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2017年9月22日(金)

精神疾患 孤立する患者と家族

高瀬
「先月(8月)出版された1冊のマンガが反響を呼んでいます。」




「子どもを殺してくださいという親たち」。
ショッキングなタイトルのこのマンガが描くのは、何年もひきこもり、ゴミに埋もれて暮らす女性や、包丁を振りかざして家族を脅す男性など。
精神疾患の患者と家族の苦悩を、実話をもとに伝えるこのマンガに、多くの反響が寄せられています。

“これは我が家のことだと思った。”

“ひきこもりの兄に悩んでいます。
暴力を振るわれることもあります。”

目立つのは、当事者たちの悲痛な声です。

新潮社 編集者
「大切に取り扱わなければならない問題なのに、みんな避けているような気がする。
これから自分たちが考えていかないと。」



高瀬
「精神疾患は『統合失調症』や『不安障害』、それにアルコールなどへの『依存症』のほか、『うつ病』や『認知症』などを含みます。
患者の数ですが、およそ400万人。
この15年で2倍に増えています。」

近江
「このうち、マンガで描かれているのは、『統合失調症』や『不安障害』、そして『依存症』などです。
浮き彫りにするのは、適切な治療を受けないまま、社会から孤立する患者と家族の実態です。」

精神疾患の患者説得 請け負う男性

リポート:近松伴也(おはよう日本)

マンガの主人公は、精神疾患の患者を説得して医療機関へ連れて行く「移送」サービスを行う男性です。
実在の人物をモデルにしています。



民間で「移送」サービスを行う、押川剛(おしかわ・たけし)さん。
家族では手に負えなくなったケースを、20年前から請け負ってきました。

押川剛さん
「病院は10月くらいということで想定しています。」





問い合わせは、この1年だけで532件に上ります。

「孤立に入ってくれて 流れが変わった」

2年前、30代の男性に、治療を受けるよう説得した時の映像です。

押川剛さん
「このままの生活を続けてて、大丈夫だと思うか、自分で。」

男性は18歳の時に「強迫性障害」を発症。
適切な治療を受けないまま、10年以上、部屋にひきこもっていました。
両親が息子の部屋に入るのは3年ぶりです。

押川剛さん
「病院へ行くか。」

部屋に積まれたティッシュの山。
汚れが取れないと強迫観念にかられ、ひたすら拭き続けたものです。
自分の体も、いくら洗っても汚れが取れないと不安になるため、風呂に入らなくなっていました。

男性(30代)
「きれいにさせてください。」

押川剛さん
「きれいにするより、あなたの命のほうが大事なんだから。
そういうことは、気にするな。」

男性(30代)
「お願いです。」

押川剛さん
「乾いた(タオル)ちょうだい。」

体を拭いてあげながら、病院へ行くよう説得。
男性を入院させることができました。

押川剛さん
「かわいそうだな。」

半年間、投薬治療と対人関係のトレーニングを受けた男性は、症状が改善。
2年経った今、作業所で働けるまでに回復しています。

男性(30代)
「孤立っていうか、閉じているところに人が入ってくれて、流れが初めて変わった。
すごくありがたい、感謝。」



押川剛さん
「医療機関につなげなければならない。
そこが遅れてしまうと、対応困難な患者さんになってしまう。
(医療機関に)つなげるっていうのは、“命をつなげる”という意味合いもある。」

症状深刻化の背景に 家族の抵抗感

なぜ、症状が深刻化するまで抱え込んでしまうのか。
そこには、精神疾患に対する家族の戸惑いや抵抗感があります。

2年前、「統合失調症」の30代の息子を、精神科病院に入院させた女性です。

女性(70代)
「何も言っていなくても、“いま、死ねって言っただろう”って、そういう感じ、常日頃が。」

大学生の時に、妄想の症状が現れた息子。
それでも、精神科に連れて行くことはしませんでした。

女性(70代)
「世間体でしょうかね、やっぱり。
どう見られるかということ。
そういう子がいると、どうなのかなって。
隠したいなという気持ちはありました。」

適切な治療を受けないまま、症状は徐々に悪化。
家族に暴力を振るうようになりました。
保健所に助けを求めたのは、家にひきこもって10年以上経ってからでした。
しかし、息子は保健所の訪問を拒絶。
結局、押川さんを頼って精神科病院へ「移送」したのは、息子が家族に包丁を向けるようになって、身の危険を感じてからでした。

