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トキエア 新潟 佐渡発の路線就航めざす 長谷川政樹社長の戦略

「ことしにかける」新潟県ゆかりの人たちへのインタビュー
  • 2023年01月13日

新潟県ゆかりの方に2023年の抱負などを聞くシリーズ「ことしにかける」。
第3回は、新潟空港を拠点にことし航空業界に新たに参入する予定になっている「トキエア」の長谷川政樹社長です。新型コロナウイルスなどの影響で航空会社が厳しい経営を迫られるなか、県や金融機関などの融資を受けて出発し、再来年度には収支の黒字化を目指します。
新潟と札幌、仙台などを結ぶ便のほか、佐渡と首都圏の直行便の就航も予定するなど注目を集めるなか、会社設立の狙いや今後の戦略について社長に聞きました。(新潟放送局記者 米田亘)

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トキエアを設立した経緯

トキエア 長谷川政樹社長

トキエア 長谷川社長
皆さんも何となく感じられていると思うんですけれど、地方と地方を結ぶ路線、ある意味競争がないような路線というのは非常に航空運賃が高い。新潟の路線もしかりです。 

もともと新潟で育って、じゃあ小さいころから頻繁に飛行機乗ったのかというとなかなか乗る機会もなく。かなり手の届かない金額帯ということもあって、そういう意味で、小さい頃からいろいろな所に自分の目でいろんなところを見て見聞して、というような経験があまりありませんでした。

トキエアを設立しようと思ったのは10年ほど前に外資系の航空会社の日本法人の設立に携わったことがきっかけです。当初から「もう少し航空運賃が下がれば、子どもたち世代も気楽に(旅行などに)行けるのではないか」と思っていて、ではどうやったら(価格を)下げられるのかなと考えたとき、この会社での経験が生きました。

大手の航空会社にいたときにもかなり勉強したんですけれど、やはり外資系のやり方というのは非常に勉強になるなと。これなら地方の高い金額帯も少し下げられるのではないかと。こういう安く旅行が行ける航空会社が日本中に広がったら、もっとみなさんが旅行を気軽に楽しめるかなと思ったんですよね。まだ当時は格安航空会社(LCC)の仕組みが、日本の国内で十分広がっていない現状がありました。こういう形だったらできるだろうな、こういう会社が広がればいいな、という思いでその(LCCの)会社で頑張ってたんですけれど、その後もなかなかLCCが広がらない。こういうビジネスモデルが日本中で、特に新潟でできたら、新潟にも路線を引きたいなと思いながらここまできました。

「新潟で週末に少し予定が空いたのでちょっと北海道行ってみよう」とか。直前でもそういったきっかけになる。家でのんびりしているだけではなくて、ちょっと外に行ってみようと。そういう背中が押せるような、子ども世代も子どもたちどうしで旅行に行けるような、そういう状態にしたい。それを目指してこういう会社を設立することを決めていま頑張っているところです。 

最初の就航先は北海道

観光需要の高い北海道

トキエアを設立して準備を進めるなかで、新型コロナウイルスの影響は大きな課題でした。観光人気の高い北海道での就航開始は、雪の多い冬か春夏かで大きく変わると考えました。6月まで、できれば春先までに北海道便を就航したいです。

ほかにも、あえてわれわれが札幌市の丘珠空港を選んだ理由というのが、丘珠を拠点としている航空会社さんが、我々と同じ小型のプロペラ式の飛行機を飛ばしていますので。こういったところとの連携ですね。

あとは乗り継ぎの面です。いままでですと、みなさんはおそらく新千歳空港に行ってレンタカーや電車を乗り継いで各地に行く、札幌に出る。そういう動きだったと思うのですが、丘珠空港に行くことで(道内各地を結ぶ便を運航する)丘珠空港からさらに飛行機での乗り継ぎができ面積の広い北海道を短時間で移動できます。

これは新潟の皆さんにとってみたら初めて感じていただける旅行ルートになると思います。空港でそのまま乗り継いでいけますので。北海道内、飛行機を使えば40分、45分で移動できます。今まで、北海道内の移動に6時間も車で乗っていたところが、飛行機で乗り継ぐことで1時間もかからずに目的地に行けますので。こういった利便性で丘珠空港を選びました。 

就航に向けては課題も

正直に言って、あまり日本の中で航空会社を立ち上げる人っていないですよね。いないということはやはり協力を呼びかけるみなさまも「本当にできるの?」って思うのは本音だったと思うんですよね。航空会社を立ち上げるのは2回目の経験ですが、一からの資金調達というのは私も初めての経験だった。やはり私が「こういうことをやりたい」という思いを伝えていくうちに、周囲にだんだんと広がっていった。話をすると「じゃあやってみようか」と言って背中を押してくださる方々がいらっしゃって。 

