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2017年6月28日(水)

もし『大人の発達障害』と診断されたら?

和久田
「あなたの職場にも、悩んでいる人がいるかもしれません。」

期限を決めた仕事を任せると…。

上司
“今日締め切りだけど、できた?”

“まだ自分の中で納得できていないので、提出できません。”

上司
“わからないことがあったら、いつでも相談してくれ。”

“わかりました、ありがとうございます。”

“部長、すみません、ここはどうしたら?”

上司
“さすがに時と場合を考えたまえ!”

“でも、いつでも聞いてくれって言ってたじゃないですか。”

仕事がうまくできず悩みを深めた末に、「大人の発達障害」と診断される人が、今、増えています。

和久田
「けさのテーマは、『大人の発達障害』です。
髙橋アナウンサーです。」

高瀬
「『大人の』とついているのは、どういうことなんでしょうか?」

髙橋
「社会人になって初めて『発達障害』と分かるケースのことです。
こちらをご覧ください。

『発達障害』は病気と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。
生まれつきのもので、脳の機能の発達に偏りがあることをいいます。
例えば、コミュニケーションがうまくとれなかったり、こだわりが強く、周りのことが見えなかったりして、悩みを抱える大人が多くいることがわかってきました。
東京都が行う発達障害の電話相談では、20~50代の人たちからの相談が、この10年でおよそ10倍になっています。
専門的な診断ができる病院でも、受診する大人が急増しています。
特に多いのが、仕事でうつ病になるほど追い詰められ、その治療を続ける中で『発達障害』と診断されるケースです。
ある男性の例からご覧ください。」

いま増えている “大人の発達障害”

リポート:池内由宇(おはよう日本)

去年(2016年)「大人の発達障害」と診断された大手IT企業の社員、井上さん(仮名)です。
学生時代は成績優秀で、国立大学を卒業。
結婚し、子どもも生まれ、営業職のキャリアは10年以上あります。

井上さん
「誇りを持って(仕事を)やっていた。
充実した時間を過ごしていた。」

しかし3年前、いわゆる「中間管理職」になり、異変が起きます。
職場で失敗が続くようになったのです。
特にうまくいかなかったのが、ほかの部署との調整が必要な仕事。

上司
“この間の件、報告無いけど調整はついたのか?”

井上さん
“できていません。”

上司
“連絡はしたのか?”

相手の邪魔になることへの不安が強く、連絡ができませんでした。
もう1つ苦手だったのが、多くの人が参加する会議。
議論の内容が分からなくなるのです。

“後日、営業部とすり合わせた方がよいのではないでしょうか。”

“その調整を、井上君お願いします。”

上司
「井上くん、先日の案件だが…。」

井上さん
“(そんなこと決まったっけ…。)”

1人で努力して成果を出す営業の仕事は順調だったのに、なぜ、多くの人の間を調整する仕事はできないのか。
失敗を繰り返すたびに悩みが深まり、去年、うつ病で休職することになりました。

井上さん
「自分に悪気はない、まったく。
やれない自分に対してすごくイライラする。
恥ずかしい、失敗した、大きな挫折なのではと、思いが自分の中で膨らんでいって、もう耐えきれなくなっていた。」

精神科のクリニックを渡り歩いた末に、「大人の発達障害」と診断されました。
幼い頃の様子を家族から聞き取った医師の判断で、知能や記憶力・分析力などのレベルを調べる検査を受けました。
検査の結果です。

井上さんのグラフはでこぼこ。
能力に偏りがあることが、職場で強いストレスを抱える原因になっていると分かりました。
突出していたのは、情報を分析し説明する能力。
営業マンの時代は、この能力が発揮されたと考えられます。
それに比べ低かったのが、聞いた情報を記憶する能力です。
中間管理職に要求される会議や調整が苦手なのは、このためとみられます。

井上さん
「何かうまくいかない、なんでだろうとずっと思っていたが、クリアにならないものが少しはっきりした。
そういう意味でほっとした気持ち。」

「大人の発達障害」を専門に研究している、東京大学大学院の黒田美保(くろだ・みほ)客員教授です。
企業の事業が急速に複雑化する中で、ストレスからうつ状態に陥る人が増え、「大人の発達障害」が表面化してきたと見ています。

東京大学大学院 黒田美保客員教授
「発達障害の方は変化に弱いという特徴もある。
今までは目立たなかった特徴が出てきて、本人も仕事場でつらくなる、仕事場の周りの人も一緒にやっていけない。」

どう向き合う? “大人の発達障害”

高瀬
「誰でも苦手なことはありますし、失敗だって何度も重ねるわけですが、こうなってくると『なおす』というより『学ぶ』対象ということでいえば、『発達障害』ということば自体が適切なのかという気もしてくるのですが、いったいどこからが『大人の発達障害』なんでしょうか?」

