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2017年9月7日(木)

「農福連携」が急速に広がる理由

和久田
「障害者をどう受け止め、共にどう生きていくのか。
そのヒントになるかもしれない動きが、農業の現場で広がっています。」

ナス袋詰め ニンニク仕分け 障害者が活躍

リポート:鈴木啓太

農家が1年で最も忙しくなる、収穫の秋。
深刻な人手不足の解消に大きな役割を果たしているのが、障害者です。

この農家では連日、3人から5人の障害者がナスの袋詰めを任されています。
バラツキが出ないように大きさを見極めて、手際よく詰めていきます。

農家
「いいですね、すばらしい。
期待通りの仕事。」

こちらの作業所で行っているのは、ニンニクの仕分け作業です。
20軒以上の農家の作業を、障害者が一手に引き受けています。

一つ一つ選別する、根気のいる作業。
それを丁寧にやり続ける力があると評価されています。

「ほぼ毎日やっている。」

「大変だけど慣れました。」

「農福連携」当初の7倍に

こうした障害者の活躍は「農福連携」と呼ばれ、急速に広がり始めています。
香川県では、県の委託を受けたNPOが農家や農協からの求人を集約。
作業内容に合わせて、登録している障害者施設に紹介します。
この「マッチング」を始めて6年。
去年(2016年)請け負った仕事は延べおよそ1万2,000人分、当初の7倍に増えました。

今では、スケジュール表もびっしり。
障害者が欠かせない存在になっています。

NPO法人の担当者 阿部隆弘さん
「(障害者に)任せられる部分は完全に信頼して任せてもらっている。
(農業には障害者が)なくてはならない方向にいっている。」

通年の仕事 賃金は7倍

農業で働くことが、障害者の人生の可能性を広げ始めています。
障害者19人が働く、北海道芽室町の福祉事業所です。
3ヘクタールの農地で、ジャガイモやカボチャなどを生産しています。
最大の特徴は、自前の工場で加工まで行っていることです。
これによって、農閑期の冬も休まず、1年を通して仕事を確保できました。

切り分けたジャガイモは、四国と九州に展開する総菜チェーンで使われます。
付加価値を生み出すことで、北海道の一般の最低賃金、時給786円を実現しました。
知的障害がある小林好幸(こばやし・よしゆき)さん、38歳です。
賃金は、月11万5,000円。
以前のパンを作る仕事に比べて、7倍になりました。

小林好幸さん
「任される仕事が増えています。
自信がつきました。」

小林さんは、念願の新しい自転車を購入。
趣味のサイクリングやファッションも、楽しめるようになりました。
今は親と同居していますが、給料と障害年金を合わせて自立も可能だと考え始めています。

小林好幸さん
「(給料を)好きなことにも使えるし、買えないものが結構あったけれど買えるようになって、うれしい気持ちになります。」

生産性向上のきっかけにも

一方、障害者が働くことは、雇用する企業側に思わぬ効果をもたらしています。
静岡県で、野菜を生産する農業法人。
パート従業員69人のうち、3分の1が障害者です。

経営者の鈴木厚志(すずき・あつし)さんです。
20年前に特別支援学校の生徒を実習で受け入れたことが、生産性を大きく上げるきっかけになったと言います。
キーワードは、「障害者が働きやすい職場は、誰にとっても働きやすい。」
熟練のパートに頼っていた、苗の植え替え。
障害者を受け入れるにあたって、作業方法を見直しました。
すると、下敷きを使えば従来よりも早く正確にできると気づいたのです。

京丸園 社長 鈴木厚志さん
「ここに直角にあてて、こうやってやる。
植えられますよね、こんなふうに。」

丸い穴が並んだこの板も、苗を植えやすくするために作った道具です。
こうした工夫を、あらゆる工程で行ったことで、作業効率が大幅に向上。
障害者を雇うようになって、栽培面積は3倍、売り上げは5倍に増えました。