そうすると私も「ちょっと頑張ろう」と思えました。人も集める必要があるし、資金も集めさせていただくなかで、新潟エリア佐渡エリアで少しずつ協力いただける皆さんが多くなってきて。大変というより、こういう交渉は当たり前にやらないといけないことだと思っております。「航空会社を作るなんて本当にできるの?」と思うのが普通だと思うので。こうしたなか、いろいろとご理解いただいてようやくこういうレベルまで来て。ただまだ道半ばですけれど就航させてそのあとの黒字化が重要なので、そこを目指してコツコツと頑張っていく。本当に皆さんのご支援に本当に感謝しております。 

自分自身が小さい頃なかなか飛行機に乗る機会もなく、テレビばっかり見ていて。それはそれでいいんですけれども、外に行くといろいろな勉強になるし夢も見つけられる。とにかく次世代の人たちにも気楽に飛行機を使ってもらえるような、そういう会社にしたいです。

2024年度には黒字に転換させる収支計画

一定のお客様に乗っていただけると想定しており、ある数値において計算したベースが2024年度には黒字になると。ただ当然ですけど早めの黒字を目指すために満席で乗せるぐらいの努力が必要かなと思っております。航空会社の収益はお客様にいかに乗っていただくか。そこにある意味尽きるところもあります。そういう意味でいまとにかく私たちの飛行機は70人ぐらいの飛行機、バス2台分ぐらいですので。そこの市場をどうやって作っていくか。

そのために例えばファンクラブみたいなものを作って、とにかくトキエアが好きで乗る、乗ることの楽しみですとか、そういった輪を広げていくことが必要なのかなと思っています。そういう意味でいまは集客ですね。それは新潟から外に行く皆さんもそうですけれど、県外から新潟に来ていただく方に向けたPRも必要です。新潟の人はPRが上手じゃないってよく言われてますけれど、われわれは飛行機というロジとしての手段がありますので。飛行機のボディーに(広告などの)PRをするなども含めいろいろな形で対応していきたいと思っております。 

一方で、社内的なマネジメントの工夫も必要ですが、こちらは以前勤務していた外資系の航空会社での経験が大きい。現場主義で、現場のモチベーションをいかに発揮させるか。ここを中心に考えながら両輪でこの事業を進めていきたいと思っています。例えば、パイロットは機長と副操縦士がいますが、副操縦士は当然次の目標として機長を目指しますよね。大手の航空会社だと採用されてから一定の期間は副操縦士としての訓練を続けないといけないですが、われわれは自己推薦の形をとろうと思っています。「もう自分は一定のレベルに達した。だから機長にしてほしい」と。当社は経験者を多く採用しているので、年齢などは関係なく平等にチャンスを与えたいと思います。

黒字化に向けたカギ① コストの削減

トキエアが導入するプロペラ機

黒字化を目指すためにはコストの削減と誘客の両方に取り組む必要があり、着陸料の安いプロペラ機を導入しています。飛行機が空港に着陸するときは、原則飛行機の重さに応じて着陸料を納める必要がありますが、ジェット機より軽いプロペラ機は65%程度着陸料を安く抑えることができます。

さらに、座席を取り外し、空いたスペースで貨物を運ぶ仕組み「カーゴフレックス方式」を日本の航空会社で初めて導入します。この方式は、実は新型コロナウイルスが発生してから考えました。新型コロナの状況で何が起きたのかというと航空業界の中でやはり需要が激減したというのがあります。ただゼロにはなってはいない。ここをなんとか機体を工夫することで利用、対応できないか。そのときに考えたのがカーゴフレックス方式です。当社が使う小型機の定員は72人ですが、需要が落ちたときには定員を44人に減らして空いたスペースを使って貨物を運ぶ。新型コロナのような状況がまた数年後に発生したときにどうしたらいいんだろうかという発想で導入を決めました。

また、当社のスタッフは他社のパイロットや自衛隊のOBなど「即戦力」となる人材を積極的に採用しています。当社はスタートアップ企業で、すぐに稼働しなきゃいけない。自衛隊のパイロットは大体55歳前後で定年を迎える。さすがにそれでリタイアというのも当然もったいないですので、そういったパイロットを有効に活用させていただくということで採用しております。 
 

新型コロナウイルスの影響でお客様の需要が減り、旅客機の稼働が減って、世界ではパイロットが「余る」状況が発生しました。そういうときに外国人が最初に解雇されるケースが多い。こうなると海外の航空会社で勤務していた日本人のパイロットなどは結局仕事がなくなって帰国しました。こうしたパイロットにも働きかけを行い、採用に結びつけました。
 

