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新潟 柏崎刈羽原発 信頼は取り戻せるか 問われる東京電力

  • 2023年03月17日

福島第一原発事故の発生から12年。今も不祥事が相次ぐ状況に、新潟県の花角知事は「今のままでは信頼を失っていると申し上げざるをえない」と苦言を呈し、県内からは東京電力の適格性を疑問視する声も出ています。
そうした中、政府はエネルギーの安定供給と脱炭素社会の実現を両立させるため2023年夏以降、柏崎刈羽原発6号機・7号機の再稼働を目指す方針を決定。東京電力は地元の人々が納得できる形で信頼を取り戻すことができるのか、その取り組みが問われています。
(新潟放送局 記者 阿部智己)

発電所の改革はあいさつから

発電所の正門であいさつする稲垣武之所長

「おはようございます」。柏崎刈羽原子力発電所の正門で早朝から響くあいさつの声。その中心にいるのは稲垣武之所長です。入構する所員や発電所で働く人の車に向かって1時間ほど声をかけ続けます。
発電所のトップの所長としては異例とも言える行動も、去年4月からほぼ毎朝行い、今や見慣れた光景になっているといいます。
不祥事が続き、風通しが悪いなどと指摘された発電所の雰囲気を変えたいと始めました。

稲垣所長
始めたときは目線を合わせない人がすごく多かったですけど、今はにこやかにあいさつしてくれる人が増えたと思います。あいさつはやはりコミュニケーションの第一歩。発電所の中には問題を自分たちで抱え込んでしまう傾向があるので、みんなで相談し合うオープンな雰囲気にしていきたい。

褒める文化を

あいさつのほかにも、機会を見つけて所員などとのコミュニケーションを取るよう心がけているといいます。その手段の1つとなっているのが、所長が手書きして感謝を伝えるカード。発電所内のいい取り組みを気軽に褒めようと始めました。取材した日、大雪の際の除雪作業を頑張った所員を訪ねてカードを手渡し、感謝を伝えていました。

我々の原子力部門には「やって当たり前」みたいな文化があり、これまでは褒めるということがあまりなかった。でも、やったことが評価されるのはモチベーションアップに非常に重要なので、いいことをしていれば「あいさつが元気」というぐらいでもとにかく褒めようと。場合によってはあいさつ運動や対話よりも効果があるんじゃないかというのが私の感触です。

コミュニケーションにこだわる理由 

稲垣所長が原発事故対応にあたっていた緊急対策室

コミュニケーションに力を入れるのには理由があります。職場の風通しをよくするためだけではありません。稲垣所長は福島第一原発事故の際、最前線で対応にあたり続けた1人。当時、3つの原子炉が相次いでメルトダウンし事故収束への道筋が見えない中、死を覚悟したこともあったといいます。

事故の発生から5日目、これはもうどうにもならないなというところで「大半の所員を退避をさせる。部長以上は全員残る」ということですから、これはもうちょっと、生きて出れられるかなというのは思いましたね。

事故を経験して改めて感じたのが発電所で働く人たちの日頃の関係性の重要さ。

緊急時というのは日頃の関係性がもろに出てしまう。いかに信頼し合ってお互いが考えていることを言い合って、どういう方策でいくと事故を収束できるかという議論を非常に厳しい中であっても真剣にできる組織にならないと、事故が起きた時に機能しない。

忘れられない苦い経験

現場で対応にあたっていた数十人が一時安否不明に

稲垣所長には12年前の原発事故対応で忘れられない経験があります。1号機が水素爆発し放射線量が高くなる中、3号機を守るため現場に人を出して対応にあたらせました。そのやさき、3号機が水素爆発したのです。一時、現場にいた数十人の安否が分からなくなりました。

行きたくないと申し出た人もいる中で説得して私の指示で現場に出てもらっていましたので、爆発した瞬間は「非常にまずいな」と頭を抱えてしまっていました。「もしかすると亡くなっちゃうかもしれない」という思いでいましたし、一人一人帰ってくると真っ青な顔をしていたり、額から血を流したりしていましたので、あの瞬間はやっぱり生きた心地がしないといいますか、亡くなられた人はいないと確認できた時はもうイスにへたり込んだような状態でした。

緊急時の対応力向上へ

月1度行われる緊急時を想定した訓練

教訓を踏まえ、特に力を入れているのが事故対応力の向上です。月に1度、非常用発電機をはじめとした安全上重要な設備が壊れるなどあえて過酷な事態を想定して訓練を行っています。

この日の訓練の想定は、大きな地震が相次ぎ、7号機の冷却水が流れる配管が破断。非常用発電機も故障し、原子炉に注水できなくなったというものでした。

7号機責任者

緊急緊急、7号機より本部へ。原子炉冷却材漏えい時における非常用炉心冷却装置による注水不能。

事故が悪化して原子炉を冷やせなくなり、核燃料が溶け出す「炉心損傷」を避けられなくなりました。

稲垣所長

優先号機は、依然7号機継続。戦略は炉心損傷あり、ベントなしに変更する

これを受け、所長が戦略の変更を決定。放射性物質を外部に放出する事態を避けるため、残った電源を通常は行わない方法で非常用ポンプにつなぎ、原子炉への注水を試みるよう指示しました。

「頼りにしていた対策が機能しないこともある」

「事故時には頼りにしていた対策が機能しないこともある」

自身の経験から、どんな状況においても複数の対策を用意できるよう求めています。訓練のあと、所員に対し「1枚では絶対に不足していて、3枚ぐらいの戦術が常にあり、臨機応変に対応できなければ非常に厳しくなる」と話し、さらなる対応力の向上を呼びかけました。

東京電力に原発を運転する"適格性"はあるか

一歩間違えば、地域の人たち、そして発電所の関係者を危険にさらす原子力発電所。
その怖さを身をもって知る稲垣所長に東京電力に原発を運転する適格性があるのか問いました。

信頼を失ってしまうような事例を出しているのは否定できない事実でありますし、私たちの原子力改革が完全でない証しだと思っていますので、今の時点で「信頼してください」「今すぐ再稼働できます」ということは申し上げる段階にはまだないと思っています。とにかく、私としては所長として、また柏崎の市民でもありますし、やはり地元の皆さんが避難をするとか非常にご迷惑をかける事態にならないように最大限の努力をしてまいりたいと思っています。

失った信頼を取り戻せるか 問われる東京電力

柏崎刈羽原発でテロ対策上の重大な不備が明らかになったのは、原発事故で失われた信頼を取り戻す過程でのことでした。東京電力の関係者すら大きなショックを受けた事案であり、地元の人々が感じた失望はいかほどだったか。振り返れば、東京電力は原発事故以前から、信頼回復に取り組んでは不祥事を起こして信頼を失うということを繰り返してきました。そうした経緯が花角知事の苦言にもつながっています。地元にはもう何度目かとあきれるような気持ちで見ている人も多くいるでしょう。

信頼を失う事案が起きるたびに、信頼回復の道は険しくなっていると言わざるを得ません。それでも東京電力が信頼を取り戻そうとするならば、時間をかけて目に見える形で信頼に足る組織であることをひとつひとつ示していくしかありません。地元の人々が納得できる形で信頼を取り戻すことができるのか、東京電力の継続的な取り組みが問われています。

  • 阿部智己

    新潟放送局 記者

    阿部智己

    2008年入局 福井局 札幌局 報道局科学文化部を経て2021年に新潟局に赴任
    原子力取材などを担当

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