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2018年11月20日(火)

死産・流産 母親に必要なケアは

和久田
「きょうは、死産や流産を経験した母親のケアについて考えます。
精神的な負担を少しでも和らげるための適切なケアを進めるには、何が必要なのか。
現場からの報告です。」

順調だと思っていた矢先

報告:北森ひかり(NHK静岡)

今年6月、息子を死産した女性です。
妊娠6か月、順調に育っていると思っていた矢先の突然の出来事でした。

女性
「夜間救急の方に行って自分の処置をしてもらったあと、朝方に病院の先生に診てもらったら、心音が聞こえてなくて、亡くなっているって言われて。
昨日まで生きてたじゃんって。」

つらい心境に陥った女性を支えたのは、出産直後に、亡くなった息子と一緒に過ごす時間を設けてくれた、病院の対応でした。
女性が、親子の時間を過ごした病室です。
体に合わせた産着とおむつ。
病院が用意してくれました。


抱っこをしておっぱいをあげ、オムツを替えたり、一緒にテレビを見たり。
見送るまでの4日間、本来母親が生まれたばかりの赤ちゃんにすることほぼすべて、やりました。

小さな体へのいたわり。
息子への愛情がどんどん深まっていきました。
息子との「親子の絆」を確められたことで、4か月たった今、女性はようやく落ち着きを取り戻しています。

女性
「ほかの人から見たらすごく変な光景なんだけど、死んでいる子と一緒にテレビ見てるとか。
死んじゃっているけど、ちゃんとだっこできたっていうのは、私の中で、すごいキラキラの思い出になった。」

「親子の絆を確認する」

「親子の絆を確認する」ケアの方法を提唱したのは、静岡県立大学の太田尚子教授です。
流産や死産を経験した母親を長年研究してきました。
例え死産であっても、生きている子どものように母親として接すれば、次第に愛情が深まり、母親である自覚が生まれるといいます。
その上で、太田教授はその「自覚」こそが、前向きになれる力だと示しています。

静岡県立大学 太田尚子教授
「私が母親になったって、その時に実感できる瞬間だと思います。
母親になることの、その一歩につながっていく。
そして前に進んでいく。」

つらい気持ちをはき出せる場

さらに、太田教授は、悲しみを癒やすには、出産直後の病院でのケアに加え、苦しい胸の内に寄り添い続ける仕組みも不可欠だと言います。
現在、こうした傾聴のケアを担っているのは、「当事者の会」「遺族の会」のような自助グループがほとんどです。

この団体では、3か月に1度、当事者どうしが語り合う「おはなし会」を開いています。
この日訪れたのは、4か月前に娘を死産した夫婦です。

夫婦(妻)
「エコーをしてもらったら、先生も代わる代わる診たりとか。
ああ、何かあるんだなって思ったら、もう本当に心臓とかも全然動いてない。
産声が聞きたかったです。」


元気な赤ちゃんを見たり、ベビー用品を見たりするたびに、抑えられなくなるつらい気持ち。
はき出せる場を探していました。

夫婦(妻)
「無事に産まれれば、新生児訪問とか、頼れる機関はたくさんあるけど、無事に産まれなかったら頼れるところがないので。
そう思うと、こういう会とかが死産しちゃった人の希望だなと実感しました。」

アンズスマイル 押尾亜哉さん
「受け止める先がないので、自分の気持ち押し殺して生きている人がいっぱいいると思います。
その先長いですから、まだ人生。」


夫婦(妻)
「おはなしできてよかった。
簡単に話せる場所がもっと増えてくれたら。」

すべての人に適切なケアを

和久田
「取材にあたった静岡放送局の北森記者です。
退院後のケアを担っているのは、規模の小さい団体なんですね。」

北森記者(NHK静岡)
「はい。
ケアの多くは、NPOなどの支援団体が独自の取り組みで行っているのが現場です。
すべての母親をケアできる体制にはなっていません。
こちらは死産や流産を経験した母親の人数です。」


高瀬
「減少傾向にあるとはいえ、いまも2万人を超えているんですね。」

北森記者
「そうです。
医療の進歩で減ってはいるのですが、専門家によりますと、適切なケアを受けられなかった場合、自分を責め続け、次に妊娠してもまた死産してしまうのではないかとPTSDに陥ったり、出産しても愛情を注げなくなったりする深刻なケースもあるということです。」

和久田
「すべての人に適切なケアが必要ですね。」

北森記者
「そうですね。
日本では家族や身近な人たちの支え合いによって救われてきた母親もいる一方で、周囲のひとに『忘れた方がいい』とか『次の子どもを産めばいい』などの言葉をかけられて、こうした言葉で母親が傷つき、より大きなダメージにつながることがわかってきました。」

高瀬
「そうなると行政や医療関係者といった専門的な機関が、関わったサポートも必要になってくるのではないでしょうか。」

アメリカ・イギリスでのケアの仕組み

北森記者
「実は、欧米では30年ほど前から、国によるケアの仕組みを作っています。
アメリカでは、死産から4週から6週の時に面接を行い、精神的な負担のレベルに応じて専門機関につなぐという仕組みがあります。


また、イギリスでは、病院が当事者と医療従事者などで作る支援団体を紹介し、24時間365日、いつでもケアにつなげられる仕組みがあります。


そして専門家は、日本でもケアの体制の充実が必要だと指摘しています。」

聖路加国際大学 看護学部 堀内成子学部長
「(イギリスでは)すべての国民は子どもを亡くした場合には、その後のケアが受けられる。
遺族ケアを保健医療の中できちんと位置づけることが必要。」

北森記者
「早期にケアをすることで、母親の精神的な負担を軽減できることは、社会にとってもいいことだということです。
日本でも国によるケアの仕組み作りを急いでいく必要があると思います。」

「不安定な状態」をまず理解

高瀬
「すぐにその体制作りをするのはなかなか難しいとは思いますが、身近にこうした方がいたら、どういうふうに接していく必要があるのでしょうか?」

北森記者
「母親が精神的に不安定な状態にあるということを、まず私たち周囲が知ることが必要です。
元気になったと思ったら、また悲しんだりということもあります。
悲しんでる時は寄りそってあげることが必要です。
取材で感じたのは、子を亡くした母親の中には、自分の気持ちを誰にでも打ち明けられる人ばかりではないということです。
ケアの重要性に関心を持ち、『あそこに当事者の会があるよ』といった情報提供をしてあげることも必要だと思いました。」

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