京丸園 社長 鈴木厚志さん
「障害者でもできる農業をデザインすれば、いろんな人たちが農業をやれる証明になる。
彼らがいてくれたから、結果として形になったと実感しています。」

障害のある方々の価値をいかす

和久田
「ジャガイモを加工していた北海道の事業所では、フルタイムで働いた経験を生かして地元のスーパーに就職するなど、4人の方がステップアップを果たしたということです。」

高瀬
「ゲストにお越しいただいています。
企業や施設のバリアフリーなどのコンサルタント、垣内俊哉さんです。
今の働く姿を見て、障害のある方々にとっての、働くことの意味の大きさを感じましたね。」

垣内俊哉さん
「障害があることで、仕事を選択する不自由、仕事を続ける不便さがあるのは明らかなことだとは思うんですが、障害がある方が仕事を通じて感謝される、誰かから求められる、それを通じて障害を前向きにとらえていく、向き合っていくことができるんじゃないかということを感じています。
一方で、幸い私は働くことができていますが、全ての障害のある方がそのチャンスを得られているわけではありません。
だからこそ、これから障害があってもできること、障害があるからできること、それを皆で探し、作っていくこと、そして社会では障害がある方を戦力として多くの企業がこれから雇用する、共に働く環境を作っていくことが求められると感じています。」

高瀬
「企業側の考え方、見方というのは変わってきていると感じますか?」

垣内俊哉さん
「私自身も今、視覚に障害のある社員、聴覚に障害のある社員、さまざまな障害のある社員と働いていますが、彼らと共に仕事をする中で、新しい視点、新しい感性、彼らの経験をいかした新しいビジネスや事業ができている。
それが今、多くの企業でもそのようにして障害のある方々の価値をいかしていこうという流れが広がっていると感じています。」

障害者の意識と同時に社会の環境も変わる

和久田
「北海道の小林さんは、働いたお金で自転車を購入して趣味を楽しんでいらっしゃいましたが、やはり働くということは収入以上に人生を豊かにするものだなと感じましたね」

垣内俊哉さん
「私自身もそうでした。
働こう、稼ごうと、より多くの人に思ってもらえるようにするには、これからもっとお金を使える場所を増やしていかなければいけないと感じます。
例えばバリアフリーが進むことで買い物へ行ける、食事へ行ける。
そうした場所が増えることで、もっとお金を稼ごう、仕事を頑張ろうといった、働く意欲が高まっていくと思うんですね。
障害者の意識が変わること、それと同時に社会の環境も変わっていく、互いにいい影響があるのではないかと思います。」

『無関心』でも『過剰』でもなく

高瀬
「今日、こうしてお伝えしていく中で、去年(2016年)の相模原の事件、それから3年後の東京パラリンピック、その間にある今の時期はとても大切な時期なんだという気がしてきました。
障害がある方々と共に生きる私たち社会にとって必要なこと、あるいは期待したいのはどんなことですか?」

垣内俊哉さん
「大切なことは、障害者に対して『無関心』でも『過剰』でもない向き合い方をしていくことが求められると感じています。
どうしても、知らない、分からない、向き合ったことがないために、障害者に対してどこか私たちは見て見ぬふりをしてしまったり、無関心を装ってしまったり、時にはおせっかいとも捉えられてしまう対応をしてしまうことがあるのではないかと。
だからこそ、これからもっと多くの障害のある方々と私たちも触れ合うことを進めていかなければいけないと思いますし、それを今進めていく、できることを少しずつできる限りやっていくことが、これから社会全体で求められているのではないかと感じます。」

高瀬
「これからますます忙しくなりますね。」

和久田
「NHKでは障害者殺傷事件のあと、特設サイト「19のいのち」を立ち上げました。
事件を乗り越え、誰もが豊かに暮らせる社会をつくるため、私たちは何ができるのか。
『あすへの一歩』というコーナーでその手がかりを探っています。」

<関連リンク>
「19のいのち -障害者殺傷事件-」

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