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2018年12月26日(水)

認知症の人・家族に安心を

高瀬
「認知症の人が、誤って他人に損害を与えてしまった場合、それを誰が負担するのか。
認知症の人や家族にとって、大きな不安です。」

和久田
「そこで、認知症の不安をゼロにしたいと、全国に先駆けて取り組む自治体があります。
愛知県大府市の挑戦です。」

安心して暮らせる社会の実現を訴える

リポート:松岡康子記者(名古屋局)

先週、愛知県大府市でお披露目されたモニュメント。
全国で初めて認知症の条例を制定してから、1年を記念して作られました。

大府市 岡村秀人市長
「市民が認知症になっても安心して過ごせるまちづくりは、大きな課題のひとつ。」

大府市が条例を制定するきっかけとなったのは、平成19年に起きた鉄道事故でした。
高井隆一(たかい・りゅういち)さん。
事故で父親を亡くしました。

父親の良雄(よしお)さんは、当時91歳。
アルツハイマー型の認知症で、1人で外出すると自宅に戻ることが難しくなっていました。
家族が目を離した隙に外出。
駅の線路に迷い込み、電車にはねられて亡くなりました。

鉄道会社は、事故による振り替え輸送にかかった費用など、700万円余りを請求。
一昨年(2016年)、最高裁判所が鉄道会社の訴えを退ける判決を言い渡しましたが、事故と裁判は社会に大きな衝撃を与えました。
判決が確定した後、高井さんは全国各地で父親の事故について語り、認知症になっても安心して暮らせる社会の実現を訴えてきました。

高井隆一さん
「まだまだ認知症のことを知らない方は多いので、私が行くことによって耳を傾けていただく機会ができるのであれば、やらせていただきたい。」

鉄道事故をきっかけに 進む自治体の取り組み

こうした声を受けて、大府市が制定した条例です。
認知症の人が行方不明となり事故にあった場合、本人や家族を支援することを定めています。
その仕組みです。
まず、行方不明になるおそれのある認知症の人の家族が、市に登録。
市は本人と家族に代わって保険会社に保険料を支払います。
認知症の人が、万が一、事故などで他人に損害を与えたりしても、保険会社から保険金が支払われるため、本人や家族の負担を減らすことができます。

大府市 高齢障がい支援課 神取愛さん
「家に認知症の方を閉じ込めるのはおかしい。
認知症があっても、安心して外出できる支援の1つになればと思います。」

制度を始めて半年。
48人が登録を済ませました。
その1人、6年前に認知症と診断された鳥飼美津代(とりかい・みつよ)さんです。
夫の憲一(けんいち)さんが介護しています。

美津代さんはこれまで何度か行方不明となり、自宅から13キロ離れた場所で警察に保護されたこともありました。
同じ大府市内で起きた事故は、ひと事ではないと感じています。

鳥飼憲一さん
「思いがけないところに行ってしまう。
こっちでも(事故が)ありえる。」

大府市の保険があることで、夫婦は安心して暮らすことができるといいます。

鳥飼憲一さん
「(保険に)入っていると安心だから、大府市に感謝している。
思い切って手続きしてよかった。」

不安なく暮らせるまちづくりを

さらに大府市は、毎年、地域ごとに行方不明者の捜索訓練も行っています。
今年(2018年)は、その訓練の仕方を根本から見直しました。
これまでの訓練で使っていた、「徘徊(はいかい)」という言葉をやめたのです。
徘徊という言葉は「目的もなくぶらつく」という意味ですが、認知症の人は「実家に帰る」など、本人なりの目的があって歩いています。
認知症を正しく理解し、本人の気持ちに寄り添って見守れる人を増やそうとしています。

訓練の参加者
「こんにちは、お出かけ?
私は原田といいますが、お名前を教えていただけますか?」

「共和東太郎という者です。」

先週開かれた式典。
事故で父親を亡くした、高井さんの姿もありました。
認知症の人や家族が、不安なく暮らせるまちづくりを進めてほしいと願っています。

高井隆一さん
「ひょっとすると、父が今なら助かっていたのかな。
もっともっと認知症に対して、優しい地域を作っていただきたい。」

適切な支援 優しく見守りを

高瀬
「取材した、名古屋放送局の松岡記者です。
適切な支援さえあれば、認知症の人や家族が、皆さん安心して暮らせるということなんですね。」

松岡康子記者(名古屋局)
「そうなんです。
認知症の人は何もできない、何も分からない人たちではなくて、周りからのちょっとした手助けがあれば、私たちと同じように外出を楽しみ、社会の中で役割を持って、いきいきと暮らすことができるんです。
実際にそんな人たちがたくさんいます。
認知症の人は、2025年には700万人に上ると推計されています。
誰もが当事者になりえるわけで、本人や家族への支援の充実が、ますます重要となっています。」

和久田
「その支援の1つが、先ほどの保険というわけですね。」

松岡記者
「大府市の場合、認知症の人1人に対して、市が払う保険料は年間2,000円で、ほかの人の物を壊したり、けがを負わせてしまったりした場合、最大で1億円が補償されることになっています。」

和久田
「家族ではなく、市が負担してくれるんですね。」

松岡記者
「少しの負担で認知症の人や家族が安心できるので、ほかの自治体でも導入する動きが出ています。」

高瀬
「認知症を理解して支えていこうという姿勢が、『徘徊』という言葉を使わないというところからも伝わってきますね。」

松岡記者
「認知症の人への言葉が、誤解や偏見を助長し、本人や家族を苦しめてきたという歴史があります。
大府市は、鉄道事故の裁判をきっかけに、認知症への正しい理解を広めることで、本人や家族が暮らしやすい地域を作ろうとしているんです。
こうした行政の取り組みに加えて、私たち一人一人が、認知症の人に優しく声をかけ、見守っていくことが何よりも大切ではないかと感じました。」

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