これまでの放送

2018年9月4日(火)

ブランド果実 海外流出問題

高瀬
「続いては、日本の農業技術の海外流出の問題についてです。」

和久田
「こちらは、今が旬の『シャインマスカット』です。
茨城県にある国の研究機関、農研機構が10年かけて開発しました。
甘く皮ごと食べられるため人気が高まっています。」

高瀬
「このシャインマスカットが今、中国で急速に栽培・販売が広がっています。
さらに、日本産を装ったブドウも出回り、中国などに輸出を進めようとしている国内の産地の脅威になっています。
実態を取材しました。」

日本産を装う高い品質のマスカット

リポート:吉岡桜子(NHK水戸)

最近出回っていることが分かった、日本産を装ったシャインマスカットです。
岡山県がブランド化を進める「晴王」との表示がありますが実は、中国で作られた偽物です。

香港にある日本産の果物を扱う大手貿易会社です。
こうした中国産のブドウの中には日本産と遜色のない品質のものも出始めていると言います。

日本貿易振興機構 担当者
「こんなに早く高いレベルの商品が市場に出回るのは驚き。」

  

果物を扱う貿易会社 スタッフ
「中国産のシャインマスカットでも、商売、勝負ができると感じて、中国産に代えている(販売)業者が増えているのかな。」

中国産シャインマスカット「脅威」

中国産のシャインマスカットが市場に出回ると日本産の輸出にも影響を与えるのではないかと懸念されています。
その「晴王」を作っている岡山県の農家を取材しました。

生産農家 室山浩二郎さん
「晴王ブランドで売ってます。
甘いブドウができました。」

室山浩二郎さんです。
中国産の偽物の「晴王」の包み紙を見てもらいました。

生産農家 室山浩二郎さん
「ちょっと腹立たしい思いです。」

国内市場が年々縮小していく中で「晴王」のブランド化を進め、輸出に活路を見出そうとしていただけに憤りを感じていました。

生産農家 室山浩二郎さん
「海外の消費者が(品質が)同等であると判断したら、価格競争になる。
価格低迷が起きるかな。」

「脅威ですか?」

生産農家 室山浩二郎さん
「脅威です。」

中国のスーパーでは…

中国産のシャインマスカット。
どれだけ生産と販売が広がっているのか。
富裕層が利用するスーパーです。
中国で栽培されたシャインマスカットが山積みに。
1房、68元、日本円で1,000円あまりと、日本産の3分1ほどの値段で売られていました。
次々に売れていきます。

「今後も買いますか?」

中国の消費者
「はい、ずっと買います。」

中国の消費者
「おいしいから、いつも中国産を食べています。
日本の果物は高いから。」

“シャインマスカット元年”

次に向かったのはシャインマスカットの生産が盛んな河南省の農園です。
この農園の栽培面積は、4ヘクタールと日本の平均的な農園の8倍以上の広さがあります。
年間50トン近くを生産していますが、作れば作るほど売れることから、さらに規模の拡大を考えているといいます。

生産者
「収入は増えた。
うまくいけば5倍くらいになるかもね。」

  

シャインマスカットの栽培技術の普及を進める専門家までいることも分かりました。
この男性、実は去年(2017年)中国各地の生産者が集まって設立された、団体の幹部のひとりです。
団体では、最新の生産技術などを共有し、生産量と品質を上げようとしているといいます。

生産者団体 幹部 王耀光さん
「中国でのシャインマスカット人気は、ますます高まると思います。
栽培する人も増えています。
私たちは団体を設立した去年を“シャインマスカット元年”としました。」

なぜ流出? 中国での栽培広がる

日本で開発されたシャインマスカットが、なぜ、中国に流出したのか。
取材班は、中国でのシャインマスカットの栽培に詳しい専門家に事情を聞くことができました。

中国での栽培に詳しい専門家
「直接、日本の種苗屋さんから購入することは難しい。
大体は日本にいる人を通じて苗を購入したのではないかと思う。」

さらに取材を進めると、中国の生産者が日本のブドウ農園を訪れ、無断で苗を持ち帰るケースがあったことも分かりました。
シャインマスカットの苗が中国に最初に渡ったとみられるのは11年前。
今では、少なくとも24の省や自治区で栽培が広がっていたのです。

抜け穴 海外での品種登録

高瀬
「取材をした吉岡記者です。
中国でのシャインマスカットの広がりには驚きましたが、中国での生産・販売は違法ではないんですか。」

吉岡
「そうとは言えない事情があるんです。
キーワードは『品種登録』です。
品種登録とは、果物などを開発した人が種や苗の生産や販売などを独占できる権利を守る制度です。
この品種登録、国ごとに行わなければいけませんが、シャインマスカットを開発した農研機構は、元々国内での生産を想定していたため海外で登録していませんでした。
また、海外での品種登録は、少なくとも100万円以上コストがかかる上、国内での出願から6年以内と期限も決められています。
シャインマスカットの国内での出願は15年前なので、生産や販売を差し止めることができないのです。」

和久田
「こうした品種の流出をこれから防ぐには、どういったことが必要でしょうか?」

吉岡
「『農作物も知的財産』だということを忘れずに輸出を前提として品種登録を進める必要があります。
国は一昨年(2016年)から品種登録にかかる費用の一部を補助する制度を始めました。
政府は、農産物などの輸出額を来年(2019年)までに1兆円にする目標を掲げていますが、日本の市場が縮小していく中で『攻めの農業』を進めるためには、権利を守る意識を高める必要があると思います。」

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