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2017年6月23日(金)

若手官僚の“提言” 反響広がる理由

高瀬
「とかく難しい、分かりにくいというイメージが強い、役所の作る『政策提言』。
ところが今、こちらの提言書が幅広い人に読まれ、議論を巻き起こしています。」

中央官庁が集まる「霞が関」。
先月(5月)、ここで働く官僚たちから、ある提言が出されました。
タイトルは「不安な個人、立ちすくむ国家」。

“手厚い年金や医療も、必ずしも高齢者を幸せにしていない。”

“若者の社会貢献意識は高いのに、活躍できていない。
こんなもったいない状況を放置していいはずがない。”

率直な言葉で、日本の現状に強い危機感を訴える内容です。
公表から1か月余りで、およそ127万人が文書をダウンロード。
反響が広がっています。

「新鮮だったので、おもしろいなと思った。」

「官僚の人たちも危機意識がすごくあるんだというのが印象的。」

和久田
「この提言、もともとは経済産業省の会議用の資料で、ホームページに公開したところ、SNSなどを通じて拡散していったんです。」

高瀬
「インターネット上では、提言が打ち出す強い危機感に対し『なんとかしないとヤバイ感がすごい』『共感をもった』という意見や、逆に『具体的解決もなく甘い』『現場を知らない人々の“机上の空論”』といった批判など、賛否さまざまな多くの反響が出ています。
この提言、どのようにして書かれたのか。
そしてなぜ広がったのでしょうか。

なぜ提言? 若手官僚の“危機感”

リポート:梶原佐里(経済部・経産省担当)

昼休み、経済産業省の若手官僚たちが集まってきました。
提言をまとめたプロジェクトのメンバー、20代、30代の若手官僚たちです。
今回の反響は予想外だったといいます。

平成26年入省 メディア・コンテンツ課
「これまでの役人の仕事より、少しでもみなさんにいろんな思いをお伝えできたかなと思う。」

平成17年入省 石油・天然ガス課
「12年仕事していて、初めて嫁も弟もおやじもじいちゃんも、みんな食いついてきてくれた。
ネタになったのは初めて。」

メンバーのひとり、高木聡さんです。
プロジェクトに加わったのは、官僚になった原点に立ち返りたいという思いからでした。

官僚になって7年。
さまざまな仕事を経験して、家庭も築いた高木さん。
経済を通して誰もが豊かに暮らせる社会を作りたいという、入省した当時の思いが実現できているのか、疑問を感じていたといいます。

経済産業省 提言作成メンバー 高木聡さん
「職場の先輩に、飲み会のときに『高木は何で経産省に来たんだ』とか、『そのために高木は何やってるんだ今』と言われて、その時に答えにつまったのがすごく印象的で、目の前の仕事は目の前の仕事は一生懸命やっているけれど、自分のもともと経産省に入省した理由とあまりつなげて考えていないと、すごく反省して。」

こうして高木さんたち若手官僚がまとめた提言。
各種のデータや調査をもとに、従来の政策が現状に合っているのかを率直に問い直す内容になりました。

『不安な個人、立ちすくむ国家』より
“本格的な少子高齢化が進むなか、過去に最適だった仕組みは明らかに現在に適応していない。
子ども・若者の貧困を食い止め、連鎖を防ぐための政府の努力は十分か。”

経済産業省 提言作成メンバー 高木聡さん
「10年、20年言われ続けて変わっていないことの方が、(提言の)中身としては多いと思う。
ただ、若手がやってよかったかなと思うのは、それを改めて恥ずかしげもなく“こういう問題ですよね”ということをきちんと再定義できたのは、若手ならではだったかなと思っている。」

あなたはどう読んだ? 若手官僚の“提言”

提言を読んだひとり、IT企業に勤める福岡明彦さん。
福岡さんは、より自分に合った職場を求め転職し、今の会社が3社目です。
一方で、このままで将来は大丈夫なのか、時折不安も感じていました。
しかし提言は、若い世代の新しい生き方にも目を向けていると感じたといいます。

