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新潟県記録的大雨から1か月 課題と検証

  • 2022年09月09日

新潟県村上市や関川村などで大きな被害が出た記録的な大雨から1か月がたちました。大雨による住宅の損壊や浸水の被害は新潟県全体で2349棟に上り、県は村上市で仮設住宅の整備を進めています。土砂やがれきの撤去作業は今も続き、生活再建に向けた取り組みは始まったばかりです。一方で荒川や三面川など大きな川の氾濫は防がれ、死亡した人はいませんでした。氾濫を防いだ背景には、55年前に同じ地域で起きた「羽越水害」の教訓がありました。
(新潟放送局取材班 記者 米田亘 藤井凱大) 

「夢であって欲しい」

NHKカメラマン(2022年8月4日 ヘリからリポート)
新潟県村上市小岩内集落の上空です。大量の木々が流れ込み、家を壊しています。

2022年8月3日から降り続いた短時間の記録的な大雨。村上市の山あいにある小岩内集落では土石流が発生し、住宅が大きく壊れたり、泥水が入り込んだりしました。

集落に住む松本一成さん(59)の自宅は「大規模半壊」の認定を受け、1か月がたつ今も大量の土砂が積もったままとなっています。

松本さんの自宅(2022年8月31日撮影)

松本一成さん
夢であって欲しいなと。いまだにそう思いますね。住み慣れた家なんでね、さみしいですね。

地域ではライフラインが復旧する中、松本さんの家を含む6戸では今も断水が続き、自宅のトイレや風呂が使えない状態となっています。

その原因となっているのが大量のがれきや流木です。
松本さんの自宅の前の道にがれきなどが流れ込み、道路ごと水道管を押し流してしまったのです。

家族4人暮らしの松本さんは、両親を市内の施設に一時的に避難させつつ、仮設住宅の入居を待ちながら妻と片付け作業に追われています。

弁当の受け取りの際は流木などの間を通る

断水などの影響で自炊ができず、日々の食事は1日2回の弁当の配布や非常食でしのいでいます。

松本一成さん
ありがたいですね。買い出しとか行かなくてもいいので。助かっています。

自宅を取り壊すことを決めた松本さん。
今後の生活資金に不安を抱える中、1か月近く休んだ電気工事の仕事に復帰したいと考えていますが、自宅の片づけも十分進まず、生活再建の見通しは立っていません。

松本一成さん
仕事も復帰したいんですけどね。給料ももらえませんし。毎日毎日片付けなんでね、ゆっくり休んだりしたい。ふつうの暮らしがいちばんですね、元に戻したいです。

行政の支援は

大きな被害があった今回の記録的な大雨。
行政はどのような支援を行っているのでしょうか。

村上市内に建設された仮設住宅

被災した自治体で被害を受けた人に仮設住宅のニーズ調査を行った結果、求めがあった村上市では県の仮設住宅36戸が建設され、小岩内集落の33世帯の入居に向けた準備が進められています。

9月4日には住民を対象とした仮設住宅の説明会や見学会が行われました。
13日以降に入居が開始される見通しです。

広さおよそ30平方メートルの平屋建てで、松本さんは両親を含めた4人で入居する予定です。

松本一成さん
これでちょっとはふつうの暮らしはできるのかな。4人だとちょっと狭い。プライベートの空間も必要ですし。

一方、関川村では、自宅に住めなくなった人は村営住宅や空き家に入居しているということです。
村上市や関川村などは住宅の支援ニーズにはひとまず対応できたとしていて、今後さらに仮設住宅などを求める声が高まった場合は再度対応を検討することにしています。

息の長い支援が求められる中、村上市と関川村ではボランティアを受け付けています。

▼村上市災害ボランティアセンター
 電話番号 0254-66-5834
▼関川村災害ボランティアセンター
 電話番号 080-6879-9500    

そのほかの支援内容については、以下のホームページにまとめられています。

今回の大雨 “過去の河川氾濫時と同じ降り方”

今回の記録的な大雨は、量はもちろん、降り方も激しいものでした。新潟大学の研究で、過去に各地で川の氾濫を引き起こしてきた危険な雨の降り方と同じだったことが分かってきました。

荒川上空の雨雲(2022年8月4日)

荒川上空の雨雲の動きのシミュレーション画像です。

8月3日の午後11時ごろから4日の午前3時ごろまでの間、荒川の河口から上流に向かってさかのぼるように「線上降水帯」がかかり続けていたことが分かりました。

分析した新潟大学災害・復興科学研究所の安田浩保・研究教授によりますと、こうした降り方の場合
「上流から流れてくる水」と「河口付近の大雨で増水した水」がぶつかり合って水位が急上昇するおそれがあり、氾濫につながりやすいということです。

河川の氾濫の被害を引き起こしてきた2015年の鬼怒川の水害などの降り方と同じでした。

生かされた「羽越水害」の教訓

しかし今回、荒川の流域では浸水や土砂災害などの被害はあったものの河川の本流では堤防は決壊しませんでした。水の量が多い荒川の堤防が決壊した場合、さらに甚大な被害が広がったと予想されています。今回の大雨でどのように川の氾濫を防いだのか。

