託された米山隆一 今後の新潟の野党は
- 2022年12月27日

2022年は新潟県知事選挙、参議院選挙、新潟市長選挙が行われ、いずれも与党が支援する候補が勝利を収めた。
一方の野党側。
これまで「新潟モデル」と呼ばれる共産党を含めた野党内の連携によって与党と対峙してきたが今、岐路に立たされている。
(新潟県知事選挙と参議院選挙の特集記事はこちら→
政治マガジン「知事選の終わりは参院選の幕開け新潟選挙区」
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/83567.html
政治マガジン「森ゆうこはなぜ負けた 野党の急先鋒 国会を去る」 https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/86287.html)
そうした中、野党第一党の立憲民主党県連では実務を取りしきる幹事長に米山隆一(55)が就いた。
国会議員の幹事長就任は初めてで手腕に期待する声が出ている。2023年、新潟県内の野党はどこに向かうのか。キーパーソンに話を聞いた。
(新潟放送局 記者 山田剛史、草野大貴)
託されたのは米山隆一
2022年10月、立憲民主党県連の幹事長に就任した米山隆一。
2021年10月の衆議院選挙で初当選した「新人」に白羽の矢が立ったのは彼の経歴が深く関係している。
米山は新潟県内の政界関係者の間で「野党共闘の申し子」と呼ばれている。

自身が立候補した2つの選挙(2016年・新潟県知事選挙/2021年・衆議院選挙)では
野党が結束して米山を支え、勝利をつかんだ。
しかし、2022年7月の参議院・新潟選挙区で立憲民主党は大敗。5月の新潟県知事選挙・10月の新潟市長選挙では独自の候補を擁立できず、結果として与党の3連勝を許した。
参議院選挙について米山は野党の足並みの乱れがあったとした上で「調整不足」を要因の1つに挙げた。
「共産党との連携などでどこまで選挙協力していいのかレッドラインが分からず、そうした中で組織が萎縮していたと思う。ほかの野党からすれば『連携する気があるのか?』といった状態で最後までドタバタしたのではないか。もともとこれまでのように連携できないことは予想できたわけだから柔軟な対応をすべきだった」

発言の背景には共産党との関係がある。参議院選挙にあたり、立憲民主党と国民民主党の最大の支援組織である連合は共産党と連携する候補者を推薦しない方針を掲げ、野党連携のあり方に大きな影響を与えた。
その上で米山は新潟県知事選挙と新潟市長選挙については立憲民主党県連の準備不足を指摘した。
「衆議院の解散・総選挙と違って、選挙日程があらかじめ分かっていたのに準備が足りなかった。立憲民主党県連として独自の候補を擁立できないなら、早めに野党統一候補の擁立に向けて野党内ですり合わせをすることもできたのではないか。立憲民主党県連はギリギリまで『自分たちが候補を擁立する』と言い続け、結局、野党統一候補に移行できないということを何度も繰り返していた感じがする」
“野党連携”調整の難しさ
米山自身は共産党を含む野党連携には肯定的だ。野党が結束しなければ勝負すらおぼつかないという思いがあるからだ。ただ、野党内で意見をまとめる調整の難しさも強く感じていると話す。
「野党は『理念』で分かれる。街頭演説や公約などで1つの文言でもめることが多くある。でもそれを否定してしまったらダメだ。議論自体を否定すると野党の存在意義の否定につながってしまう。議論を尽くし、互いを尊重した上で、最後には『選挙に勝つ』という最大のメリットのためにまとまることは可能だ」
これからの野党連携をどうしていくのか。単刀直入に聞くと米山は「個人の考え」として明快に答えた。
「統一地方選挙に向けて県内の野党で共通政策を結ぶ。そして県議会議員選挙では定員1の『1人区』、定員2の『2人区』で野党系候補を一本化できるようにしたい」
すでに県内の野党各党の幹部には共通政策を作る意向を伝え、調整が進んでいるという。
一方、課題はある。連合を最大の支援組織とする立憲民主党県連内には共産党と距離を置く人物もいる。県連が一枚岩になれるか、幹事長としての手腕が問われる。

米山は共通政策を作るメリットを訴えていくとしている。
「共産党と距離を置く人、置きたい人がいることはもちろん分かっているし、それこそ県連内で議論しながら進めることだ。共通政策はお互いに同意できる実現すべき政策だから、これを結ぶとほかの野党と目指すものが近いことも実感できるのではないか。統一地方選で選挙協力ができると結局、立憲民主党の議席が増える可能性も高まる。野党の議席が増えれば県政を変えることができる」
そして、その先の衆議院選挙も見据える。いわゆる1票の格差を是正するため、法律に基づき、県内の小選挙区は1つ減ってあわせて5つになる。立憲民主党県連は12月3日に常任幹事会を開き、5つの小選挙区すべてで公認候補を擁立する方針を決めた。ただ、これまで一部の小選挙区ではほかの野党の候補が立候補した経緯があり、調整が大きな焦点になる。
米山は統一地方選挙で共通政策を作ることができれば衆議院選挙につなげられるとみている。
「国会議員は統一地方選挙で野党連携をしなければ、その結果はそのまま自分たちに跳ね返ってくることを分かっている。だからこそ、調整を続ける必要がある」
共産党「『野党共闘』以外に方法はない」
米山の姿をほかの野党はどう見ているのか。
「今の国政を変えるには、やはり『野党共闘』以外に方法はない」。そう話すのは共産党新潟県委員会の委員長を務める樋渡士自夫。米山の幹事長就任をきっかけに野党内の協議が進むことに期待を寄せる。
「話し合いは進むと思う。もちろん立憲民主党県連は党本部の意向を無視できないところはあると思うが『新潟のやり方で選挙に勝っていく』と党内でイニシアチブを取ってほしい」

