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2017年11月28日(火)

耳の聞こえない映画監督 “音のある世界”を撮る

高瀬
「けさのクローズアップ。
今日(28日)は、ある映画についてお伝えします。



手がけたのは、こちら、耳が聞こえない監督と。」

和久田
「こちらの耳が聞こえるカメラマンです。
映画制作を通して、これまで知らなかったお互いの世界について知り、理解し合うことにつながっています。」

耳の聞こえない映画監督 “音のある世界”を撮る

リポート:小玉義弘(映像取材部)

撮影スタートの合図に赤い旗を振る女性。
耳の聞こえない映画監督、今井ミカさん、28歳です。
ろう者向け映画のコンテストで、たびたび賞を受賞しています。
これまで制作してきたのは、現場の音も一切無い無音の作品ばかり。
耳の聞こえない人たちが見ることを前提としてきたからです。
その今井さんが、今回初めて挑戦したのは、音のある映画です。

描くのは、耳の聞こえない女性が、家族や友人との関係に悩みながら、自分の居場所を探していく物語。
現場の音やBGMを取り入れ、耳が聞こえる人にも見てもらいたいと思ったからです。

映画監督 今井ミカさん
「耳が聞こえない人が楽しむだけでなく、音をつけることによって、聞こえる人にも違和感なく見てほしいと思ったからです。
そういう映画を作ることで、聞こえる聞こえないの区別なく、一緒に楽しんでもらえるという見本になればと思っています。」


今回、カメラを回すのは、湯越慶太さん。
出演者やスタッフの中で、耳が聞こえるのは湯越さん、ただ1人です。
音のある映画を作りたいという今井さんの思いに共感し、撮影を引き受けました。

カメラマン 湯越慶太さん
「“アドバイザーになってくれないか”という話が最初に来て、だったらもう“一緒にやりましょうよ”って。」

手話通訳でシーンのねらいを伝える

これまで自ら撮影を行ってきた今井さん。
今回は、湯越さんに手話通訳を介してシーンの狙いを伝えます。

通訳(今井さん)
「2人目のお客さんのときのアングル。
カメラはこっちで、華がそっち。」

カメラマン 湯越慶太さん
「華さんが窓際?」

通訳(今井さん)
「次が外から撮って、華の位置から。」

カメラマン 湯越慶太さん
「お客さんを撮る?」

すべて手話通訳を通すため、ワンカットを撮るのにも時間がかかります。

ドライヤーって音があるの!?

今井さんにとって、初めて音を意識する映画作り。
苦労の一方で、これまでにない発見もありました。

例えばドライヤーをかけながら、店員と客が会話をするシーン。

カメラマン 湯越慶太さん
「聴者はドライヤーのゴーって音、結構うるさいんだけど。
だからドライヤーをしている最中、あんまり話ができない。」


ドライヤーの音が会話の妨げになることを、初めて知ったのです。





さらに、部屋の撮影シーンでは…。

カメラマン 湯越慶太さん
「ごめん、カット。
クーラー切ろう。
音が入っている。」

クーラーにも音があるということに初めて気づいたといいます。

映画監督 今井ミカさん
「クーラーに音がある、机やドアの音が鳴る、いすの脚も音がする。
“周りには、こんなにたくさん音がある”。
すごい発見でした。」

うるさい場所でも会話できる“手話”

カメラマンの湯越さんにとっても、発見がありました。

映画監督 今井ミカさん
「ろう者どうしのカップルは、肩を組んで会話することはほとんどない。」

カメラマン 湯越慶太さん
「ろう者だと肩組んだら会話できなくなっちゃう?」

映画監督 今井ミカさん
「はい。」

映画を撮影していく中で、音の無い世界に生きる人たちへの理解を深めていきました。
そうした中、湯越さんのアイデアから生まれたシーンもあります。

主人公に声を掛ける男性。
もともと台本にはありませんでしたが、耳が聞こえない人が身近にいることを伝えるために取り入れました。
さらに湯越さんは、こんなシーンも提案しました。


舞台は渋谷のスクランブル交差点です。
道路を挟んで、主人公たち2人が手話で会話します。
離れていても、どんなに騒がしい場所でも、会話をすることができる。
湯越さんが気づいた手話の特徴です。

カメラマン 湯越慶太さん
「けっこう音がうるさいから、僕はそれがずっと気になるんだけど、みんなそれが全然苦じゃなくて、当たり前のように手話でコミュニケーション。
結局みんな、聞こえないわけだけど、聞こえないことが何の障害にもなってなくて。」

耳が聞こえる人も 聞こえない人も

今回の映画には、現場の音だけでなく、BGMも初めて取り入れます。
耳が聞こえる人にとっては、音楽も重要な要素だと考えたからです。
今井さんのイメージに合う音楽かどうか。
雰囲気をカメラマンの湯越さんが伝えます。

カメラマン 湯越慶太さん
「(BGMを)聞いた感じとしては、穏やかな感じ。
でも、ほんの少しだけ悲しい気持ちもある。
激しさとか怒りはない、優しい感じ。」

映画監督 今井ミカさん
「このシーンは、クリスマスが近いイメージだけど…。」

カメラマン 湯越慶太さん
「うんうん。
寒い季節にも、僕は合っていると思った。」

二人三脚で撮影してきた映画。
最後まで調整が続きました。

そして、一昨日(26日)行われた試写会。
耳が聞こえる人、聞こえない人が一緒に鑑賞します。
全編手話。
しかし、身の回りの音や音楽のある映画です。

上映後、手話の拍手が送られました。





観客
「映画そのものに引き込まれて見ました。
違和感はなかったです。
まったく感じませんでした。」



観客
「音楽がつくことで、感情移入がしやすいと思う。」

映画監督 今井ミカさん
「ろう者が作っているから、ろう者に見てほしいわけではなくて、聞こえる人にも見てほしい。
私たちの映画を見て、興味をもってもらって、聞こえる人と聞こえない人の懸け橋になれたらいいと思う。」


高瀬
「製作には苦労もあったでしょうけど、聞こえる人、聞こえない人、双方の知らなかったことを知る、気付かなかったことに気付くという驚きとか、喜びがいっぱい詰まってそうですよね。」

和久田
「お2人のやりとりを見ていて、自分にとっての当たり前が、相手にとっての当たり前ではないということを肌で感じるとか、本当に気付くって、こういうことなんだなって思いましたよね。
今回の映画は、海外の映画祭に出品され、今後、全国でも上映をしていきたいということです。」

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