新潟 銭湯文化伝えるヒントは?「長屋」生かす東京の取り組み
- 2023年06月01日

大きな湯船に温かいお湯をたたえ、のびのびと入浴できるのが銭湯。「古代のローマ人が現れる」映画の舞台や「赤い手ぬぐいをマフラーにする」有名なヒット曲の歌詞にも登場するなど、身近でなじみ深いはずの銭湯に危機が訪れています。
NHKと新潟県内の銭湯の組合が2022年12月、共同でアンケート調査を行ったところ、回答を寄せた銭湯の半数が「廃業の可能性がある」と厳しい状況を訴えました。
文化の1つとも言える銭湯を将来に残していくために何が必要なのか探りました。
(新潟局記者 草野大貴)
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「利益幅は減少」新潟県 銭湯かつて480軒 現在は15軒

新潟市中央区にある銭湯。昭和6年の創業で90年以上人々の心と体を癒やしてきました。熱めのお湯に大きなタイル画。男湯と女湯の前にある待ち合い所では常連の皆さんが話に花を咲かせています。
銭湯の魅力が詰まったこのお店。常連を中心に1日150人ほどが訪れていますが、燃料価格上昇の影響でお湯を沸かすためのガス代など昨年度の経費は前の年度より140万円ほど増えました。
経営は比較的安定しているものの、3代目の熊谷孝さんは「将来への不安は拭えない」と話します。

「千鳥湯」経営 熊谷孝さん
利益幅は減ってるけども、まあでもギリギリなんとかできる状況ではあります。ただ、また寒くなってくるとガスの使用量も増え、単価も高くなってくる。懸念は拭えません。
新潟県内の組合に加盟する銭湯のうち2023年1月~2023年6月1日までに2つの銭湯が休業し、営業する銭湯は15店に減少。組合の理事長を務める熊谷さんは危機感を募らせています。
理事長に就任した時に「これ以上銭湯を減らしたくない」という気持ちで就任したこともあって本当に厳しい状況です。ピーク時には新潟県内に480軒の銭湯がありましたが、歯止めがきかない状況です。今も「休業予備軍」がいっぱいある。銭湯が減ってしまうとファンも同時に減ってしまう。本当にさみしい気持ちです。
「銭湯の文化を残したい」。若い世代をはじめ、銭湯になじみの無い人たちに興味を持ってもらおうとしていますが、今は手探りの状態だといいます。
銭湯を知らない世代、来たことが本当に無いような世代、そこを掘り起こしていかないとダメかなと思います。経営も若い目線で見れば、まだまだ伸びる要素はあると思います。やり方しだいだと思いますが、課題の見極めがはっきりしていないのが現状です。
銭湯横の長屋は幕末製? 休憩所 カフェに「ビフォーアフター 」

新しい客をどのように増やすのか。全国各地の銭湯も新潟と同様に厳しい状況にある中、解決の糸口になりそうな取り組みを始めた銭湯が東京・北区にあります。

銭湯のシンボルとも言える「富士山のペンキ絵」に。

往年のホームドラマを思い出すような「番台」などレトロな雰囲気が人気を集めるこちらの銭湯。国の有形登録文化財にも指定されています。


銭湯の愛好家たちがつくる支援団体とともに銭湯の横にあった古い長屋の内装などを一新。湯上がりの休憩所やカフェなどとして活用しています。長屋はもともと銭湯で働く従業員の住み込み先として使われていたそうです。幕末の慶応年間に建てられたとも。
近年は銭湯の倉庫などとして用いられていましたが、建具や土壁などの職人とともに修復・改装を進め、2022年6月に古い姿を残しつつも、美しくよみがえりました。
長屋を「銭湯機能の拡張の場」に
長屋の運営は支援団体が担っています。団体の代表理事を務める栗生はるかさんは銭湯の魅力をより多くの人たちに知ってもらうための、いわば「銭湯の機能を拡張」したものと語ります。

「せんとうとまち」 栗生はるか代表理事
銭湯は若い世代や近隣に最近引っ越してきた方にとってはコアなコミュニティすぎて入りづらい部分があります。でも、長屋のように簡単に入れる場所があるとアクセスしやすくなります。地域の銭湯にいつも通われてる方々も来るので、ここを介してつながる『銭湯の機能を拡張した』場所として活用しています。
風呂帰りの人 湯船につからない人も長屋に集う

5月下旬の土曜日。この日行われていたのは昭和の歌謡曲を聞きながら食事を楽しむイベント。銭湯の常連客が主催しました。次々と人が訪れ、広さ50平方メートルほどの長屋はすぐにいっぱいに。銭湯の利用客だけでなく、湯船につからない人たちの姿もみられました。年代も国籍も違う人たちが一緒に癒やしのひとときを過ごしました。

新たな客層の呼び込みは急務 「忘れられてしまう」
銭湯を経営する土本俊司さん。栗生さんたちと長屋を改装したのは、さまざまな形で新しい客層を呼び込むことは急務だと感じているからだと話します。

「滝野川稲荷湯」経営 土本俊司さん
今まで銭湯においでいただけなかった若い人や女性の方々がいらっしゃることができるように今、長屋を再生しているんです。そういった環境作りをして、若い方に知ってもらわないとあっという間に忘れ去られますから。改善できるものが身近にあれば、それはすぐ改善しなきゃいけないし、一朝一夕にできない部分もあるけれども、対応をしていかないともう忘れられるってことですよね。
現代社会に必要な銭湯 多くの人を巻き込むのが復活の「カギ」
支援団体の栗生さんは銭湯が現代の社会にも必要な存在だと話します。

地域に住んでいて、多様な人たちがふれ合える場所ってどんどんなくなっているので、そういった意味でも身近な人たちとつながる場所として、銭湯は社会的に残しておくべき存在だと思います。生のコミュニケーションが少なくなっていく中で、リアルに人とふれ合うという場所がこれからの時代、より必要となってくると思います。
そして業界を盛り上げるには多くの人たちを巻き込んでいくことが「カギ」になると力を込めます。
銭湯経営者以外の人たちの力を借りるのがすごく大切だなと。銭湯を手伝いたいとか、サポートしたいって思っている方々も結構いたり、個人だけではなく企業もあったりします。そういった人たちの力をどんどんこう借りていくっていうのが重要です。長屋もそうなんですけど、外からいろんな人たちが出入りすることで、ただそこにいるだけでも活性化されます。それだけで元気が出てくる雰囲気もあるので、そういうのも重要だと思いますね。