さらにパイロットについては、国内では「バブル期」に大量採用されたパイロットが大体2030年に退職して不足するとされています。まさにそのタイミングも見据えた上で我々としてもパイロットの確保はとても重要なので早めに動いているところです。 
 

これらのコスト削減策を通じて、値段を抑えるための調整をいま続けています。これは必ず達成したい。私がトキエアを立ち上げたのも安く直前でも利用できるようにするためなので、航空他社の料金などを見ながら価格設定していきたいと思います。

ただ、われわれにとって、とにかく安全が第一です。いまパイロットの訓練は実際の飛行機に乗らずに模擬飛行装置という、いわゆるシミュレーターと呼んでますけどこれで免許が取れるというような仕組みがあります。われわれが使う飛行機のシミュレーターは国内では鹿児島県に唯一あるのですが、この訓練は悪天候やエンジンの故障など、ほとんどイレギュラーが起きた状態での訓練ですので実際の運航より厳しい状況への対応力を安全に高いレベルで行えます。

黒字化に向けたカギ② 利用客の呼び込み

誘客の工夫として、まず県民の方が利用しやすい運航ダイヤを設定したいと考えています。新潟空港を拠点にするということは、朝晩は新潟空港に飛行機がある。新潟と目的地は1日4往復し、新潟に日帰りで夜戻ることができます。
 

一方、台湾の航空会社が(2023年1月17日に)新潟空港に就航し、およそ3年ぶりに国際線が再開されます。海外から見たら「日本のどこに行く?」となったときに、新潟に来たら北海道までトキエアで移動ができ、北海道から直接、台湾に帰ることもできる。これまでは海外客が日本に来た場合は、一定のエリアの中で完結してしまうケースが多かったのですが、距離の離れた、日本のほかの都市にも移動できるようになればツアーの組み方の部分で連携でき、旅行の可能性が広がると思います。

また当社は2024年春以降にも、佐渡と首都圏を直接結ぶ便の就航を目指しています。佐渡のみなさまが手軽に東京に移動できるようになるし、逆に東京のみなさまも「佐渡は行きにくい」という話はよく聞きますので、飛行機で行けば1時間ぐらいでダイレクトで飛んでいくことができます。「1時間で行けるなら行ってみよう」という気持ちは結構あると思うんですよね。どうしても新幹線で駅に行って港まで移動してとなると、なかなか行くの諦めている人っていると思うんですよね。それが1時間ぐらいのフライトで行けるとなるとまた新しい世界が見えるのかなと思います。
 

さらに、われわれの飛行機は人、物、両方運べますので、そういう意味では佐渡産の物が東京でPRされていくとか、それを食べた東京の人が「実際にとれたところに行ってみよう」という気持ちが必ず起きてくると思うんですよね。そういう相乗効果は必ずあると思います。佐渡は世界文化遺産の登録に向けた動きがあります。世界文化遺産というのは世界へのアピールであって、日本人だけでなく世界で注目されることは間違いありません。こういった人たちを東京から佐渡に送り届ける1つの手段としてトキエアを使ってほしいですね。

2023年にかける思い

ことし就航ということで頑張っていますので、とにかく安全に飛行機を飛ばしていくというのが最大の使命になります。ただこのトキエアをどう活用していくのかも非常に重要になってきますので、そういった意味で新潟のみなさまには「自分の航空会社なんだ」という気持ちで利用していただけるような、そんなスタートにしていきたいと考えております。
 

当然、最終的には結局、飛行機が飛ぶということは、お客様を運ぶということ。その先には魅力がないと当然、お客様は集められませんので。新潟地域の魅力をどんどん活性化して、どんどんお客様に来てもらう。とにかく新潟の活性化、まちづくりにわれわれも一緒になって頑張っていく。そうすることでお客様が新潟にも集まってくると思います。トキエアを存分に活用していただく、トキエアが飛ぶことが新潟のPRになる、そんな航空会社にしていきたいと思います。
 

【ことしにかけるキーワード】
わたしのことしにかける思いは「連携」です。
まだ道半ばですけれど、ここまで皆さんのご協力もいただいてここまで来ました。さらにこの連携のネットワーク、相乗効果を大きくして、トキエアの就航、発展に向けて頑張っていこうと思います。
最大の目標は新潟の活性化、地域の活性化、そのために貢献していきたいと思いますので。皆さまのご支援をよろしくお願いいたします。

  • 米田亘

    新潟放送局 記者

    米田亘

    平成28年入局。札幌放送局、釧路放送局を経て、新潟放送局3年目。新型コロナウイルスや災害、一次産業を中心とした経済取材を担当。

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