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2018年9月25日(火)

相次ぐ“蘇生拒否” 救急現場で何が

高瀬
「人生の最期をどう迎えるのかをめぐって、いま、ある混乱が起きています。」

救急隊が板挟みに

命を救うことが使命とされてきた救急隊。
しかし今、自宅で心肺が停止した人の家族などから、蘇生や搬送を拒否されるというケースが相次いでいます。
その数、全国で年間およそ2,000件に上っています。

東京消防庁 担当者
「心肺蘇生をやめてほしいと、救急隊が板挟みになるということは確かにあります。」

相次ぐ「蘇生の拒否」。
いったい何が起きているのでしょうか。

蘇生中止に母親の意思

去年1月に94歳で亡くなった、近藤悦子さん。
生前、人工呼吸器を付けるような延命治療は望まず、自宅で最期を迎えたいと話していました。

近藤茂代さん
「『延命措置は嫌だ、そのまま寿命を受け入れる』って。」

ある日、母親の容体が急変。
ベッドで、意識が無い状態で見つかりました。
ところが、娘の茂代さんは、
とっさに119番通報をしてしまいました。

近藤茂代さん
「それはそれはびっくりして。
あわてて救急車を呼んじゃったんですよ。」

救急隊員は到着後、すぐに心臓マッサージを開始。
病院へ搬送する準備を始めました。
その時、母親の意思を思い出した茂代さんは、救急隊員に蘇生を中止するよう求めました。

近藤茂代さん
「我に返ったわけです。
安らかに、このまま受け入れる約束だった。
やめてくださいと、腕を引っ張ったと思います。」

そこに、主治医が駆けつけ、救急隊員に回復の見込みがないことを説明。
何とか希望通り、自宅で最期を迎えることができました。

救急隊「搬送をやめる理由がない」

一方、本人の意思に反して、病院に運ばれ、自宅で最期を迎えられなかった人もいます。
名古屋市の医師・神谷悦功さんです。
2年前、難病を患っていた77歳の父親が自宅で倒れました。

神谷悦功さん
「ここに父が倒れていて、シャワーが出ている状態でした。」

心肺が停止し、回復の見込みがないことがその場で分かりました。
しかし父親の主治医と連絡が取れず、その後、救急隊員が駆けつけました。
神谷さんは、蘇生や搬送は必要ないと説明しましたが、隊員は『搬送をやめる理由がない』などとして、父親を病院に運びました。
父親はその後、亡くなりました。

神谷悦功さん
「(救急)隊長のような方はちょっと困った顔をしていて、『そちらの事情も分かるが(蘇生や搬送を)やめる訳にはいかない』と。
息子の立場から言えば、(父親に)申し訳ない。」

患者や家族の希望聞き取る取り組み

現場の救急隊員からは、こうした蘇生を拒否するケースにどう対応すべきか、戸惑いの声が多く出ています。

東京消防庁 救急部 渡邉哲也計画係長
「救急現場において、救急隊は命を救う“救命”を使命としています。
心肺蘇生をやめてほしいと、救急隊が板挟みになることは確かにあります。」


こうした混乱を防ぐためには、どうしたら良いのか。
今、医療の現場で、患者や家族の希望を細かく聞き取る取り組みが始まっています。

この日、医師は88歳の男性患者の自宅を訪れました。

医師
「心肺停止で発見された時に、どんなお考えか。」

  

そこで患者に、ある書類を手渡しました。
心肺が停止し、回復が見込めない時に蘇生を望むのかどうかなどを記入します。
こうした書面と、主治医の判断を救急隊に示すことで、蘇生の中止をはっきりと求めることができるのです。
この男性は、蘇生を望まないと書きました。

患者
「もう思い残すことはないので、苦しまず、みんなに迷惑かけない形で死ねれば。」

一方で、患者や家族の中には、可能な限り治療を続けてほしいと願う人もいます。

家族
「もう少し一緒の時間を持てていうことになるのであれば。
心肺停止になっても、蘇生によって戻るのであればお願いしたい。」

医師
「今決めても、書き直すことができますから。」

考えは時間とともに変わることがあるため、医師は定期的に希望を聞き取ることにしています。

新しい救命の考え方

高瀬
「取材にをした金記者とお伝えします。
書面で残すことが重要とのことなんですが、中には自分で意思を示すことができない方も多くいらっしゃいますよね。」

金倫衣記者(社会部)
「そうですね、ですから元気なうちに、家族や主治医とよく話し合って自分の意思を確認しておくことが重要になってきます。
救急隊は独断で判断できないため、こうした取り組みが必要なんですが、実際に自分の意思を書面に残している人は、わずか3%しかいないという国の調査結果もあります。
一方、こうした書面がなくても、蘇生や搬送を中止できるような仕組みを導入した消防もあります。
その1つが、埼玉県の所沢市などを管轄する消防局です。
ここでは、独自の手順書を作っています。
患者の心肺が停止している場合、主治医の指示と、その場での家族のサインがあれば、事前の書面がなくても中止できるようにしました。」

埼玉西部消防局 細田和博救急隊長
「家族や本人の希望したことが一番良いと思うので。
延命治療をしない(希望)があれば、家族の意向に沿った活動をしていきたいと思っています。」

和久田
「こうした手順書まで示すというのは、まだごく一部はなんでしょうか。」

金記者
「はい、そうなんです。
埼玉の取り組みも、決して蘇生の中止を促すものではなく、あくまで、患者や家族の希望に沿った活動を行おうとするものです。
専門家は、全国的な仕組み作りが、今後重要になってくると指摘します。」

日本臨床救急医学会 坂本哲也代表理事
「このまま人口構造では、高齢者が増えいくので、今のままの体制であれば、さらに(現場の混乱が)増えてくると思います。
これまでは救急隊が現場に行くと、救命処置に100%全力を尽くすという選択肢しかなかった。
蘇生を中止するような手順を選ぶことができる、これがこれからの新しい救命の考え方かと思います。」


金記者
「自分の人生の最期をどう迎えるかは、本人の意思が何より尊重されるべきです。
私たちひとりひとりがよく考えていくことが重要だと思います。」

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