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2018年11月25日(日)

“若き才能”が競い合う 密着 ピアノコンクール

3年に1度開催される「浜松国際ピアノコンクール」。
昨日(24日)までのおよそ2週間、世界中から集まったピアニストたちが、華やかな闘いを繰り広げました。
若き才能たちが競いあった舞台裏を見つめました。

小郷
「スタジオには、林田アナウンサーです。」

林田
「今回10回目を迎えた『浜松国際ピアノコンクール』。
若手ピアニストの世界への登竜門として知られています。
すでにプロとして活躍している人や、ほかのコンクールの受賞者も参加する、権威あるコンクールのひとつなんです。
今回は特に注目されたんですが、その理由がこちら。

去年(2017年)、直木賞と本屋大賞を受賞した小説『蜜蜂と遠雷』のモデルになったからなんです。
小説では、コンクールを舞台に、競いあう若者たちの夢や葛藤が描かれています。
私も取材に行ってきたのですが、小説さながらに、人生をかけて挑むピアニストたちの姿がありました。」

若きピアニストたち それぞれの思い

今月(11月)8日。
世界各地から、88人の若きピアニストが静岡県浜松市に集まりました。
優勝者には、国内外を1年かけて回るコンサートツアーが用意されています。
世界に名を売る絶好のチャンスです。

2016年パデレフスキ国際 第1位 イ・ヒョクさん
「(入賞したら)日本はもちろん、世界のコンサートで演奏するチャンスがもらえる。
僕たちピアニストはたくさん演奏し、多くの人に聴いてもらいたい。
だからこのコンクールに出場する。」

今回、特別な思いを抱いて出場する人がいました。
安並貴史(やすなみ・たかし)さん、26歳です。
3歳でピアノを始めた安並さん。
幼い頃からピアニストになることが夢でした。
東京音楽大学に進学し、修士課程を首席で卒業。
将来を期待されていました。

しかし、卒業後に選んだのは、プロのピアニストではなく講師の道でした。
子どもたちを指導する中で、次第にある思いが芽生えたといいます。

安並貴史さん
「音大生とか小学生とか、さまざまな方に教える中で、それがすごく自分の演奏に跳ね返ってくる。
“自分はどうなんだろう”“このまま今、教えていていいんだろうか”“より高みを目指さなくていいのだろうか”という気持ちが心の底にあり続けて、“もう一度”と。」

今回のコンクールで、ひときわ注目されていた出場者がいます。
「ピアノ王子」とも言われる牛田智大(うしだ・ともはる)さん、19歳です。

6年前の牛田さんの映像です。
当時、日本人として最年少の12歳でCDデビュー。
その愛らしさと、高い技術で、多くの人々を魅了しました。

牛田さんが師と仰ぐのは、日本を代表するピアニスト・中村紘子(なかむら・ひろこ)さん。
生前の中村さんから言われた言葉が、今も心に刺さっているといいます。

牛田智大さん
「“才能はあるけど実力はない。おちゃらけた方向に走らないで、まっすぐ正統派のピアニストとしての道を歩くように”。
今までの自分を変えなきゃいけない。」

「神の音楽」「内に秘めた力強さ」 選んだ曲は?

1次予選が始まりました。
安並さん、長いキャリアで培った、表現力豊かな演奏を披露します。

牛田さんは持ち味の高い技術を見せつけ、ともに1次予選、そして、2次予選を突破。
88人いた出場者は、12人に絞られました。
続く3次予選は、本選に進む6人を決める大一番。
牛田さんは、モーツァルト、シューベルト、リストの難易度の高い曲を演奏することにしました。

牛田智大さん
「神の音楽みたいな、モーツァルトから始まって、シューベルトも本当に神と対話するような、この世のものとは思えないような美しさを持った作品。」

世界の一流の指導者に教えを請うなど、これまで準備を進めてきました。

「参加しすぎなんですよ、音の中に。」

一方の安並さんも大学時代の恩師を訪ね、演奏する曲の完成度を高めていました。

「音の長さとか、音の切れ目とか、もっと自分の言葉にして語らないと。」

3次に向けて選んだのは、ドホナーニというハンガリーの作曲家の曲。
派手さはないものの、内に秘めた力強さに共感し、勝負をかける最後の曲にしました。

安並貴史さん
「ちょっと内に秘めるような、直接語りかけないけれど、そっと伝えるような温度が自分にしっくりくる。
なるべく細部まで伝わるように、細かく丁寧に演奏したい。」

3次予選 ファイナリストは?

ファイナリストに残れるかどうか。
3次予選です。

リストのピアノソナタ。
ソナタの最高峰と言われ、幅広い音域を、正確かつ素早い指の運びで弾く、高い技術が求められる曲です。

ピアノ講師からプロを目指す安並さんです。
前半の曲を弾き終え、次はいよいよ勝負のドホナーニ。

しかし安並さん、舞台袖へ引き上げてしまいます。
あえて間をつくることで、曲を印象づけようという戦略です。

安並貴史さん
「きっと“どんな曲だろう”と思われている。
物語の1ページをゆっくりめくる感じで、1つのストーリーとして思い浮かべられるような。」

静かな旋律の一音一音に、繊細な表現を込めました。
演奏を終え、この表情。

「本選で演奏していただく方々のお名前を、演奏順に発表いたします。」

「タカシ・ヤスナミ。」

「トモハル・ウシダ。」

2人揃って本選進出を決めました。

夢の舞台へ 結果は…?

本選はオーケストラとの共演。
夢の舞台です。

安並貴史さん
「ピアノとともに生き抜こうと、より心の中で大きくなった、何倍にも。
これから伸ばしていくところが見つかったので、ピアニストとしての自信は(ついた)。
受けてよかったと思います、このコンクール。」

安並さんは、6位入賞を果たしました。

牛田さんは、2位入賞。
観客の投票で選ばれる「聴衆賞」も獲得しました。

牛田智大さん
「不思議な雰囲気がある、コンクールの舞台って。
聴衆と一緒に音楽に向かっていくような感覚。
“正統派”というのは、作品にしっかり向き合って、誠実に音楽をやりなさいということだった。
大きなスタートラインになる場所だった。」

取材:城山海人(NHK静岡)

さらなる高みへ 挑戦は続く

新井
「やはり、1位をとるのは難しいことなんですね。」

林田
「入賞すること自体が、とても難しいことなんです。
というのも、このコンクールの入賞者がショパンコンクールで優勝するなど、若手ピアニストにとっては次のステップにつながるんです。
安並さんは入賞したことで自信をつけ、ピアノ講師を続けながら、またコンクールに挑戦したいとおっしゃっていました。
牛田さんは、聴衆賞をとったことで、ファンに喜んでもらえるよう、さらに高みを目指したいと話していました。」

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