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2018年12月9日(日)

ノーベル平和賞 ムクウェゲ医師 紛争下の性暴力と闘い続けて

小郷
「けさは、ノーベル平和賞を受賞した医師のデニ・ムクウェゲさんに注目します。」

新井
「ムクウェゲさんが活動するコンゴ民主共和国は、金や携帯電話に使われるレアメタルなどの鉱物資源が豊富で、この資源をめぐって、激しい紛争が続いています。」

小郷
「こうした紛争の中で、武装グループが力を誇示し、人々を屈服させる手段として繰り返されてきたのが、女性への性暴力です。
ムクウェゲさんは、この凄絶な性暴力と闘い続けてきました。」

ノーベル平和賞の医師 紛争下の性暴力と闘う

コンゴ民主共和国の東部にある病院です。
ここを拠点にしたムクウェゲ医師の活動がドキュメンタリー映画に記録されています。

ここには、性暴力を受けた女性たちが毎日のように運ばれてきます。
体と心を深く傷つけられた上、周囲から見捨てられ、行き場をなくす女性も少なくありません。

デニ・ムクウェゲ医師
「彼女たちは皆、過酷な境遇に苦しんでいる。
家族から見放され、夫に逃げられた者もいる。
深い傷を負い、孤独な自分と向き合ってる。」

ムクウェゲさんは外科医として、これまで5万人以上の女性たちを救ってきました。

デニ・ムクウェゲ医師
「強姦時に負った傷が見えるだろ。」

「肛門と膣がつながってしまってるのか?」

「膣を再形成するんだ。」

現地では、何が起きているのか。
先月(11月)、コンゴに隣接するウガンダ西部の難民キャンプに取材に入りました。
紛争から逃れてきた人々であふれかえっていました。

「男は2人の女の子を連れ去ったあと、お母さんを撃ち殺したの。」

「彼らはお父さんを縛りつけて、お母さんと子どもたちに暴行した。」

今年(2018年)1月に被害にあったという女性が、コンゴの状況を伝えたいと、重い口を開いてくれました。
クローディナ・ウイマナさん、28歳です。
自宅に押し入った4人組によって夫は殺害され、自身は残忍な性暴力を受けました。

クローディナ・ウイマナさん
「レイプされているとき、このまま殺されると思いました。
なんと言ったらいいか…死ぬほど恐ろしかった。
今でも家の外を人が通るたびに、恐怖が襲います。」

ムクウェゲさんの活動は、傷ついた体を治すだけではありません。

デニ・ムクウェゲ医師
「こんにちは。」

心にも深い傷を負った女性たち。
回復までには長い時間が必要です。
ムクウェゲさんは、女性たちと直接話し合う場を持ち、精神面での支えも大切にしてきました。

デニ・ムクウェゲ医師
「もう大丈夫だ。」

デニ・ムクウェゲ医師
「君は何を失ったと思っているんだい?」

「名誉です。」

デニ・ムクウェゲ医師
「君が暴行されたときに失ったものは、取り戻すことができない?
それは違う。
誰が何を言おうと私たちは君の味方だよ。」

一向になくならない、女性たちの被害。
ムクウェゲさんは世界に向けて、悲惨な実態を繰り返し訴え続けてきました。

デニ・ムクウェゲ医師
「被害を受けた女性に、私は妻の姿を重ね合わせました。
強姦された母親に自分の母の姿を、そして子どもたちには自分の娘を重ねた。
黙っていられない。」

残忍な性暴力と戦い続けた20年。
その歩みに、今ようやく光が当たろうとしています。

報告:別府正一郎(ヨハネスブルク支局)

戦場の兵器と化す 女性への性暴力

小郷
「アフリカの紛争地を長年取材してきた別府支局長が、平和賞の授賞式が行われるオスロにいます。
ムクウェゲさんの受賞は、目を背けてはいけない紛争地の現実を世界に突きつけたといえますね。」

別府正一郎支局長(ヨハネスブルク支局)
「しかもそれは、ようやくといったところかもしれません。
今年は、国連の安全保障理事会が紛争下の性暴力について、戦争犯罪であり、平和を脅かすとした決議が採択されてから10年にあたります。
しかし状況は改善せず、今に至っています。
取材で、難民キャンプの女性たちが、いずれも涙ながらに語る被害の実態のむごさに、胸が締めつけられました。
卑劣な行為は、敵対する勢力に恐怖を与え、住民を屈服させるために行われていて、まさに戦場の兵器となっています。
女性たちを孤立化させることで、地域社会の崩壊そのものをねらっています。
それだけに、被害に遭った女性たちの心身のケアとともに、その後の社会復帰も大きな課題になっています。」

紛争被害を受けた女性たち 社会復帰への支援も

ムクウェゲさんが活動する地域では、女性たちの暮らしを再建する取り組みも進められています。
ここで10年以上にわたり活動してきた、小川真吾(おがわ・しんご)さんです。

深い傷を負い、孤立する女性たち。
生きる術を見つけてもらおうと、職業訓練施設をつくりました。
ここでは、現地で需要の高い洋裁技術などを女性たちが身につけることで、自立できるよう支援しています。

女性
「近所の人からは被害のことを嘲笑され、仕事に就くことはできませんでした。
(自分の収入で)家を建てることが目標です。」

これまで受け入れた女性は、120人以上に上ります。
訓練を終えた後も、1人1人を見守り続けています。

NPOテラ・ルネッサンス 小川真吾さん
「ムクウェゲさんが手術をした、紛争被害を受けた女性たちの手助けを続けてきたので、ノーベル平和賞を取られて、これからも継続的に、光のあたらなかったコンゴ東部の女性たちに関心を持って、そこに光を当て続けていってほしいと思います。」

報告:吉岡礼美(おはよう日本)

求められるのは“知ること”

新井
「女性たちの支援とともに、被害そのものをなくしていくためには何が求められているのでしょうか?」

別府支局長
「この問題は、私たちに決して無関係ではありません。
武装グループが奪い合っているのは、金やダイヤモンド、それに携帯電話にも使われている鉱物資源です。
われわれの生活の中にも流れ込んでいます。
にもかかわらず、国際社会の支援は不十分です。
国連は、PKOの部隊をコンゴに派遣し、人道支援活動も展開されていますが、資金も装備も足りていません。
さらに、世界各地の紛争地で性暴力の被害は広がり続けています。
被害の根絶と紛争の歯止めにつなげていくためにも、まずは何よりも、その実態を知ることが求められています。
それこそがムクウェゲさんが世界に訴えてきたことで、『今回の賞は性暴力の被害に遭った全ての人たちに贈られたものだ』と語る真意も、まさにそこにあるのだと思います。」

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