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2018年1月21日(日)

“医療的ケア”家族を支える施設はできたけど…

高橋
「まず、こちらの数字をご覧ください。
『およそ1万7,000人』。
これは、生まれつき重い障害があって、日常的にたんの吸引や、胃に直接栄養を送る『胃ろう』などの特別な対応、いわゆる『医療的ケア』が必要な子どもの数です。
医療技術の進歩で命を救える子どもが増えたこともあって、10年前の2倍近くに上っています。」

小郷
「『医療的ケア』は、医師や看護師など、専門の資格を持つ人以外は、研修を受けた家族に限って認められてきました。
しかし、こうしたケアを家庭で行うことは、家族にとって大きな負担となっています。
そんな家族を支えようと始まった施設が、今、厳しい運営に直面しています。」

“医療的ケア”必要な子ども 家族支える施設がピンチ

札幌市の小学1年生、関蒼生(せき・あおい)君です。
先天性の重い障害があり、呼びかけには反応するものの、筋力が弱く、体を思うように動かすことができません。



このため、自宅では、母親の友子(ともこ)さんがつきっきりでケアにあたっています。
たんを吐き出せないため、吸引を多い時には10分おきにしないと、呼吸が困難になってしまいます。
胃に直接栄養を送る「胃ろう」は、1日6回行います。

聞こえてきたのは、生後5か月の妹の声です。
蒼生君のほかに、2人の子どもがいます。
睡眠もまともにとれない日々です。

関友子さん
「ちょっとのことでも重症化しちゃうので、常にハラハラドキドキしている。
体調のコントロールは気を遣います。
こっち(妹)が泣いちゃって行かないと焦るし、そわそわするし。
訳がわからないです、毎日。」

そんな関さん親子の支えとなる施設が、去年(2017年)4月にオープンしました。
医療的ケアが必要な子どもを預かる、民間のデイサービス施設です。
子どもを預けられる時間は、午前9時から午後5時まで。
1日最大5人まで受け入れます。
人工呼吸器や、心拍数などを測る医療機器を完備し、看護師など専門のスタッフ7人が常駐しています。
蒼生君も週に1、2回、施設を利用できるようになり、家族の負担は大幅に減ったといいます。
この施設を立ち上げたのは、同じように医療的ケアが必要な子どもを持つ親たちです。

その1人、代表の宮本佳江(みやもと・よしえ)さんです。
宮本さんの2人の娘も、たんの吸引や点滴など、24時間のケアが必要です。
娘をどこにも預けられず苦労した経験から、自ら施設を運営することを決めました。

施設を運営するNPO法人代表 宮本佳江さん
「自分が望む支援が受けられなかったり、(受け入れ施設を)探し続けていても、希望のところが見つからない。
家族が困っている状況にあわせて、受け入れができればいいなと。」

しかし、オープンから1年足らずで、施設は運営の課題に直面しています。

施設を運営するNPO法人代表 宮本佳江さん
「一番経営が苦しかった時期の赤字がこれなんですよね。」

オープン以来、赤字が続いているのです。
赤字が最も多かった去年7月は、その額が56万円あまりに上りました。

施設の収入のほとんどは、国や自治体から支給される給付金です。
給付金は、利用した人の数に応じて決まり、1人につき、1日最大でおよそ2万円が入ります。
定員の5人が毎日利用すれば、ひと月の収入は必要経費のおよそ200万円を上回ると、宮本さんは考えていました。
ところが、その利用者の数が安定しなかったのです。
理由は、急な欠席です。

施設を運営するNPO法人代表 宮本佳江さん
「(利用者が)少なくなっちゃいました。
キャンセルが出て。」

医療的ケアが必要な子どもは体調を崩しやすく、入院することも多いため、利用の予約をしていても、直前にキャンセルせざるを得ないことがあります。
最も赤字が多かった去年7月は、定員の5人に達した日はわずか10日でした。
その結果、収入が大幅に減り、必要経費である200万円を大きく割り込んだのです。
現在は、毎月の赤字を、金融機関からの借入金で埋め合わせている状態です。

