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2017年7月21日(金)

「夢の植物工場」黒字達成が困難な理由

高瀬
「『未来の農業』に異変が起きています。」

まるで宇宙基地のような光景。
温度や湿度を管理した人工的な環境で野菜を育てる「植物工場」です。
天候に左右されず、安定した生産ができる「未来の農業」として注目されてきました。

和久田
「きっかけは2009年。
農業の再生と技術の輸出を期待して、農林水産省と経済産業省が150億円の補助金をつけるなど後押しました。
特にLEDなどを使う『人工光型植物工場』は当初の6倍に急増。
しかしその一方で、黒字を達成した企業は19%にとどまり、事業から撤退するケースも増えています。」

高瀬
「苦境の背景には何があるのか、取材しました。」

ブームの陰で何が? 苦闘する植物工場

リポート:関徳二ディレクター(おはよう日本)

製紙業が盛んな静岡県富士市。
3年前、製紙会社が老朽化した工場を閉鎖し、新たに植物工場を建設しました。
およそ8億円をかけて、最新のLED設備を導入。
1日でリーフレタス1万2,000株を収穫できる、国内最大級のLED植物工場です。

参入を決めた、製紙会社社長の朝倉さんです。
紙の需要が減る中で、将来有望な新規事業として植物工場に注目。
立ち上げ時に交付される8,000万円ほどの補助金も後押しになりました。

イノベタス 朝倉行彦社長
「夢というか挑戦というか、そこにとにかく賭けてみたい、私の熱い気持ちがありました。」

しかし、待っていたのは大きな壁でした。
植物工場の技術はまだ発展途上のため、大量生産のノウハウが確立されていません。
大学が研究室で実験したデータなどを参考に生産をはじめましたが、大規模な工場で再現しようとするとうまくいきませんでした。

理由の1つは、水です。
土を使わない「水耕栽培」ですが、地元の水はカルシウムを多く含むため、実験通りに肥料を入れても水質が安定しません。




また、温度調節にも悩みました。
当初はエアコンを使いましたが、広い工場内では栽培棚の温度が均一になりません。
生育不十分なレタスは7割にもおよび、操業開始から1年たっても安定した出荷ができませんでした。

イノベタス 和田仁管理部長
「植物の栽培は難しい。
全部手を入れて育てないと、植物工場といえど難しいかなと。」

その後、地道にデータを集めて栽培方法を確立、今では生産量の8割を出荷できるようになりました。
しかし、販売の面でも壁にぶつかります。
地元のスーパーで売られる一般のレタスは、安いときにはおよそ100円。
それに対して工場産のリーフレタスは初期投資や照明などのコストがかかるため、158円と割高です。


「高い。」


「家族が多いので、ちょっと高いかな。」

無農薬などの特徴をPRしても、安さを重視する消費者が多く、売り上げがなかなか伸びないのです。
そのため一般のレタスが多く入荷されると、工場レタスは注文のキャンセルが相次ぎ、廃棄処分を余儀なくされます。
多いときには1日100キロ、生産量の半分にも及びます。
会社を立ち上げて3年。
今後、販売先を増やすことで、なんとか赤字を脱出したいと模索を続けています。

イノベタス 和田仁管理部長
「時間かかると思います。
半年、1年以上はかかると思いますけれど、ここはもう踏ん張りどころだと思います。」

経営に悩む植物工場。
昨年度だけでも24社が事業の継続を断念。
異業種の大手企業も参入していましたが、その多くがすでに撤退しました。
専門家は、植物工場の業界全体が大きな転換点に差し掛かっていると指摘しています。


三菱総合研究所 伊藤保主任研究員
「(これまでは)まず事業者、プレーヤーを増やしていこうというところに力点があった。
経営の質を高めていってマネジメントをやっていく、無駄なところはないかどうか管理しながら企業として成長していく、大きくかじを変更していくその過渡期になってきているんだろうと思う。」

“夢の植物工場” ブームの陰で

高瀬
「取材した関ディレクターです。
植物工場を軌道に乗せるというのは、思った以上に難しいんですね。」

関徳二ディレクター(おはよう日本)
「実はほとんどが異業種からの参入で、経験が乏しい事業者が多いんです。
工場栽培そのものが新しい技術のため、大量生産のノウハウが確立されていません。

そのため、『安定生産が難しい』『コストが下がらない』『販売先が開拓できない』という、『三重苦』に陥るケースが多いんです。
こうした中、新たな需要を掘り起こし、生き残ろうとする企業を取材しました。」

“需要を掘り起こせ” 植物工場 新たな試み

パチンコ店などを経営する会社が3年前に始めた植物工場です。
立ち上げ時から事業部長を務めている、甲斐剛さんです。

当初は他の企業と同じように、一般の消費者向けに地元のスーパーなどに出荷していました。
しかしあるとき、思わぬ需要があることに気づきました。
消費者向けに出荷した工場野菜を、スーパーの総菜担当者が好んで使っていると知ったのです。
虫の混入や菌の付着が少なく、お弁当などの加工食品に使いやすいというのが理由でした。

808ファクトリー 甲斐剛アグリ事業部長
「異物が入っていない、虫が隠れてたりというリスクが非常に低いというのが、ものすごく喜んでもらっているメリットかな。」

食の安全に敏感な食品加工業者に需要があると考えた甲斐さん。
担当者を工場に招き、工場野菜なら安定した供給もできるとアピールしています。

食品加工業者
「品質のぶれがない?」

808ファクトリー 甲斐剛アグリ事業部長
「基本的に同じ品質のものが出るよう、監視、微調整しています。」

特に強調しているのが、洗浄や消毒がほとんど必要ないため、手間やコストを大幅に減らせるというメリットです。

808ファクトリー 甲斐剛アグリ事業部長
「異物混入リスクを排除するためのいろんな工程っていうのを、全部リスク排除した状態でお渡ししますよ。」

食品加工業者
「いま人手不足なので、できるだけ効率よく、安全安心っていう商品を作ることの中でぜひ(検討したい)。」

この工場では、こうした需要を掘り起こすことで売り上げを伸ばしてきました。
今後、規模を拡大して会社を支える基幹事業に育てたいと考えています。

808ファクトリー 甲斐剛アグリ事業部長
「今後もっと需要は増える。
5年後、10年後を見たとき、必ずビジネスとして成り立つ。」

“消費者の心をつかめ” 植物工場の試み

和久田
「価格で勝負するのは難しくても、工場野菜ならではの特性がいきる販売先を見いだすことで打開しようとしているんですね。」

関ディレクター
「そうなんです。
さらには、ホームページで工場野菜ならではの食べ方を消費者に提案しようとする企業もあります。

例えばこちらは一般のレタスが比較的、品薄になる冬場でも、工場レタスを使えば鍋料理が楽しめるといった提案もしています。
国が主導で始まったブームですが、こうした販売先や消費者をつかむ地道な努力が、業界全体の今後を左右することになりそうです。」

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