これまでの放送

2017年5月18日(木)

博物館の“危機” いま何が…

高瀬
「今日(18日)は、私たちに身近な、あの施設で起きている異変についてです。」

巨大な恐竜の骨格標本。
アンモナイトの化石。
科学や歴史について、楽しみながら学べる施設、博物館です。

子ども
「おもしろかった。」

子ども
「すごいものばかりあるから驚きます。」

しかし、その裏側を取材すると、危機的な状況が見えてきました。
NHKが行ったアンケートに寄せられた切実な声。
予算の減額や、人手不足の慢性化。
博物館の基礎となる収蔵品の管理が、十分に行われていない実態が明らかになりました。

専門家
「コレクションを適切に管理運営されている状況ではない。
限界の状況。」

高瀬
「実は今日、5月18日は『国際博物館の日』なんです。
この日は博物館が社会にとって重要な施設であることを訴えようと、各国の博物館でつくる協議会が定めています。
日本では外国人観光客の増加などを背景に博物館のさらなる活用を求める声も大きくなってきています。」

和久田
「その博物館には、『収集・保存・研究・展示・教育』など、さまざまな役割があります。」

高瀬
「この中で、資料の『収集』や収蔵品の『保存』は人の目に触れにくい地道な作業ですが、これがないと『研究』も『展示』もできません。
NHKでは今回、この『収集』『保存』の状況についてアンケート調査を実施しました。」

和久田
「アンケート調査は、全国の国公立の主な博物館や美術館など245の施設を対象に行い、186施設から回答を得ました。
その結果、収蔵品の修復や劣化防止について、『必要な数が把握できていない』や『作業の予定が立っていないものがある』と答えた施設が、3分の2に上りました。」

高瀬
「今、貴重な文化財を守る現場で何が起きているのか、取材しました。」

博物館がピンチ? その実態とは…

リポート:添徹太郎(科学文化部)

11万点を超える文化財を収蔵する、東京国立博物館。
常設展示を担当する研究員の松嶋雅人(まつしま・まさと)さんです。

“有名な作品をなぜ展示しないのか”という利用者の声と、貴重な文化財の管理との間で悩んでいます。

平常展調整室長 松嶋雅人さん
「絹に絵が描かれている作品が日本絵画に多いんですけど、絹の目がのびてくるんです。」

収蔵品は長期間展示していると劣化してしまうため、一定期間で展示を変えていかなくてはいけません。

平常展調整室長 松嶋雅人さん
「さまざまな要望に応えるべく、個々の研究員、学芸員が日夜努力しているので、日本の文化財の特殊性や美術館のあり方も、われわれが細かい部分を紹介していかなくてはいけない。」

ところが、肝心の収蔵品をとりまく環境は厳しくなっています。

保存修復課 冨坂賢課長
「こちらが保存修復室。」

展示を繰り返すことで、傷んでいく文化財。

保存修復課 冨坂賢課長
「これがカルテ。
作業の基本になるもの。」

傷ついた部分の修復や、劣化の予防を計画的に進めるため、一点一点、保存状態を調べています。
しかし、これまでに確認が済んだのは1万点余り。
収蔵品の10分の1にも満たない数です。
根本的な原因は、人手と予算が不足していることです。
スタッフの数と、国からの運営交付金は次第に減少。
現在、正規の職員は6人にとどまり、残りは期間が限られた契約職員などで補っています。
技術の継承もままなりません。

保存修復課 冨坂賢課長
「(作品を)活用するための下支えがわれわれの仕事。
どちらも欠けていては博物館の運営は成り立たない。
人手とか予算で後世に残すべき文化財を残せないというのは、背信的な行為。」

リポート:藤ノ木優(博物館取材班)

アンケート調査から見えてきたのは、国に比べ、予算が大幅に限られている地方の、より深刻な実態です。

“収蔵品の管理保存に十分に手が回らない。”

