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2016年12月27日(火)

納得できる免許証の自主返納を

阿部
「今年(2016年)、全国で高齢ドライバーの事故が相次ぎました。
事故は、認知症の疑いがある人だけでなく、運転技能が衰えた人にも目立っています。
警察は、こうした高齢ドライバーの事故をなくすために、運転に不安がある人には免許証を自主的に返納してもらおうと呼びかけています。」

和久田
「しかし、75歳以上で返納した人は、去年(2015年)全国で2.8%にとどまっています。

返納が進まない理由の1つが、高齢者の『運転技能への過信』です。
運転に自信を持つ人は、高齢になるほど多いという指摘もあります。」

阿部
「そうした高齢ドライバーに納得して免許証を返納してもらうためにはどうしたらいいか。
警察が始めた、ある取り組みを追いました。」

運転技能の“衰え” 納得して返納を

リポート:早瀬翔(NHK名古屋)

愛知県岡崎市の自動車教習所に、70歳以上のドライバーが集まりました。

乗り込んだ車につけられているのは、ドライブレコーダー。
録画した映像で、自分の運転を客観的に見てもらおうと、地元の警察が始めました。


 

岡崎警察署 大野正弘交通課長
「(高齢者は)実際よりも自分に対して高い評価を下すことが特徴。
悪い部分にも気づいてもらい、自身が納得してもらえれば。」


 

最高齢で参加した、山﨑弘(やまざき・ひろし)さん、89歳です。




 

「事故を起こしそうになったことは?」

山﨑弘さん(89)
「その点は全く、遭ったことはない。
自分では気をつけているつもり。」

山﨑さんが免許を取ったのは、64年前。
毎週のように家族とドライブに出かけていました。

山﨑弘さん(89)
「乗用車に乗るようになり、うれしかった。
女房が喜んだ。
『(旅行に)一緒に行ける』って。
(車の運転は)かけがえのない楽しみ。」

しかし、長女の康代(やすよ)さんは、10年ほど前から父親の運転に不安を感じていました。

長女 康代さん
「運転を見ても、よたよた運転している。
あちこち車はこすってある。
父が運転していることを思い出すと心配になる。」

 

山﨑さんは、自信を持ってコースに出ましたが…。

教官
「ちょっと待ってください。
おっとっと。
止まれの標識ありましたよ。
止まる前に確認ですね。」

続いて、車庫入れ。

教官
「車庫、見にくいです?
ちょっと止めますか?
今、ぶつかった。」

この時、車は縁石に乗り上げていました。

教官
「ちょっと止まりますか?
また、ぶつかってますよ。」

視野の狭さや注意力の低下を指摘されました。
 

そして、反省会。
全員で映像を見ながら、1人1人の運転を確認します。
山﨑さんの運転です。
初めて映像を通して、自分の運転を確認しました。

岡崎警察署 大野正弘交通課長
「情報収集力が弱くなっていて、判断力も鈍くなっている。
本当に気をつけてください。」

自分の運転が事故につながるかもしれない。
山﨑さんは、危険性を自覚しました。
講習から1週間後。
悩んだすえ、山﨑さんは免許証を返納しました。

山﨑弘さん(89)
「自分の体、やはり体力・知力、それを考えると運転は危ない。
本当に思い切ってよかった。
事故がないうちに(返納)できた。」


 

阿部
「年齢だけで運転能力をはかるというわけにはいきませんので、本人の『納得』がないと自主的な免許証の返納は進まないんですね。」

和久田
「こうした客観的な判断には、まず一番近くにいる家族が状態を把握することが重要だと専門家は指摘しています。

こちらは、運転技能の衰えを見るためのチェックリストです。
『ウインカーを間違えてないか』『カーブをスムーズに曲がれるか』『歩行者、障害物への注意』『危険な状況への対応』など、こうした兆候が1つでも当てはまる場合は、気をつけて欲しいそうです。」