施設を運営するNPO法人代表 宮本佳江さん
「1週間で受け入れの子が1名、0名、2名という日もある。
赤字になりやすい。」

さらに宮本さんを悩ませているのが、支出の8割を占める人件費の高さです。
施設に通う子どもたちは、病状や成長の度合いもさまざま。

体調が急変することも多く、高度な専門性を持つ看護師が欠かせません。
パートも含めると、5人を雇っています。
急な事態に備え、看護師は施設だけでなく、送迎の際にも必ず同乗します。
労働時間を減らすことも難しいといいます。


また、体が動かせない子どもは、背骨が曲がったりするのを防ぐリハビリが必要です。
機能訓練を行う専門のスタッフが、それを担っています。



さらに保育士も雇い、医療的ケアだけでなく、工作や手遊びといった体験を通じて、成長を促すことも重要です。
こうした人件費に対しては、札幌市から来年度以降、補助金が出ることになっていますが、それも3年が限度。
このままでは施設を維持できなくなると、宮本さんは危機感を抱いています。

施設を運営するNPO法人代表 宮本佳江さん
「お母さんたちの状況もわかっていますし、それに今応えている状況なんですけど、このまま続けていけるのかどうかというのは、正直思います。」

息子の蒼生君を預けている、関友子さんです。
施設を利用するようになって、蒼生君の表情が生き生きしてきたことを実感しています。

関友子さん
「“いってらっしゃい”と言って送り出して、“おかえり”“ただいま”って帰ってきてくれること自体が当たり前のことだけど、私たちにとってすごく貴重な経験。
お母さんが一緒についていかなくても楽しんでくるよって、すごくいい表情して帰ってくる。」

施設の存在が、蒼生君のケアと、2人のきょうだいの育児を両立させる自信を与えてくれたという友子さん。
その存続を願っています。

関友子さん
「今となっては、なくてはならない場所。
なかったらたぶん、今以上に疲弊していた。
すごくかけがえのない場所です。」




小郷
「施設のオープン前から取材を続けてきた、北見放送局の楠本記者です。
運営、かなり厳しいようなんですけれども、家族にとっては本当に切実な問題、何とかならないんでしょうか?」

楠本美菜記者(NHK北見)
「一番の問題は、利用者の急なキャンセルに対する手当てがないことです。
今の制度では、国や自治体の給付金は実際にサービスを行った実績、つまり利用した人数に対してのみ支給されます。


これは、税金の無駄遣いを防いだり、施設側のサービスの質を向上させたりという理由でそうなっているんですが、急なキャンセルが起きやすいという特有の事情は考えられていません。
VTRで紹介したような施設は、5年前の法改正をきっかけに全国で350以上にまで増えた一方で、その多くが同じように赤字を抱えています。
1施設あたりの平均の収支は、年間でおよそ10%のマイナスというデータもあります。」

“医療的ケア”支援施設 運営難に国の対応は?

高橋
「こうした厳しい現状について、国はどう考えているんでしょうか?」

楠本記者
「厚生労働省の担当者は、利用者の数に応じた給付金が基本としながらも、施設の運営が厳しい状況は非常に認識していて、対策が必要だと話しています。」

厚生労働省 障害児・発達障害者支援室 三好圭室長
「当日や前日に急きょ体調が変わって、通いたくても通えなくなった例があるという声も聞いているので、施設に対して、看護職員を配置したことについて評価(給付金に加算)する。
暫定的、応急的な措置をとることによって、いっときも早く対応をしていきたい。」

高橋
「今の話、対策として、看護職員の配置に対して評価するということでしたが、これはどういうことなんでしょう?」

楠本記者
「今の仕組みでは、収入が利用者の人数によって大きく増減します。
このため、厚生労働省は、今年(2018年)4月に行われる障害福祉サービスの報酬改定で、まずは、新たに看護師の人件費について、給付金を加算する方向で考えていまして、施設の収入を安定させようとしています。
また、利用者の急なキャンセルについても考慮して、給付金を加算する方向で検討しているということです。」

小郷
「改正する方向ではあるんですね。」

楠本記者
「はい。
ただ、新たな給付金の額などはまだ示されていません。
現時点では、施設の運営にどの程度の効果があるかは、まだ不透明です。
宮本さんのように、子どもや家族を支えたいという思いを持って施設を立ち上げる人も増える中、現場の実態により即した仕組みになってほしいと思います。」

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