これまでの放送

2018年3月2日(金)

教員の“仁義なき”争奪戦が起きる理由

和久田
「今日(2日)は、学校の教室からお伝えします。」

高瀬
「今日は、学校が今直面している深刻な問題を取り上げます。
先生役を務めるのは、文部科学省を担当する荒川記者です。
荒川先生、その問題というのは?」

荒川真帆記者(社会部)
「今日取り上げるのは『人手不足』に関するテーマなんですが、今、多くの学校では50代のベテラン教員が中心となっています。
しかし、50代の先生たちが大量退職する時期が迫る中、現場で起きているのが『先生の争奪戦』なんです。」

学校の中心を担う50代の先生

さて、こちらの先生。
年齢は55歳。
教員一筋32年のベテランです。
この日、後輩に卒業式の段取りを早く教頭と相談したらとアドバイスしていました。

「やっぱり早め早めにするべきだと思う。」

「(教頭に)今週中にお願いしますと見せたほうがいい?」

「できれば、大変でしょうけど。」

和久田
「さすがベテラン、行事の細かい段取りが頭に入っているんですね。」

荒川記者
「そうなんです。
50代の先生は、若手の指導はもちろんのこと、生徒指導、さらに校長・教頭との橋渡しもしてくれる頼もしい存在です。」

50代が全体の4割以上

注目してほしいのが、その数。
職員室で数えてみると、ここにも、ここにも…。

こちらの学校には全部で31人の先生がいるのですが、そのうち50歳以上が13人。
実に4割以上を占めています。
これは全国のデータでもほぼ同じ傾向なんです。

現在58歳の教員の卒業年が採用者数のピーク

和久田
「そもそも、なぜそんなことになっているんですか?」

荒川記者
「こちらをご覧ください。
全国の教員の採用者数の推移です。

赤が50代、黄色が40代、水色が30代、青が20代となっています。
見てほしいのは、こちらの50代。
採用のピークは現在58歳の人が大学を卒業した昭和57年で、3万5,400人余り。
しかしその後、採用数はどんどん減り、平成12年にはピーク時の5分の1の6,300人余りでした。
その後は徐々に採用を増やしていますが、まだまだ足りないのが実情です。」

退職者が少なく 少子化で 採用増えず

和久田
「なぜ、こんないびつな採用になったんですか?」

荒川記者
「今の30代、40代の先生の頃は退職者が少なかったこと、さらに少子化で、採用を増やす必要がなかったためです。」

定年を延長しても足りない

高瀬
「ベテランの先生たちがいなくなってしまったら大変なことになりますが、そもそも先生の定年って何歳でしたっけ?」

荒川記者
「基本的には60歳です。」

高瀬
「それを延ばすことはできないんでしょうか?」

荒川記者
「すでに再任用という形で、60歳を超えても働く仕組みはあります。
それでもまだまだ足りないのが実情です。
だからこそ、先生の確保は喫緊の課題なんです。
ただし、数だけ増やしても、ベテラン先生と同じような質が確保できるかは別問題です。」

高瀬
「つまり、子どもたちが受ける教育・授業の質が下がってしまうということなんですね。」

荒川記者
「そうなんです。
そこで今、現場では優秀な教員をめぐり、“仁義なき争奪戦”が始まっているんです。」

福岡が 東京や神奈川から 現職教員を引き抜きへ

去年12月。
福岡県教育委員会が行った採用試験。
その場所は福岡県ではなく、ずばり首都・東京。
これは初めての取り組みなんです。

ターゲットは「現職」の先生。
全国有数の教員数を誇る東京や神奈川から、いわば引き抜きを図ろうというのです。
受験者は51人。
このうち9割近くを合格とし、この春から早速、教壇に立ってもらうつもりです。

高瀬
「9割合格って、すごいですね。」

荒川記者
「ちょっと不安に思う人もいるかもしれませんが、受験者は東京でバリバリ働いている現役教員の方なので、そこは質の保証もされているというわけなんです。」

和久田
「受けに来ていたのは、どんな人なんですか?」

荒川記者
「受験した先生に話を聞くと、親の介護が必要になった人や、ふるさとで子育てをしたいなど、それぞれ理由を挙げていました。」

和久田
「即戦力になる教員がほしい教育委員会と、ふるさとに帰りたい先生の思いが合致したということなんですね。」

荒川記者
「ほかにも福岡県は、もともと30歳までだった採用試験の受験資格を、40歳へと段階的に引き上げました。
ついに今年度からは定年直前の59歳までとし、事実上、年齢制限を撤廃しました。
福岡で先生になりたい人たちが手を挙げやすいよう、制度も見直しているんです。」

奪う側と奪われる側 採用担当者の本音は?

高瀬
「しかしこれは、奪う側はいいですけど、奪われる側にとっては穏やかではないですよね。」

荒川記者
「その点について、それぞれの採用担当者に本音を聞いてみました。」

福岡県教育委員会
「確かに他県で経験された方を採用するということで、他県の教育委員会からはいい顔をされていないかと思う。
実力・能力を持った方を採用して採用者数を確保する、そこは最低限、譲れないところ。」

一方、奪われる側の担当者は…。

神奈川県教委
「新採用のころから一生懸命育ててきた先生方が、力をつけてきたところで他県に出ていってしまう状況については、正直残念に思う部分はある。
いちばん活躍できる年代が抜けてしまうと、学校運営上困る。
そのあと管理職になる人材が不足していくというところもある。」

全体の教員数は既定 自治体で抜本的解決は難しい

高瀬
「まさに“仁義なき”といった様相ですね。」

荒川記者
「今回取材した福岡県のほか、高知県も同じような採用試験を行っています。
どの県も同じような悩みを抱えていますから、こうした動きは今後、全国に広がっていくのではないかと思われます。」

和久田
「どこかが解決しても、別のどこかが問題になってしまうのでは困りますよね。」

荒川記者
「そのとおりです。
そもそも全体の教員の数というのは国の法律で決まっているので、この問題を自治体レベルで抜本的に解決するのは難しいと思います。
でも、こうした動きが過熱して、地域によって教育の質に偏りが出てはいけません。
先生たちに学ぶ子どもたちは住む場所を選べませんから、国も対策を急ぐ必要があります。
それでは、本日の授業はここまでとします。」

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