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2017年2月24日(金)

離職相次ぐ保安検査員 現場で何が…

阿部
「今、日本の空の玄関口・成田空港で、ある問題が起きています。」

年間3,900万人が利用する成田空港。
出発便のピークが近づくと、手荷物などの検査を行う「保安検査場」には長蛇の列。


しかし、行列の横には使われていないレーンがあります。

利用客
「開けてくれたらいいな。
東京オリンピックだったら、どうなるんだろう。」

利用客
「30分以上並んだ。」

実は、保安検査を行う検査員が1年間で3割も離職。
そのため作業が追いつかないのです。



 

和久田
「テロやハイジャックなどから、空の安全を守るために欠かせない保安検査員。
日本では、検査業務は公務員ではなく、航空会社から委託を受けた民間の検査会社などが担っています。

今回取材の中で、昨年度、成田空港では複数の検査会社であわせて900人いた検査員が、1年で290人辞めていたことがわかりました。」

阿部
「その現場に密着すると、『やりがい』と『厳しい労働環境』のはざまで揺れる検査員の姿が見えてきました。」

離職相次ぐ保安検査員 現場で何が…

リポート:地曳創陽記者(成田支局)

夜明け前の朝6時すぎ、社員寮から職場に向かうバスです。
保安検査員の石川美柚(いしかわ・みゆ)さん、19歳です。
空港での仕事に憧れて、去年(2016年)入社しました。


 

保安検査員 石川美柚さん
「きょうは5時15分くらいに起きた。
いちばん早い時で、5時20分のバス。」


 

この日は、朝7時からの勤務です。
国際線の保安検査場が石川さんの担当です。
気が抜けない1日が始まりました。

金属探知機に反応した乗客のボディーチェック。





財布から小銭を取り出し、刃物などが隠されていないか確認。





水筒の中にガソリンなどの危険な液体が入っていないか直接臭いをかぐなど、慎重かつ迅速に調べなければなりません。

保安検査員 石川美柚さん
「『危ないものは持ち込めません』とはっきり伝えなければいけない。
(検査は)しっかり気を引き締めてやらなければいけない。」

業務の合間には訓練も行われます。

X線を使った手荷物のチェックは、資格を持った検査員だけが行えます。
現場では人手不足が続いているため、石川さんにも1日も早い技能習得が求められているのです。
X線を通し、カバンの中に重なり合う荷物から危険物を瞬時に見つけなければなりません。

保安検査員 石川美柚さん
「“鍵束”取り分けお願いします。」

キーケースの中に小型ナイフ。
危険は1つたりとも見逃すことは許されません。



 

緊張の連続の中、唯一気が休まるのが、検査と検査の間にある休憩時間です。
ところが…。



 

「(勤務表の)差し替え出したから、古いのを処分して。」




 

急に欠勤者が出たため、突如配置がかわりました。
フライトの状況によっては、残業したり休日に呼び出されたりすることもあると言います。




仕事を終えて、張り詰めた職場から自宅に戻った石川さん。
すぐに机に向かいました。
現場責任者になるために必要な国家資格の取得を目指し、帰宅後も勉強しているのです。
不規則な勤務でほとんど自分の時間が取れないといいますが、それでも、空の安全を守りたいという思いで業務にあたっています。 

保安検査員 石川美柚さん
「体力持つのか、精神的にもきつい。
どんなにつらくても、しっかりしなければと切り替えるようにしている。」


 

しかし、「やりがい」だけをかてに仕事を続けることに限界を感じる人も現れています。

去年、検査員を辞めた30歳の男性です。
妻と子どもと3人で暮らしています。
退職前の給料は8年半働き、手取りでおよそ22万円。
春から幼稚園に通う息子の養育費を確保できるのか、不規則な勤務の中で家族と過ごす時間を十分に持てるのか、不安を抱えていました。
 

最も難しい国家資格も取得し、心残りもありましたが、転職を決意しました。




元検査員
「拘束時間と給与が見合っていないのが、いちばん厳しかった。
“やりがい”より生活のほうが大事、そっちをとった。」


 

それでも、検査員を雇う会社が待遇の改善に踏み切れないのには、多くの航空会社などが関わる業界の複雑な事情があります。

検査会社は、航空会社から保安検査の委託を受けています。
この契約料が検査会社の主な収入になり、検査員に給料が支払われます。
契約料の引き上げには、各航空会社の理解が必要です。
検査会社だけで待遇を改善するのは難しいのが実情です。

検査会社では、地方出身者でも働きやすいよう、社員寮を新築するなど福利面を改善し、なんとか人材の定着を図ろうとしています。



 

検査会社 久保田庄一課長
「1人の検査員が国家資格を取って一人前になるまで約3年かかる。
技術・知識・感覚の継承が難しい状況。
なんとか保安検査の業界に光が当たって、いろんな人の理解を得ながら、待遇、職場環境改善につながればと日々活動している。」

日本の空港の現状は?

和久田
「取材にあたった地曳記者です。
保安検査の現場は今、大変な状況なんですね。」

地曳創陽記者(成田支局)
「検査員が一人前になるには3年はかかると言われているんですが、その前に辞めてしまう人もいるんです。
全体を把握できる統計はないのですが、こうした問題は成田だけではないと言えます。


こちらは、午後11時を過ぎた羽田空港です。
24時間運用する羽田では深夜の出発便も多くあり、保安検査場を利用する乗客は後を絶ちません。
大規模な空港では、勤務は厳しく、離職率が高いケースもあると話す関係者もいます。」

空の安全 どう守るか

阿部
「2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、混雑の緩和やテロ対策の強化が求められますよね。」

地曳記者
「日本を訪れる外国人旅行者が2,000万人を超える中、まずは社会全体で安全への意識を変えていくべきだとする専門家もいます。」

大妻女子大学 戸崎肇教授
「日本は根本的な危機を体験したことがないので、安全は保障するがお金をかけるという発想がない。
保安検査の重要性を国としてもしっかり認識して、待遇改善、人材育成により努めていくべき。」


地曳記者
「例えばアメリカでは、保安検査について国の公務員が行っています。
日本でも、検査員の負担軽減のため、国土交通省が、検査時間を短縮できるシステムの導入を支援するほか、航空会社や空港を運営する会社からは、待遇改善に向けた動きも出始めています。
空の安全を守る人材をどう確保していくのか、それぞれ関係者が一体となって考えていくべき問題だと思いました。」

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