなければ、3人とも命を落としていたのではないか。
時には命に関わることでもあるので、一日でも早く(緊急対応が)できるようにしてほしい。」

電話リレーサービス 整備のためには…

和久田
「取材した、小林記者です。
切迫した状態の時に110番ができないというのは、本当に大きな問題ですよね。」

小林さやか記者(社会部)
「そうなんですね。
また同じような事態が起きても今のままでは対応できませんし、緊急通報に対応できないというのは、G7でみますと日本だけなんです。
ただ、公共サービスとして整備するためにはまだまだ課題があります。
運営のための予算ですとか、法律の整備などをクリアしないといけません。」

高瀬
「メールですとか、SNSなどでの対応というのは難しいものなんですか?」

小林記者
「もちろん文字でのやり取りというのも重要なツールの1つなんです。
ただ、幼いころから手話を身につけている人にとっては、手話がもっとも身近な言語なんです。
だからこそ『切迫した時にメール打つ余裕がない』という声も聞かれました。
当事者団体や専門家は、次のように指摘しています。」

全日本ろうあ連盟 小椋武夫理事
「公共インフラとしての電話に、ろう者はアクセスすることができません。
アクセスすることができないということが、社会参加や日常生活の障害になっています。」

慶應義塾大学 川森雅仁特任教授
「緊急通報ができないというのは、その人の生命に関わることです。
まだ確保されていない、保障されていないことは、人権的にも問題があると思う。」

小林記者
「国も、この山岳事故を受けて、ようやく重い腰を上げました。

通信事業を担当する総務省は、必要性は認識しているとして、公共インフラとしての整備見据えて、検討会を来週にも開催するとしています。
取材を通して、私たちが当たり前のように使っている電話は、命に直結するインフラなんだということを再認識しました。
それを使えない聴覚障害者が置かれている現状をまず知るということが、サービスを普及させる第一歩だと感じました。」

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