阿部
「そして、免許証の返納が進まないもう1つの理由が、特に地方で見られる『車なしでは生活できない』という交通事情です。
地方の公共交通機関では赤字が続き、撤退や縮小を余儀なくされているところもあります。
車の代わりに交通手段を確保しようとする取り組みを取材しました。」

車がなくても大丈夫 納得して返納を

リポート:中川治輝(NHK高松)
     中江文人(NHK名古屋)

過疎が進む、香川県の離島・小豆島です。
今年、免許証の返納者が去年に比べて20%増えています。

佐伯律雄(さえき・りつお)さん、91歳も、先月(11月)60年以上持ち続けていた免許証を、ついに返納しました。
きっかけとなったのは今年3月、大幅にバス路線が拡張されたことです。
 

 

佐伯さんの自宅の前を通る路線も、通っていた病院に乗り換えなしで行けるようになりました。



 

佐伯律雄さん(91)
「(どこへ)行こうと思っても、バスがあるから行ける。
病院行くのにもバスがある。」


 

赤字が続く島のバスで、なぜ路線の拡張ができたのか。

佐伯さんが降りた後、バスが向かったのは港です。
県外から訪れた観光客を乗せて、折り返します。



 

観光客
「すごい。」

向かったのは、佐伯さんの家の近くにある、棚田です。

ここは、日本有数の棚田の名所として知られ、年間を通して観光客が訪れています。
高齢者が住む集落にある観光資源に客を呼び込むことで収益を確保しようというのです。
島でバス路線の見直しが始まった当初、高齢者の病院へのアクセスをいかに確保するかが検討の中心でした。
そうした中、高齢ドライバーの交通事故が相次いでいました。
事故を防ぐためには、1人でも多くの高齢者にバスを利用してもらうことが必要だと考えるようになったのです。
観光客を誘導するアイデアを生かし、5つの路線を延伸。
島にある、ほぼすべての集落を網羅しました。
当初は30%以上、赤字が膨らむと試算していましたが、利用客が増えたため、収支は従来とほとんど変わらない見込みです。

バス会社 岡本安司社長
「少しでも島内の事故の軽減、減少ということで、路線バスとして維持していかなければならない。」


 

過疎化によって、交通機関の撤退が続く地域でも、住民たちの力で免許証の返納を進めようという取り組みが始まっています。
岐阜県恵那市にある、飯地地区。
10月に路線バスの運行本数が減り、隣の地区との1日2往復だけになりました。

かわりに走り始めたのは、小さなバスです。
運転するのは、バス会社や自治体ではなく、地域の住民たちです。
隣の地区と結ぶ路線は300円。
地区の中なら100円で、自宅や診療所などどこでも回ります。

 

利用客(88)
「(バスを)上手に利用すればいいと思う。
車もいらなくなる。
やめようかな、返納しようかな。」

 

事業の責任者を務める、自治会長の平井一兵(ひらい・いっぺい)さんです。



 

飯地地区自治会長 平井一兵さん
「これは国交省からの“許可証”。」

去年、規制が緩和され、公共交通が少ない地域では住民による運行も認められるようになりました。
平井さんたちは、これを活用することを思いついたのです。

飯地地区自治会長 平井一兵さん
「くれぐれも気をつけて、安全運転でお願いします。」

「地域のお年寄りの事故を防ぎたい」。
平井さんの呼びかけに14人が応じ、ドライバーを買って出ました。

時給は800円。
仕事の合間などの時間を使い、日替わりで運行を支えています。



 

飯地地区自治会長 平井一兵さん
「(バスの)事業が始まったことによって、免許を返納した方に利用してもらう 、ひとつの選択肢にはなった。
遠慮せずに、このバスを利用してもらいたい。」


 

和久田
「過疎化が進んでいてもアイデアを出して、工夫を凝らすことで、車に変わる交通手段を確保しているところもあるんですね。」

阿部
「そうした、さまざまな工夫によって、高齢ドライバーが安心して免許証を返納できる環境を作ることが『命を守る』ことにつながりますよね。」

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