キーワードは『羽越水害の教訓』です。
迅速な避難だけでなく、河川の整備にも教訓が生かされていました。

村上市や関川村を流れる荒川は「清流」と知られる一方で、過去に水害を引き起こしてきた「暴れ川」でもあります。今回の大雨でも被害の中心地となりました。

昭和42年「羽越水害」

55年前の「羽越水害」では荒川の堤防は決壊。流域に大きな被害が出ました。

新潟県によりますと、被害は全体で死者・行方不明者は134人、住宅の浸水被害は6万棟を超える甚大な被害をもたらした災害でした。

「羽越水害」のような水害を二度と起こさないため設置されたのが国の機関、羽越河川国道事務所です。どのように対策を進めてきたのか。羽越河川国道事務所の近藤栄一事業対策官に話を聞きました。

近藤さんは対策として、荒川の堤防の整備とあわせて上流にダムを2基(山形県側に横川ダム、新潟県側に大石ダム)建設したことを挙げています。

荒川の河川敷 陸地が続いていた跡が残る

さらに10年前から着手してきたのが、川幅を広げたり余分な土砂を取り除いたりする「河道掘削」と呼ばれる工事です。

羽越河川国道事務所 近藤栄一 事業対策官
細長い島形状のものが見えるが、昔はそこまで陸地が続いていた。その部分を削って荒川の水を流れやすくしました。

荒川の河口で掘削した河川敷は実に約50メートルにも及びます。
また、川の流れを阻害し逆流や水位の上昇の原因になる樹木も伐採しました。

工事前と工事後の写真の比較です。

工事前の写真では川の中に土砂が堆積しているほか、河岸には草木もうっそうと茂っています。しかし工事後の写真では土砂はなくなり木々も根から伐採されているのが分かります。

国の分析では▼川の掘削では36センチ▼ダムによって11センチの水位をそれぞれ下げることができたとされています。もし対策が進んでいなければ、堤防が耐えられる水位の上限とされる「計画高水位」に達し川が決壊した可能性もあったといいます。

羽越河川国道事務所 近藤栄一 事業対策官
今回のような大雨が降っても荒川の堤防が決壊しなかったということで、地域のみなさまの安心安全を提供できた。先輩方のご努力の結果だと思います。

ハード整備の効果は村上市を流れる三面川でも現れていました。川を管理する新潟県は、4年前から樹木の伐採や川の掘削を行ってきました。こうした効果で今回の大雨ではおよそ30センチの水位を下げることができたと分析しています。

また「羽越水害」後に新たに建設された2基目のダムの効果も加わったことで、水位は堤防を上回らず氾濫を防いだということです。

河川工学が専門の新潟大学の安田浩保 研究教授は、こうした「ハード面の整備」が被害を抑えた一因になったとしています。

新潟大学 安田浩保 研究教授
堤防の決壊になってしまった場合、川の周辺は壊滅的な被害になる。水位が高い状態が続くと堤防が決壊するおそれもあり、今回の30センチから50センチの効果というのは非常に大きな効果だった。羽越水害では100人に近いような方の人命がなくなったということで、この50年間、非常に熱心に治水工事を実施してきて、その効果が実証されたのが今回の大雨だったと考えていいいと思います。

一方、避難の重要性も忘れてはならないと指摘しています。

新潟大学 安田浩保 研究教授
どうしても川の中で収まりきれない洪水というのが起きる可能性は否定できないので、最後の砦になるのは住民の避難、しかも、いち早い避難ということが大事になると思います。

安田研究教授は、今後「流域治水」という新たな治水の考え方についても理解を深めてほしいと話しています。これまでの2020年以前の治水の考え方は、主に洪水を川で全面的に受けとめるという考え方でしたが、新たに打ち出された「流域治水」は川の中に収まりきれない洪水について、町全体、流域全体で薄く広く分担して、どうしても守りたい資産や人命の被害をゼロにするという考え方です。

新潟大学 安田浩保 研究教授
これから今回の大雨を超えるような雨が降る可能性は否定できません。あえて水を流域に流して被害を抑えるという考え方は住民の理解がないと進まない。みんなの安全を守るという認識を持って、流域治水を正しく理解していただきたい。

取材を通じて

55年前の羽越水害以来となった、この地域での記録的な大雨。過去の水害の被害を教訓に、長年にわたる地道な整備が命を守ったということは忘れてはなりません。一方で迅速に避難し、いかに早く命を守る行動をとるかも重要だということも改めて実感させられました。

取材した村上市の小岩内集落では土石流が発生したものの、亡くなった人はいませんでした。小岩内集落では、過去の水害の経験をもとに高齢者などに声をかけ、少しでも安全が確保できる避難所や高台の家に避難してもらったということです。

いつ大きな災害が来るか分かりません。「ソフト」と「ハード」、両面からしっかりと対策をとることが被害を抑えることにつながると感じました。

  • 米田亘

    新潟放送局 記者

    米田亘

    平成28年入局。札幌放送局、釧路放送局を経て、新潟放送局3年目。新型コロナや防災、一次産業を中心とした経済取材を担当。藤井記者と元北海道コンビで取材しました。

  • 藤井凱大

    新潟放送局 記者

    藤井凱大

    平成29年入局。函館放送局、札幌放送局を経て、この夏に新潟放送局に赴任。
    現在、県政キャップとして行政の取材などを担当。

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