山屋記者
「平成は、女性にとってどういう時代だった?」
作家 林真理子さん
「すごくいい時代だった。
働くのが当たり前になっていき、社会も完備されていった。
不備なことはいっぱいあるが、働くお母さんにも優しくなっている。」
今年(2018年)、デビュー36年になる林真理子さん。
小説やエッセイなど、これまで200あまりの作品を執筆してきました。
恋愛や歴史など、さまざまなジャンルに挑んできましたが、一貫して描いてきたのは、「女性たちの姿」です。
平成に入ってライフスタイルが様変わりする中で、仕事にも恋愛にも全力で打ち込む女性を見つめてきました。
そんな林さんに、女性に関する流行語をもとに話を聞きました。
林真理子さん
「『女子会』。」
平成22年の流行語、「女子会」。
女性だけで集まって、気兼ねなくお酒を飲む。
そんな姿に林さんは、平成の女性のたくましさを感じていました。
林真理子さん
「『オヤジギャル』という言葉も出てきて、飲み屋で女の子たちが、くだを巻いていてびっくりした、それも普通の世の中になって。
私、いいことだと思いますよ、女の人たちがお酒を飲みながら本音を言い合うというのは。
その女子会を生んだのは、オヤジギャルだと思うんですよ。
この大きな流れは、バブルのときからあった。
バブルのときに最盛期を迎えた、“女が自分が払うものじゃない、男に払わせてこその女だ”というのが、なくなったのかもしれないですね。」
次の話題は…。
林真理子さん
「『セクシャル・ハラスメント』。
私が昔いた広告業界なんて、卑わいなことを言われたり、触られたりするのは当たり前の世界で。
それはそういうもんだと思っていたんですよ、男社会で働くってことは。
うまくかわして、笑いで返してっていう。
それは間違ってたなと本当に思いますよね。」
山屋記者
「『パワハラ』『セクハラ』『マタハラ』。
平成ってハラスメントだらけだったのか、それともそれが認識されるようになったのか?」
林真理子さん
「認識されるようになったのだと思いますよ。
“嫌なことは嫌なんだ”とはっきり言える世の中になった。」
平成の時代は、人と比較するよりも、「自分らしく生きる」という価値観が広がりました。
「がむしゃらに頑張るというよりは、マイペースに頑張ってきた。
無難に楽しく生きたいなと思う。」
「なかなか努力も報われづらいのかなと。
ありのままに頑張りたい人も、ありのままに努力したくない人もいる。」
林さんが最も反応したのも、この言葉でした。
林真理子さん
「“ありのままで”、私にとって非常に大きなテーマ。
私は“ありのまま”を、わりとマイナスに捉える人間で。
こんなにだらしなく世俗に満ちて、なまけ者の私が、ありのままの私だと思っているので。
こんな私はいけないと思っているので、“ありのままの私で生きていきたい”という言葉がよく分からない。
どういうふうに、何でみんながこんなに取り上げるのかっていう感じ。」
そして林さんは、こんな表現で“ありのまま”という価値観を分析しました。
林真理子さん
「現状満足していたら、人間って何の進歩もないんじゃないかなって。
若いときは飢(かつ)えた気分で、“このままでは嫌だ”と、このままの私だったら、絶対もう生きている価値もないっていうぐらい悩んで、自分をとことん見つめる作業を、今の人はしてないんじゃないかと思います。
自分って一体、どれだけの価値がある人間なんだろうって。
じゃあ、これっぽっちだったら、“もっと何か身に付けたい”“こんなところにいるの嫌だ”と思わないと、ちょっと私は残念だなと思います。」
山屋記者
「やっぱり努力をしたくないというか、できなかったり?」
林真理子さん
「そうそう、それそれ、それなんですよ。
“あんなおばさんみたいに頑張らなくたっていいよね”とか、そういうふうに、“私たち、十分幸せだもんね”とか。
いいじゃん、いいじゃんって、おいしいスイーツ食べて、インスタやって、みんなから『いいね』って言われて、“これ以上のこと、何を望むの”みたいな女性も多いと思いますけれども、ひとこと言いたいのは、中年になるっていうことを考えなって。」
30年以上にわたって、女性たちの心をつかんできた林さん。
平成の次の時代を担っていく世代に伝えたいメッセージがあります。
林真理子さん
「すごく古くさい言葉になるけれども、“努力と野心”ですよね。
これに尽きると思いますよ。」
山屋記者
「報われないかもしれない努力はしても…。」
林真理子さん
「(努力は)しなければいけないと思う。
一生懸命努力した人には、風格なようなものが備わる。
ほかの人と違う輝きを持っているはずだから、それはいろんなことで生かせるんじゃないかなって、私は思ってるんですけどね。」
山屋記者
「努力することで何か見えてくる?」
林真理子さん
「人間って、いかにいい個性を身に付けて魅力的な人間になるかというのが、一生かけてやる作業だと思ってるんですよ。
そのための努力をしなかったら駄目だと思う。
努力をした人と、しない人は本当に差が出るということを、大きな声で言いたい。」