これまでの放送

2017年6月1日(木)

誤差わずか数センチ!驚異の日本版GPS

高瀬
「こちら、現在の種子島宇宙センターの様子です。」

和久田
「見えているのは、まもなく打ち上げ予定のロケットです。
これに搭載された新しい人工衛星が、私たちの暮らしを大きく変えるかもしれません。」

暮らし支えるGPS でも困った事が…

人工衛星からの電波を使って、地上の位置を特定する「GPS」。
今や暮らしに欠かせないものになっています。
でも、こんな経験ありませんか?

和久田
「東京・渋谷の、ハチ公前に来ています。
ここでGPSの位置情報を確認してみると、私が実際にいるのはこのあたりなんですが…。

GPSがさすのはここ。
かなり離れた場所に現在位置が表示されています。」

そう、結構誤差が出てしまうんです。
最大で10メートルを超えることもあります。

暮らしを変える!? 驚異の日本版GPS

このGPSの精度を高めるため、今日(1日)打ち上げられるのが、日本版のGPS衛星「みちびき」です。
「みちびき」の電波を使えば、誤差はわずか数センチにまで縮小。
ドローンを使って、荷物をピンポイントで配達したり、無人のトラクターを正確にコントロールすることも可能になるんです。
日本版GPS「みちびき」が開く、新たな世界をお伝えします。

まもなく打ち上げ 日本版GPS

若林勇希記者(鹿児島局)
「種子島宇宙センターです。
日本版GPS衛星の『みちびき』を載せたH2Aロケットの34号機は、ここから3キロほど離れた発射場で、今、打ち上げに向けた最終的な点検が行われています。
今日の種子島周辺は晴れていて、打ち上げに支障はないということです。
『みちびき』は、今日を含めて今年(2017年)中にあわせて3機が打ち上げられる計画です。
7年前に打ち上げられた試験機とあわせて4機体制が整えば、来年(2018年)の春にも実用化される予定です。
打ち上げ予定時刻は午前9時17分です。」

誤差わずか数センチ! 日本版GPSの秘密

高瀬
「それにしてもこの『みちびき』、誤差が数センチというのは驚きですね。」

和久田
「これまでのGPSとどう違うのか説明していきます。

GPSは、もともとアメリカが軍事用に開発したシステムで、地球全体を31機の衛星でカバーしています。
衛星からの電波を受け取ることで位置を特定するのですが、その途中で高い建物に遮られたり、大気の層の影響で電波が乱れたりして誤差が出るんです。

しかし今回の『みちびき』では、このように日本からオーストラリア上空にかけて周回し、必ず1機以上が日本のほぼ真上に留まることで、電波を受けやすくなるんです。
さらに、大気の層の影響を修正する機能もあるため、より正確な位置情報を得ることができるんです。
この『みちびき』のために投じられる予算の総額は、およそ2,800億円。
まさに国家プロジェクトなんです。」

高瀬
「来年4月から始まる『みちびき』の運用を見据えて、今さまざまな技術やサービスの開発が進んでいます。」

誤差わずか数センチ! 驚異の日本版GPS

リポート:後藤祐輔(鹿児島局)

先週、農家の人などおよそ400人が参加した研修会。

「近い将来の本県の農業の姿、農業生産システムの新たな時代をひらいていく。」

熱い視線が向けられたのは、自動で走行するトラクターです。
誰も乗っていません。

端末で、事前に速度やルートを入力しておくと、衛星からの位置情報をとらえて、自動で走行します。
北海道大学と農業機械メーカーが共同で開発しました。
この日は、農地の周辺に発信機をもうけ、「みちびき」と同じ精度の位置情報が得られる環境を再現。
デモンストレーションを行いました。

参加者
「すごいなと思って。
本当に驚きです。」

参加者
「セットすれば、人がやるより正確さが出る。
こういう時代が来るのかな。」

さらに、プログラムしたルートを白線で示し、精度を比べる実験も。

まず従来のGPSで走らせると、スタート直後に、2メートルもルートをはずれました。
その後も戻ることができません。
続いては、「みちびき」と同じ精度の位置情報で動かします。

ルートを外れることなく、しっかりとたどります。
Uターンも見事に成功。
開発チームでは、「みちびき」を利用した自動システムが普及すれば、日本の農業に大きな変化が起きると考えています。

北海道大学大学院 農学研究院 野口伸教授
「農業の世界は人手不足が深刻。
でも規模拡大して生産性を上げたい。
やはりその時必要なのは人に代わる技術、農業にイノベーションを起こす1つの大きなインフラストラクチャー。」

