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2017年4月12日(水)

がん患者が歌う“魂の第九”

和久田
「今月(4月)、特別なコンサートが開かれました。」

今月1日、東京オペラシティで演奏されたベートーヴェンの第九。

合唱を指導したのは世界的指揮者・山田和樹(やまだ・かずき)さん。
そして歌っているのは、全員が、がん患者と家族たちです。
厳しい闘病生活と、がんの恐怖に立ち向かう日々。
その苦難を乗り越えて、生きる喜びを歌いました。

高瀬
「今回のコンサートを主催したのは、がん治療が専門の、がん研有明病院です。」

和久田
「耳が聞こえなくても作曲を続けたベートーヴェン。

その第九をともに歌い、がんに立ち向かおうと患者たちに呼びかけ、1年近く練習を重ねてきました。
参加者の思いを取材しました。」

生きる喜び歌いたい がん患者“魂の第九”

リポート:大林基(おはよう日本)

去年(2016年)6月。
合唱団の初めての練習が行われました。

合唱指導 富澤裕さん
「第九が初めての方?」

参加したがん患者は、およそ80人。
本番まで毎週1回、治療の合間をぬって集まります。
途中、立つのがつらく座りこむ人たちも。
自分の体調と向き合いながら練習を続けます。

参加者
「治療でつらくて寝ていても、ここに来るのが目標になっている。
これに向けて体調を整えようと。」

参加者
「がんそのものは厳しいところまでいってるんですけど、まだ厳しい方もいるので、やりながら克服していきたい。」

参加者の1人、武岡ひとみさん、58歳。
乳がんをわずらい、抗がん剤の治療を続けています。
終了後は薬の副作用で関節に痛みが走り、歩くのも難しくなります。
夫の哲郎さんが付き添い、夫婦で参加しています。
武岡さんは48歳のとき、乳がんが肺に転移し3分の1を切除。
医師から、5年後の生存率は5%以下と告げられました。

武岡ひとみさん
「5年たってほとんど生きていられない、“その事実が私のことなんだ”ということが受け入れられませんでした。」

毎日、抗がん剤を服用しながら再発におびえる日々。
そんな時、がん患者と家族が歌う今回のコンサートを知ったのです。
なんとしても2人で舞台にたちたい。
その思いで1年間、練習を続けてきました。

武岡ひとみさん
「一緒にやれることを、やれるうちにやっておきたい。
何年先という保証がないので。」

夫 哲郎さん
「僕にとっての1年と彼女の1年は意味が全然違う。
それは僕には到底分かることではない。
一緒に同じ時を過ごしたいという気持ちはすごく強くあります。」

今回のコンサートでは患者を支える医療スタッフも、ともに歌います。
コンサートの実行委員長、医師の佐野武さんです。

厳しい治療を続けるがん患者に日々向き合ってきた佐野さん。
患者にとって第九を歌いきるのは高いハードルですが、明確な目標を持つことで大きな励みになると考えています。

がん研有明病院 副院長 佐野武さん
「途中で具合の悪くなる人がでることは、確かに心配しました。
あす、あさっての練習を考えている間はがんを心配する気持ちは無くなりますし、そばにいる医療関係者と率直な気持ちを話し合える。
治療を続けていくうえでも、きっとプラスになっていると思います。」

この日、1人の音楽家が練習に合流しました。
日本を代表する若手指揮者の1人、山田和樹さん。
コンサートの趣旨に賛同し、本番の指揮を引き受けてくれました。

これまで歌声を揃えようと練習してきた参加者たち。
しかし、山田さんは思わぬ指示をだしました。

指揮者 山田和樹さん
「みんながバッチリそろっている必要はない。
今は隣の人と比べてはいけない。
自分の歌を歌ってほしい。」

さらに山田さんは、全員に1つの宿題を出しました。
苦難を乗り越え歓喜にいたるというドイツ語の歌詞を、自分なりの解釈で日本語に訳してもらったのです。
参加者たちは病と向き合う自分の思いをこめてそれぞれの言葉でつづりました。

がんを抱えても、生きていきたいという願い。
そして、同じ境遇の仲間と巡りあえた、感謝の気持ち。

指揮者 山田和樹さん
「みんな生きているんだと思いました。
十人十色、意訳するとまったく違うアイデアで、1人として同じ人がいない。
一人一人が特別であって、がんだから特別じゃない。」

本番の2週間前。
武岡さんは、定期検査を受けるため病院に向かいました。

武岡ひとみさん
「(検査は)あっという間に終わりますけど、気持ちがその間(落ち着かない)。
何かあったら嫌だなと。」

がんが再発していたら、ステージには立てません。

医師
「検査の結果ですけど、再発の所見はありません。」

再発は見つかりませんでした。

武岡ひとみさん
「安心しました。
心おきなく歌ってきます!」

そして迎えたコンサート当日。
厳しい治療や再発の恐怖を乗り越え、練習を続けてきたがん患者たち。

この舞台に立てる喜びをかみしめ、歌います。
がん患者と家族、そして医療スタッフが思いをひとつにして、最後まで歌いきりました。

観客
「見ているほうがエネルギーをもらった。」

観客
「一生懸命歌っている姿を見て、感動しました。」

 

夫 哲郎さん
「感激しました。」

武岡ひとみさん
「完全燃焼です。
最高の舞台が出来たと思います。」

生きる喜び歌いたい がん患者“魂の第九”

和久田
「それぞれの方が抱える厳しさと、さまざまな感情がこうして歌になると、こんなにも力強く響くんですね。」

高瀬
「まさに『歓喜の歌』で、生きる喜びそのものがあふれていましたよね。
私も歌ったことがあるんですが、到底及ばないと思いました。
できれば生で聴きたかったと。」

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