2019年5月21日(火)

“刺激証拠”めぐり議論

桑子
「裁判員制度導入から今日(21日)で10年。
今、議論を呼んでいるのが、『刺激証拠』の扱いです。」

有馬
「こうした、血のついた凶器や遺体の写真は『刺激証拠』と呼ばれていますが、一般の人が参加する裁判員裁判では、このように写真を白黒にするなどして、裁判員に見せるケースが多くなっています。
これは、裁判員に心理的な負担を与えないための措置なのですが、この『刺激証拠』の扱いがどこまで配慮されるべきなのか、司法の現場で主張が分かれています。」

裁判員どこまで見るべき? “刺激証拠”めぐり議論

夫が、妻を殺害したとして起訴された裁判でおととし(2017年)、裁判員を務めた新井博文さんです。
裁判では、スーツケースに入れられた遺体の写真を証拠として見せられたということですが…。

裁判員を経験 新井博文さん
「非常にぼかした写真。
その上に線を書き足した、そういうものですね。
輪郭がうっすらと見えるので、想像すれば認識できる。」

こんな場面もあったと言います。

裁判員を経験 新井博文さん
「写真を、検察側から提示があったと思う。
まずは裁判長が受け取って、『一回、私の方で見て判断をします』と。
裁判長が『これは(見るのは)やめたほうがいい』という場面はあった。」

裁判員にどんな証拠を見せるのかは、検察官や弁護士から意見を聞いた上で、裁判官が決めます。

この際、遺体や血のついた凶器、事件の瞬間の映像などいわゆる“刺激証拠”は直接見せない、などの配慮が定着しています。
例えば、血のついた包丁は白黒写真に加工。
遺体の状況は、傷などの位置がわかるような単純なイラストで表現します。
裁判員に精神的な負担をなるべく与えないようにすることが目的です。

ところが、こうした対応に異論が出るケースも。
去年(2018年)2月、福岡市で起きたひき逃げ事件の裁判員裁判。
この中で、亡くなった76歳の女性の夫がこう訴えたのです。

“事件の非道さ、残虐さに目を背けずに判断してほしいとの気持ちを、強く持っている”

女性は、青信号の横断歩道を渡っていたところ、飲酒運転をしていた男の車にはねられ死亡しました。

寺島光海(NHK福岡)
「あちらから走ってきた車が、女性をはねて逃走しました。
その様子が道路わきのカメラに映されていた、ということです。」

このカメラの映像を、裁判員に見せるかどうかが議論になりました。
カメラの映像には、車がおよそ130キロの速度で赤信号の交差点に進入する様子が記録され、さらにその後、女性がはねられる瞬間や車がそのまま走り去る様子が映っていたということです。

この映像について裁判所は、“刺激が強すぎる”と指摘。
このため検察は、車が衝突したあとの部分をカットした映像を裁判員に見せることを求めましたが、裁判所は認めませんでした。

判決を前に、女性の夫はみずから法廷に出て、裁判員には映像を見てほしかったと訴えました。
判決は懲役11年でした。
女性の夫は…。

亡くなった女性の夫
「無念な思いをして亡くなった。
防犯カメラ(の映像)を見た場合に、本当に五感に感ずるものがあると思う。
そのことを正しく感じてもらって、判断してもらいたいと。」

事件の瞬間を記録した映像を裁判員が見ることで、真相解明に近づいたと言えるケースもあります。
千葉市で起きた殺人未遂事件です。
被告の男は、職場の部屋で知り合いの女性の首を包丁で刺し、殺害しようとした罪に問われました。
検察側は“犯行は強い殺意があり、執ようだ”と主張しましたが、弁護側は反論。

このケースでも、犯行を捉えた防犯カメラの映像が残されていましたが裁判所は当初、裁判員に見せずに審理を進めることを検討しました。
しかし、法廷で被告が犯行の状況をうまく説明できなかったため、裁判員が映像を見ることになりました。
映像に写る被告は犯行のあと、逃げる女性を追いかけますが、部屋から出たところで追いかけるのをやめていたということです。

判決では…。

“防犯カメラの映像から、検察官が指摘するほどの強い殺意や執ようさがあったと評価できない”

こうした事情も考慮され、判決は懲役8年の求刑に対し、4年6か月でした。

“刺激証拠”をどう扱うべきか。
裁判員制度が始まって10年、裁判所側と検察側の意見は鋭く対立しています。
今年(2019年)始まった、裁判員制度の見直しが必要かを議論する検討会では…。

東京高等検察庁 総務部長
「オリジナルの証拠は本来、最良の証拠のはずです。
にもかかわらず、全く裁判の判断材料とされなくなってしまうという事態が生じているのです。」

東京地方裁判所 裁判長
「ご遺体の写真を本当に法廷で調べる必要性があるのかどうか、十分議論した上で採用するかどうかを決めています。
一番精神的に弱い方を想定した上で、イラスト化とか、色を変えてもらうとか、そういったことを考えております。」

裁判所はなぜ“刺激証拠”を裁判員に見せることに慎重なのか。
きっかけの1つは6年前、福島県で審理された強盗殺人事件の裁判です。
裁判員を務めた女性が、裁判で遺体の写真などを見せられ急性ストレス障害と診断され、国に損害賠償を求める訴訟を起こしたのです。
この問題のあと、裁判所が“刺激証拠”の採用を避ける傾向が強まったとされています。

“刺激証拠”をめぐる議論、どうしていけばいいのか。
専門家は精神的負担への十分な配慮は必要だとした上で、ケースによっては、審理の中で裁判員に意見を聞くなど柔軟な運用も必要ではないかと指摘しています。

裁判員制度への提言行う市民グループ代表 大城聡弁護士
「(裁判員が)『こういう証拠も見たい』とか、『この証拠は必要性がある』となった時には、柔軟に証拠の採用をして、裁判員が判断をするために、必要なものが法廷にきちっと出てくるようにすべき。裁判員にとっては充実した審理、責任を持って判断するために必要なこと。」

裁判員裁判10年

桑子
「今日で10年となる裁判員裁判ですが、今見てきた『刺激証拠』のほかにもさまざまな課題が浮き彫りになっています。
例えば二つ目の『審理期間』。
10年前は3.7日間だったのですが、去年は10.8日間に伸びています。
そして三つ目、『辞退者』です。
候補者のうち、3人に2人は裁判員を辞退しています。
このように参加者の中には、負担を感じているという方もいるということなのです。」

有馬
「裁判員裁判は、市民感覚を司法にいかそうというのが導入の経緯ですので、この節目にいろんな課題をしっかり議論し、市民からより広く支持されるものにしていってほしいと思います。」

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