この回答を寄せたのは、浜松市博物館です。

自治体の合併が進み、博物館を含む公共施設が統廃合される中で、歴史ある街の文化財を一手に引き受ける拠点となっています。
資料の管理を担当する、学芸員の栗原雅也さん。
市民から古民具や古い生活用品などが次々と寄贈され、収蔵品は増え続ける一方だといいます。

学芸員 栗原雅也さん
「入れ物の問題ですね。
収蔵庫をどう確保していくか。」

収蔵品の数は、現在およそ16万点。
置き場所に苦慮した結果、一部を外の施設に仮置きすることにしました。
仮置き施設は市内に13か所。
車で2時間以上かかる場所もあります。

廃校になった小学校も、収蔵庫代わりになっています。
保管場所が増えた結果、収蔵品の管理に一層の手間がかかるようになってしまいました。

学芸員 栗原雅也さん
「いまは置く場所をきちっと確保して、まずは残すというのが先決です。
やむをえないですね。」

収蔵施設の見回りに資料の調査や整理、そして展示や教育と、山積みの業務を、わずか5人の学芸員で切り盛りしています。
専門家は、多くの博物館が、基本的な業務が行えないまでに追い込まれていると指摘します。

法政大学キャリアデザイン学部 金山喜昭教授
「学芸員が頑張って成果をあげていくということもできるが、今の状況というのは、あらゆる意味で限界を超えている。」

リポート:吉岡聡子(博物館取材班)

予算や人手が限られる中、地域ぐるみで苦境を乗り越えようとしている博物館もあります。
福岡県にある、北九州市立いのちのたび博物館です。

地元の生物の標本や歴史資料が展示されています。
年間50万人が訪れる、人気の博物館です。
運営を支えているのが、地元住民でつくるボランティアのチームです。

ボランティア
「恐竜の時代も、昆虫は同じ大きさだったんだよ。」

登録しているのは現在66人。
案内や展示の説明にとどまらず、学芸員の資料の整理を手伝うなど、さまざまな場面で博物館を支えています。
ボランティアが積極的に参加することで、学芸員は資料の収集や研究に、より多くの時間を割くことができるようになったといいます。
学芸員の研究はすぐに展示に生かされ、館内11か所に設けたミニブースで次々に成果が発表されます。

積極的な資料の収集と、研究の公開が魅力となり、来館者の多くがリピーターになっているのです。

北九州市立いのちのたび博物館 上田恭一郎館長
「資料を集め、保存してデータベースを作る、そして研究する。
その結果を含め資料を展示して、みなさんに楽しんでいただく。
この4つのパターンがうまくまわれば、いい線にいく。」

保存と活用

高瀬
「取材班の科学文化部の斎藤記者です。
今回のアンケート調査では、博物館をめぐる厳しい現状が見えてきましたね。」

斎藤基樹記者(科学文化部)
「私は取材でもプライベートでも博物館に行く機会が多いのですが、どこも苦労している様子が非常に気になっていました。
そこで今回、取材班を組んでアンケート調査と現場取材を行ったところ、観光資源などとして文化財を活用する社会的な要請が高まる中で、保存と活用のバランスをどう取っていくのか、苦悩していることがわかってきました。
活用はもちろん大事ですが、忘れてはならないのは、展示や公開は、きちんと資料を収集し、適切に保存するプロセスがあった上で初めて成り立つということです。
アンケートには『保存や修復の重要性も理解してほしい』とか、『このままでは次世代に文化財を引き継げない』といった意見が多く寄せられました。」

市民の財産

和久田
「そうした中で、北九州市の博物館のように市民の力を借りることが、厳しい現状を変える1つのヒントになりそうですね。」

斎藤記者
「文化財は博物館だけのものではなく、市民全体の財産なんです。
多くの人に関心を持ってもらうためには、博物館側も収蔵庫の公開を行うなどして、保存や修復の重要性を広く理解してもらう努力も必要です。
博物館が社会にいっそう開かれた存在になることが、保存と活用のバランスをとりながら文化財を次の世代に伝えていく第一歩なのではないかと、取材を通して感じました。」