野党連携の現状について樋渡は「60点くらい」と評価。及第点には至っていないものの、「参議院選挙での敗北などを教訓にマイナスの状態をプラスに変えることはできる」と自信をのぞかせる一方、連合の姿勢に神経をとがらせている。連合が参議院選挙にあたって共産党と連携する候補者を推薦しないとした方針を示し、それが新潟選挙区で野党がやぶれた最大の要因とみているからだ。
「7月の参議院・新潟選挙区で立憲民主党の森ゆうこさんも連合新潟も、野党共闘をめぐって現場で板挟みになったと思う。これまで共産党と距離を保ちつつも、連合新潟が野党共闘や共産党を否定することはなかったのだが…」
さらに立憲民主党の姿勢から、野党連携の中止が頭をよぎることもあるという。

立憲民主党の泉健太代表が2022年10月、日本維新の会との関係をめぐり「『改憲』と言う政党だが、そんなに差がないとも言える」などと発言したことが念頭にある。
「あれを言い出すと野党共闘が壊れると思う。各党ともに綱領や政策の細かいところで違うところはいっぱいあるが、野党共闘の土台は立憲主義、憲法9条の護持のはずだ。その『1丁目1番地』がずれるようなことがあれば共闘は成り立たなくなる」
社民党「ことしは野党連携機能せず」
野党連携の一翼を担う社民党新潟県連合の幹事長、渡辺英明は期待感をもって米山の姿を見つめている。野党連携によって米山が勝利を収めた2つの選挙を渡辺自身が支えただけに個人的な信頼関係も深い。
「彼は現実論者だから私たちのいうことを理解してくれると思う。彼はこれまで野党共闘で勝利していることから私たちと協力した方が得だと思うのではないか」

そして、築き上げてきた野党連携が2022年は機能しなかったとしたうえで、参議院選挙の立憲民主党県連の対応に疑問を感じたという。
「これまで『野党連携をしっかりしろ』と言っていた立憲民主党県連の国会議員の態度が後退したように感じた。以前はみんな話し合いのテーブルにつき、意見を交わしてしていたが、参議院選挙では行えなかった」
“独自路線”続く国民民主党
2022年の大型選挙で「独自路線」をとったのが国民民主党だ。前回の新潟県知事選挙と参議院選挙、新潟市長選挙ではいずれも野党系の候補の支援に回ったが今回は一転した。
知事選挙では自民党や公明党県本部と同じく現職を支持。参議院選挙・新潟市長選挙では特定の候補を支援しなかった。特に参議院選挙では共産党を含む野党連携には加わらない姿勢をはっきりと打ち出していた。
国民民主党新潟県連の代表、上杉知之は支持組織である連合との関係を踏まえ、次のように語る。
「原理原則としてあるのは連合を基軸として連合と国民民主党、立憲民主党、社民党を加えた4者での枠組みだ。連合と共産党は下手をすれば敵対するところなので一緒に選挙をすること自体があり得ない。選挙のためだけに一緒になるのは野合以外の何者でもなく有権者に失礼だ」

そのうえで2022年の参議院選挙については、こう振り返る。
「大前提として立憲民主党の公認候補なので自分たちで頑張ってほしい。さらに、国民民主党を支援する電力総連の目指す政策に対し、『原発反対』を明確に掲げる立憲民主党の候補は相容れず、支援を見送った」
今後、野党連携に加わらないのか。上杉は「個人の考え」と前置きした上で共産党を除いた連携には前向きな姿勢を示した。
「連合、国民民主党、立憲民主党、社民党という4者の枠組みで協力するのはあり得る話だと思うし、状況によってはやりたいとも思う。ただ、党本部の方針がどうなるか分からないので地方議員や党員など個人レベルでの応援になるかもしれないが、それは全く問題無いと考えている」
「強い新潟の野党」実現なるか
2022年の1年間、どのように与党と対峙するか思い悩む野党の関係者の声を数多く取材した。特に立憲民主党県連の関係者からは共産党との距離感についてさまざまな声が聞かれたのが印象的だった。
一方、共産党や社民党からは立憲民主党に対するいらだちにも似た思いがにじむことばが聞かれる場面もあった。
今後の野党連携の試金石となる統一地方選挙が行われる春は近い。「強い新潟の野党」を実現できるのか、米山の実行力に注目していきたい。
(文中敬称略)