髙橋
「名称についても、本当に『発達障害』という名称で本当にいいのかどうかということを指摘する専門家もいるんです。
人には『活発』とか『内気』、それぞれ個性がありますよね。
専門家によると、『人は誰でも発達障害の特性を少なからず持っている』と言います。
そして、かつては『少し個性が強い』と言われていたような人が、仕事が複雑になったり企業に余裕がなくなる中で、『大人の発達障害』と診断されるようになっていると分析しています。」

和久田
「もし『大人の発達障害』と診断された場合、どうすればいいのでしょうか?」

髙橋
「繰り返しになりますが、発達障害は生まれつき脳の機能の発達に偏りがあるもので、『治療して治る』というものではありません。
そうした中、全国に先駆けて行われている、あるプログラムが注目を集めています。
『大人の発達障害』の人たちがみずからの特性を知り、苦手な点を補っていくという方法です。」

“大人の発達障害”支援 先進プログラムとは

「大人の発達障害」と診断され、休職中の井上さん(仮名)です。
この日、向かったのは、都内のクリニック。
ここには、職場復帰を支援するための特別なスペースがあります。
それがこちら。
オフィスを再現した「模擬職場」です。

仕事に復帰するためにトレーニングをするのです。
この日、井上さんが臨んだのは、苦手だった会議のトレーニング。

参加者
「来週までに相談するという形で。」

参加者
「いいと思います。」

井上さん
「全体議論はここでしかできない。
いま決めるか、来週か。」

参加者
「来週(決める)。」

井上さん
「はい。」

うつに悩んで休職している人に、週5日、規則正しい生活リズムで「出勤」という形でトレーニングしてもらいます。
苦手なことでストレスを抱え込まない方法を探っていきます。
力を入れているのが、「大人の発達障害」専門のグループワーク。
職場でトラブルになった事例を再現し、みんなで客観的に、それぞれの立場や気持ちを考えます。
この日は、資料の作成が遅れ、上司とトラブルになったケース。

上司役
「持ってくるのが遅いよ。
しっかりチェックできないじゃないか。」

部下役
「立て込んでおりまして…。」

第三者の立場になって、みずからの行動を見直してもらうのがプログラムのねらいです。

井上さん
「言い訳を挟むとやっぱり反感を買う。
分からないときはやっぱり聞く。」

井上さん
「みんなは、こういう点で僕と付き合う上で困っていたんじゃないかなと、そういうことが見えてきた。
人のことを考えることも出来るようになってきた。」

「大人の発達障害」でうつになった会社員を復職させる全国初のプログラムを始めた、五十嵐良雄(いがらし・よしお)医師です。

メディカルケア虎ノ門 五十嵐良雄院長
「自分の特徴を知らないと、どういう場面で自分は危ないか、ストレスを受けやすいか分からない
自分で自分のことをよく知ることが非常に大事。
学べば、やり方はおのずと変わってくると思う。」

プログラムを初めて3年余り。
「大人の発達障害」の専門プログラムを受けた67人のうち、9割以上が復職を果たしました。
そのうちの1人、30代の女性です。
仕事に集中するあまりスケジュール管理できないことが課題で、遅刻や欠勤が多く、休職を繰り返していました。
2年間トレーニングを受け、今、元の職場に復帰しています。

復職した女性
「これは1日の予定をまとめたものです。」

今ではスケジュールどおりに仕事を進める大切さに気付き、いつ、どの仕事をするか紙にまとめる工夫をするようになりました。
毎日定時に出勤し、少しずつ自信が持てていると言います。

復職した女性
「今は失敗したとき『じゃあこうしてみようかな』と少しは考えられるようになった。
かなり時間がかかりましたが、なんとかやっていけると思う。」

どう向き合う? “大人の発達障害”

高瀬
「苦手なことをするときに感じるストレスを、トレーニングで減らすことができるんですね。」

髙橋
「スケジュール管理が得意な人から見れば当たり前に感じるかもしれませんが、VTRの女性は、1日のスケジュールを紙に書きこむことで予定を守る工夫をしています。
こうした、いわば1人1人の個性を認め合うことが、うつや『大人の発達障害』で生きづらさを感じる人を減らすことにつながるのではないかと思います。」

和久田
「こうした工夫、本人の努力に加えて、得意なことを生かせる部署で働いてもらうことも大切になりそうですね。」

髙橋
「すでに一部のIT企業では、コミュニケーションが苦手であってもデータのチェックが得意な人を積極的に雇用しています。
ただ、働くうえでは苦手な部分を伸ばすトレーニングも必要です。
そうした支援や詳しい診断ができる専門家は日本ではまだ非常に少ないので、今後増えてほしいと思います。」

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