女性(70代)
「自分の子どもですから、面倒を見てあげるのは当たり前。
やれることはやってあげようと思っていた。
ですけど、何もできなかった。」

早期支援 保健所が相談窓口

高瀬
「取材した近松ディレクターです。
家族の『抵抗感』が治療を遅らせる、それに繋がっていくというのが、他の病気と異なる特徴と言えそうですね。」

近松伴也ディレクター
「はい、そうなんです。
ご覧いただいたようなケースは、精神疾患の一部で多いわけではありません。
ただ、家族が隠したり、本人に自覚がなくて治療を拒否したりすることで、医療や福祉などの網からこぼれ落ちてしまうのは、精神疾患ならではの難しさと言えます。」

近江
「もちろん早い段階で適切な治療を受けることが大切ですけれども、もし本人が治療を拒否した場合、どうしたらいいのでしょうか?」

近松ディレクター
「そういう時は、保健所が相談窓口となります。
ただ、実際には、保健所は重症化したケースなどの対応に追われていて、軽症であったり、自ら積極的に支援を求めなかったりするケースまでは手が届いていないのが実態なんです。
そんな中、早期に適切な支援をするため、独自の取り組みを始めた自治体も出ています。」

「軽症患者を訪問する専門チーム」発足

埼玉県所沢市の保健センターにある、「こころの健康支援室」です。
精神疾患の患者や家族の支援にあたる専属の職員は、保健師や精神保健福祉士など、7人。
それに対して、相談は電話だけでも年間8,000件に上ります。
これまで自宅に訪問するのは、重症化したケースに限られ、軽症の人までは手が回っていませんでした。

所沢市 保健センター こころの健康支援室 小野寺健さん
「表沙汰にならないような、家の中だけでひっそりと問題となっているようなケースは、手を伸ばしたくても、手を伸ばせないという状況が、正直あった。」



そこで一昨年(2015年)、全国の市町村で初めて、軽症の患者を訪問するための専門チームを発足。
看護師や作業療法士など、精神科での実践経験を積んだ4人を、民間から新たに雇いました。
毎日情報を共有。
早期の治療に結びつけるため、支援方針を話し合います。

看護師
「いま状況では、本人に受診を促すことは難しい。」

所沢市 保健センター こころの健康支援室 小野寺健さん
「放っておいて、病気も悪くなれば孤立してしまう。
どうにかしないといけないと思う。」

チームの発足で、訪問回数は2倍以上に増加。
新たに72人の患者を支援することができました。

所沢市 保健センター こころの健康支援室 小野寺健さん
「気が付いたら、家の中で精神障害者が1人で生活上の大変さを抱えて生活していることをよく見る。
なるべく孤立させない方向で(支援に)もっていきたいなと思う。」

きめ細かい訪問 どう実現させるのか

近江
「この取り組み、すでに具体的な成果に結びついているんでしょうか?」

近松ディレクター
「訪問の機会を増やしたことで、これまでなら後回しにされていた軽症の人を支援したり、面会を拒否する人に時間をかけて粘り強く接したりすることができるようになりました。
中には、統合失調症の男性を1年訪ね続けて信頼関係を築き、まず散歩に誘い出し、それから病院へ繋げたケースなど、成果をあげ始めています。」

高瀬
「ただ、所沢市のような取り組みは、どこでもできるということではなさそうですね。」

近松ディレクター
「予算や人手が限られる中、所沢市のような支援はほとんど行えていないのが実態です。
きめ細かい訪問支援をどう実現させるのか、予算措置を含めて検討が必要だと思います。」