『不安な個人、立ちすくむ国家』より
“『昭和の標準モデル』を前提に作られた制度と、それを当然と思いがちな価値観が絡み合い、変革が進まない。
これが多様な生き方をしようとする個人の選択を歪めているのではないか。”

IT企業 社員 福岡明彦さん(28)
「高齢者の方が幸せに暮らせる環境ももちろんなんですけれど、若者がもっと挑戦できる環境だったり、若者に対しても十分幸せに暮らせるような制度だったり環境というか、何かそういうのが追いついてくれればいいかなと思う。」

一方、この提言の内容に違和感をもった人もいます。
人口およそ2万の宮崎県国富町で暮らす、佐藤友有子さんです。
町役場で高齢者福祉を担当しています。
提言に、気になることばがありました。


“高齢者が支えられる側から支える側へ”

働ける高齢者が社会福祉に依存しなくなれば、財政負担の軽減にもつながるという内容です。
日々接しているのは、都会とは取り巻く環境が違うお年寄りたち。
佐藤さんは、こうした発想が地方にそのまま当てはまるのか疑問に感じたのです。

地方公務員 佐藤友有子さん(39)
「(提言に)地方の目線はないのかなと思う。
各個人ではなくて、あくまで国としての平均の数値で見ているのかなと感じた。」

佐藤さんは今、県内の若手の公務員とともに、地方の観点を取り入れた宮崎県版の提言を作ろうと議論しています。

「いまの宮崎で、本当にやばいことってある?」

「預貯金額とか、財産。」

「自分の子どもの世代は(年金)どうなんだろうとか。」

「先々ね、20~30年後。」

地方からも独自の提言を考えていこうという模索がはじまっています。
さまざまな波紋を広げる提言。
この日、プロジェクトのメンバーは、今回の提言をテーマにした市民主催のイベントに参加しました。
高木さんは、多様な生き方を目指す人たちの声を実感しました。

「地域で働くというのに魅力を感じている。
2拠点とかで働くことに興味をもっている。」

「理想は、雇用形態レベルで流動性が高まること。
一度フリーランスになって、また会社にもどってとか。」

提言で集まり始めたこうした声を、今後どう生かしていくか。
今、その責任を感じています。

経済産業省 提言作成メンバー 高木聡さん
「具体的な政策提言までいっていないことは、まずちゃんと反省しないといけないと思っていて。
他省庁の人との連携も含めて政策の具体的な形に落とし込まないと、“言いっ放し”といわれて当然だと思うので、社会全体で次の新しい制度なり、仕組みのあり方というのを考えていくような進め方をしたいなと思う。」

“政策のねらい伝わらない” 幹部の危機感も

和久田
「経済産業省を担当している梶原記者とお伝えします。
行政が出した政策についての提言が、ここまで広く議論を呼ぶのは珍しいですよね。」

梶原佐里記者(経済部・経産省担当)
「そうですね。
とかく行政の文書は、難しい、分かりにくいというイメージがあると思いますが、今回は、短く、端的な表現を使ったことが、反響につながったのではないかと思います。
今回の取り組みをはじめたのは、これまで『政策の狙いがなかなか伝わらなかった』という経済産業省の幹部の危機感がありました。
その意味では、一定の成果をあげたと言えると思います。」

政策につながるか? 若手官僚の“提言”

高瀬
「議論を呼んだということで、そこまではよかったということだと思いますが、実際に今後、政策につながるのかというところですよね。」

梶原記者
「今回の提言は、あくまでも今後の政策づくりに向けた『問題提起』という意味合いが強いと思います。
行政は、やはり実際の政策で成果をあげることが本来の姿です。
今回指摘されている問題は、経済産業省の担当分野を超えるものも多く、実際に政策として実現できるかは未知数だと言わざるを得ません。
それでも今回、異例ともいえる注目を集めたわけですから、今回の提言を一過性のものに終わらせることなく、どのように実際の政策に生かしていくか、まさに今後が問われていると思います。」