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スマート農業で新潟農業次世代化 カギはGPS基地局アンテナ

  • 2022年06月09日

最近、よく耳にする「スマート農業」。人手不足や高齢化といった農業の長年の課題を解決するものとして期待される一方で、初期費用が高額になってしまうなど普及には多くの課題が指摘されています。その普及へのカギはアンテナにあるといいます。どういうことなのでしょうか。(新潟放送局 記者 阿部智己)

人工衛星からの電波を受けて位置情報を把握するGPSの技術を活用し、自動走行するトラクターやドローン。「スマート農業」は実際の農業現場でも少しずつ使われるようになっています。

しかし、専用の機械が高額であることなど普及には多くの課題があります。自動走行するトラクターは新品で購入すると700万円から1000万円。一般の農家にとってはなかなか手が出せません。

農家
「スマート農業のための機械は非常に高額なので、米価も下落しているなか、購入はコストに見合わない」

スマート農業に不可欠なGPS基地局アンテナ

スマート農業普及に向けた課題はもう一つ。
精度の高い自動運転のために必要なGPS基地局のアンテナです。

GPS基地局アンテナの役割

自動走行のトラクターなどは人工衛星からの電波を受けて位置情報を計算して把握しますが、電波を受けるトラクターが動いているため、どうしても50センチほどの誤差が生じてしまいます。
そこで位置情報の誤差を小さくするために必要となるのが地上に設置するGPS基地局のアンテナ。トラクターなどと違って動かない基地局が正確な位置情報を把握し、トラクターなどに補正情報を送ることで、誤差は数センチまで小さくすることができます。
しかし、このアンテナを自前で設置するには多額の費用がかかり、ITの知識も必要です。一方で、大手通信会社のアンテナを利用すると年間、数万円から数十万円の費用がかかってしまいます。

動き始めた若手農業関係者

こうした課題を解決するにはどうすればいいか。
農機具店などに勤める若手の農業関係者が動き始めました。

加藤さんと若手農業関係者たち

中心となっているのは、見附市の農機具店の4代目となる加藤卓将さん。ほかの農機具店やIT関連会社など県内4つの会社に呼びかけて共同事業体を立ち上げました。

加藤さんは大学卒業後、東京のIT関連の企業に勤めシステム開発などに携わってきました。30歳を前にUターンし、実家の農機具店を継ぐことを決めました。

地元の若手農家と話す中で相談を受けるようになったのが、スマート農業に取り組むにはどうすればいいかということでした。

「昨今、スマート農業機器がたくさん出ているのを知っているけど、高額でなかなか手が出ない。近くにGPSの基地局もないし、自分ではどうしていいか分からないという相談を若手の農業者さん、生産者さんから受けるようになりました。そうした中で、新潟にあったスマート農業の形って何だろうと考えるようになりました」

共同でアンテナを管理

GPS基地局アンテナ

加藤さんたちは、共同事業体に参加する会社が屋上などにGPS基地局のアンテナを設置し、共同で管理する取り組みを始めました。農家は使う月ごとに契約し、月に数千円で基地局を利用することができます。地元の中小企業が共同でアンテナを整備する取り組みは全国でも珍しいということです。

基地局アンテナのカバー範囲(2022年5月時点)

1つのアンテナは半径20キロの範囲をカバー。これまでに見附市や長岡市など5か所に設置しました。

加藤さん
「全自動田植機、全自動トラクターといった完全無人化に向けた動きもどんどん進んでいて、これからのスマート農業にはGPS基地局のアンテナは不可欠ですが、コストの問題が大きく立ちはだかっていました。そういったところに私たちの活動がマッチするんじゃないかなと思っています。新潟の農業が変わる手助けができるのではないか」

少しずつ広がる スマート農業

自動走行のトラックを導入した農家

長岡市の30代の農家は2022年からGPS基地局のアンテナを利用して自動走行するトラクターを使い始めました。取材した4月下旬、田植え前の田起こし作業を行っていました。

トラクターには自前のトラクターに特殊なハンドルを後から取り付けています。トラクターの頭の上についているGPSアンテナからの情報と基地局のアンテナからの補正情報をハンドルに伝え、自動的に運転する仕組みです。

後付けのハンドルの仕組みを説明する加藤さん

最初から自動運転機能が付いたトラクターを買うより、費用を7分の1ほどに抑えることができました。

安全管理のため人が乗る必要はありますが、何もしなくても誤差はほとんどなくまっすぐに自動で走行していました。

農家
「まだ使いはじめなんですけど、非常に精度よく自動操舵できています。心身ともに楽だし、夜間の作業では自分の目よりもあてになるのでとてもいいと思います」

県内では高齢化で離農する農家が増える中で、若手の農家に田畑が集約されてきています。1人の農家が大きな面積を受け持つようになっているため、こうした技術が欠かせないといいます。

農家
「これから私自身も大規模経営を目指していく中でスマート農業の技術は絶対に必要です。体は1つなので、いかに労力を減らしていけるか、心も体もゆとりをもって作業することにスマート農業は非常に有効。初心者でもトラクターの運転はベテランの農家と変わらずまっすぐに運転できるので、そういう点でも非常に役に立つと思います」

高精度のナビゲーションシステムにも

 

トラクターに取り付けた高精度のナビゲーション

アンテナからの電波は精度の高いナビゲーションシステムにも生かされています。見附市の農家は田植えの前に土を柔らかくして平らにならす「代かき」に役立てていました。

このトラクターに取り付けられたナビゲーションは、トラクターがどこを走行したかだけでなく、走行した場所の凹凸が5センチほどの精度でわかります。

ナビゲーションを導入した農家

「田んぼの平らじゃないところは水がたまって生育が悪くなったりというのがあるので、なるべく均平をとって稲の生育をよくしたい。これまでは土地が低いと感じるところには、勘で土を持っていったりしていたんですけど、田んぼのどこが高くてどこが低いのか見えるようになったので、自分でも確信をもってそこに土を持っていくことができるようになった」

スマート農業普及で新潟の農業が変わる?

加藤さんは、スマート農業が普及すれば新潟の農業も大きく変わり、活性化していくのではないかと期待しています。

加藤さん
「スマート農業が普及すれば経験が浅い人でもプロのような作業ができるようになるので、若い人たちが農業に参入しやすくなる。若い人たちに今の農業ってこんなに進んでいるんだっていうふうに思っていただいて、それだったら自分もちょっとやってみたいなというふうに思ってもらえたらいいなと。そうすれば、必然的に新しいことに挑戦する力、若い力が現場に増えることになるので、そのときにはおそらく新潟の農業の形が様変わりしているんじゃないかなと考えています」

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