暮らしを変える! 驚異の日本版GPS

「みちびき」と小型の無人飛行機・ドローンを組み合わせることで、今までにないサービスを生み出せるという期待も高まっています。

ネット通販大手が、今、ゴルフ場で実験しているのが、ドローンで飲み物を届けるサービス。
GPSを使って目的地へ移動。

搭載したカメラが地上の丸い目印を確認。
それを手がかりに着陸します。
今後、「みちびき」からの位置情報が得られるようになると、目印がなくても、どこへでも商品を配達することができるようになるといいます。

楽天 事業企画部 向井秀明さん
「過疎地だったり離島だったりでは、飛ぶ場所がかなり多岐にわたる。
みちびきで正確にマーカー(目印)なしでも着陸できるようになれば、メリットとしてはとても大きいですね。」

さらに、目の不自由な人を道案内しようという、歩行用ナビゲーションの開発も進んでいます。
誤差が10メートルある従来のGPSではかなわなかった歩行者ナビ。
新潟大学では、「みちびき」の利用を想定した実験を進めています。
スマホに、歩道の障害物などの情報を事前に登録。
実際に近づいてみると…。

“障害物があります。”

杖が届く範囲より先にある危険を、いち早く教えてくれます。
さらに、曲がり角でも…。

“左に曲がります。”

曲がるタイミングをピンポイントで、教えてくれます。
システムの開発に協力している視覚障害者の男性は、あらかじめ分かっている障害物を案内してくれるだけでも心強いと言います。

「なかなかひとりで自由に外出して好きな場所に行くことができないので、こういう技術の進歩で実現できたらすごくいいなと思います。」

新潟大学 工学部 牧野秀夫教授
「ひとりで歩く時に不安感を無くすためにも、スマホ1台持って出かけたら、隣に人がいるような感じで助けてくれるようになる。
一日中、必ず頭の上には1個みちびきがある、安心して使える。
そういったところに期待を寄せています。」

驚異の日本版GPS 経済効果は?

みちびきを運用する内閣府は、2020年には経済効果が1年で2兆円に上ると試算しています。

内閣府 森山宏道参事官
「無人化や省力化を進めていくことを通じて、新しい産業創出の起爆剤になる。
みちびきはアジア太平洋地域を飛んでいるので、こういった地域のサービスの創出につなげられる。
重要な取り組みだと考えています。」

ライバル中国の戦略

高瀬
「取材にあたった鈴木記者です。
位置情報の誤差が縮まると、こんなにも新しい技術が生まれるんですね。」

鈴木有記者(科学文化部)
「『みちびき』は、順調にいけば来年4月にも実用化します。
ただ、課題の1つはコストです。
トラクターなどの自動運転で求められる誤差数センチという性能を出すためには、受信機の価格は100万円を超えているんです。
これをどれだけコストダウンできるかが、普及のカギを握っています。」

和久田
「そしてこの『みちびき』は、日本だけではなくてアジアやオセアニアでも使えるようにしたいという話もありましたね。」

鈴木記者
「確かに『みちびき』は海外で利用されることも目指していますが、位置情報衛星の国際展開をめぐっては、日本はやや出遅れているんです。
最大のライバルは、中国です。
中国は2000年から、中国版のGPS衛星『北斗』を次々と打ち上げ、5年前から運用を開始しています。
アジアでのサービス普及のため、国をあげて取り組んでいるんです。」

野村総合研究所 八亀彰吾さん
「中国も独自の衛星測位網を、日本より早いスピードで構築している。
ただ単に打ち上げるだけじゃなくて、重要になってくる地上のインフラの部分も、彼らの国費を使って新興国に対して整備を進めている。
場合によっては、東南アジアなど新興国の学生を中国の大学に受け入れて、測位衛星の技術を学ばせて、彼らを自国にまた戻して、人材育成にも力を入れている。
この辺の差というのを今後日本がどう埋めていくのかというのが大きな課題。」

高瀬
「すでに大きな差がついているんですね。」

鈴木記者
「位置情報の精度は日本のほうが高いんですが、中国は各国への売り込みかたが非常に戦略的なんです。
最近盛んな宇宙ビジネス全体に言えることですが、打ち上げの成功はあくまでもスタート地点で、肝心なのはそのあとなんです。
国内外でサービスをどう広めていくのか、巨額の予算をつぎこんだ『みちびき』の可能性をどう引き出していくのか、今後の戦略が重要になってくると思います。」