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2017年11月30日(木)

漫画で描く ペリリュー島の戦い

和久田
「こちらの漫画、『ペリリュー 楽園のゲルニカ』です。
今、3巻まで出版され、12万部を超えるヒットとなっています。
かつて手塚治虫も受賞した、『日本漫画家協会賞』にも選ばれた話題作です。
登場人物は、3等身のかわいらしい兵隊たちです。」

高瀬
「これまでの戦争アニメや漫画にはなかったキャラクターですよね。」

和久田
「舞台は、今からちょうど73年前の11月に組織的な戦闘が終結した、ペリリュー島の戦いです。
昭和19年、アメリカ軍は太平洋の島々を次々と攻略して日本が統治していたペリリュー島に迫ります。
アメリカ軍の猛攻撃を受け、総勢1万人の日本軍はほとんどが戦死。
太平洋戦争で最も凄惨(せいさん)な戦闘の1つでした。」

“ずっと考え続ける 想像し続ける”

リポート:高栁秀平(熊本局)

“こらーっ田丸っ、何をボケッとしとるっ!!
何度も言っとるだろっ、戦いはすでに始まってるとっ。”

“あれ?”

“何?”

“わーっ!あっ、足だーっ!”

“これが戦場…。”

この漫画の作者、武田一義(たけだ・かずよし)さん。
昭和50年生まれの42歳。
もともと戦争に深い関心を持っていたわけではありませんでした。
きっかけは2年前。
天皇皇后両陛下のペリリュー島訪問。
ここが太平洋戦争の激戦地であったことを、初めて知りました。

漫画家 武田一義さん
「戦争って極限状態だと思う、1つの。
そこにはやっぱり、人間のむき出しになるものというのが必ずあると思うので。
自分がペリリュー島のことを調べて、知ったことを描いていくというのは、多くの人にとって同じような、自分が知るという過程を知らせることができるだろうなと思った。」

武田さんは、現存するペリリュー戦の資料や映像を探しました。
その中で、日本兵はアメリカ軍の侵攻を遅らせるため、洞窟などに潜み、持久戦を展開したこと。
対するアメリカ軍は、島を焼き尽くす徹底的な爆撃を行ったことを知りました。

これは、生き残った兵士たちの証言テープです。

“どんどん敵が上陸する。
負傷者がどんどん増える。”

“戦車砲か何かでバーンって。
1発や2発じゃないんだから、雨のようにバラバラバラバラってきたんだから。
死体がごろごろしてんだよ。”

過酷な実態を描くに当たり、武田さんが意識したのは、読者が実際に戦場にいる感覚になれることでした。
気弱な主人公・田丸一等兵の目を通じて見えてくる、等身大の戦争。

“死にたくない、死にたくない、死にたくない”

敵の目をかいくぐり、夜の闇に乗じて洞窟に水を汲みに行った田丸たち。

“よーし、皆、3日分の水を持ったな。”

“はいっ。”

“全員で一斉に出るぞ。”

“お国を守るため死ぬ?
少なくともここのみんなは、死にそうなくらいのどが渇いて、でも水がなくて、水を手に入れるために死んだ。
こんなのあんまりだ。
うわああああああ!”

漫画家 武田一義さん
「僕が思うのは、昔の戦争にいた若い人も、今の自分たちも、本質的にはあまり変わらない人間だと思っていて。
自分が登場させた人物が本当にその場にいたら“どういう行動をするだろうか”“どういう判断をするだろうか”ということを、ずっと考え続ける、想像し続けるということが必要なことだと思う。」

島にいた日本軍は、ほぼ全滅。
終戦後、最後に帰ってきたのはわずか34人でした。

生還者から聞く ペリリュー戦の実態

武田さんが、かねてから話を聞いてみたいと思っていた人がいます。

土田喜代一(つちだ・きよかず)さん、97歳。
ペリリュー島で生き残った34人の1人です。

土田喜代一さん
「私はね、ここで見張りをしてたんです。
これですね、頂上で見張りをやっていた。」

土田さんは戦争が終わったことも知らず、およそ2年に渡って、洞窟で潜伏生活を続けました。
仲間の大半が徹底抗戦を主張する中、土田さんは、親しくしていた上官とひそかにアメリカ軍への投降を計画していました。
しかし、その計画は漏れ、国への裏切りだと考えた仲間から、2人は突然襲われたといいます。

土田喜代一さん
「“私の考えでは、どうも戦争が終わってるような気がするんですがね”って(上官に話すと)、“お前もそう思うか”って。
ぼーっと南十字星見て話していると、突然バンって、おそらく30センチくらいのところから、(上官の)ここを撃ったんじゃないかと思う。
“土田、わかったか”って言われて、どうやって漏れたんじゃろうかって。
“投降しようとするやつを殺せ”となって、私も殺せということだったらしい。
土田を殺せと。」

その後、土田さんはアメリカ軍に1人で投降。
それがきっかけとなり、34人全員の投降が実現しました。

漫画家 武田一義さん
「仲間が死んでくというのを間近で見て、生き残った数十名たちが協力して頑張っていたけれど、しかたなくあいつは殺さなきゃならないという判断をしなきゃならないこともある。
そういうことを、なるべく余さず描けていけたらなと思っているんです。」

武田さんは今、生き残った日本兵たちが潜伏しながら戦闘を続ける場面を描いています。
物語では、主人公の田丸が初めて人を殺します。

“死んだ仲間、殺した敵、巻き添えの人たち。
全部飲み込んで、僕らは生きてる。
笑っていく。”

田丸はこのあと、どんな運命をたどるのでしょうか。

漫画家 武田一義さん
「戦場を描くだけでは、戦場の全てというのは描ききれない。
戦場を体験した人間が国に帰ってきたときに感じたことまで描いて、ようやく戦場のことを描ききったという形になる。
そこがその兵たちにどう見えるのか、どう感じるのかということを描いて、物語は終わりにしたい。」

若い世代に戦争をどう伝えるか

和久田
「キャラクターがかわいらしいぶん、現地の過酷さや当時の状況が不思議とリアルに伝わってくるような気がしましたね。」

高瀬
「漫画家の武田さんはちょうど私と同い年なんですが、直接の体験を聞くことが難しくなる中で、私たちよりもさらに下の若い世代に伝えていくことはさらに難しいと思うんですが、そのためには、しっかりと事実を知って、話を聞くということを丹念にやっているからこそリアルに感じられるのではと思いますね。
取材した高栁アナウンサーです。
この漫画、読者からはどんな反響がありますか?」

高栁秀平(熊本局)
「今年(2017年)の夏、各地で原画展が開かれたのですが、若い人の姿も多くありました。
『絵がかわいらしいので自分たちでも読みやすい』といった声も聞かれました。
また、SNSでは『かわいらしい絵だからこそ、逆に戦争の悲惨さが伝わった。ぜひ友だちに勧めたい』という大学生の投稿もありました。」

和久田
「高栁さんは20代前半で、主人公の田丸一等兵と同じ年代でもありますよね。」

高栁
「そうですね。
自然と、田丸一等兵に自分自身を重ねていました。
作品を読んでいうちに、もし自分が戦場に送り込まれたらこんな目に遭うのかと思いましたし、それが実際に今回の取材を始めるきっかけにもなりました。
武田さんの作品が私のような若い世代により多く読まれてほしいですし、そのことをきっかけに、戦争が起きたら自分はどうなるのかと、具体的に考えてほしいと思いました。」

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