長岡 寺泊発の「魚屋」 創業者の目指す魚食文化振興
- 2022年05月18日
国内で消費者の魚離れが進む中、毎年売り上げを伸ばしている鮮魚店があります。長岡市寺泊にある「角上魚類」は年々店舗を拡大し、現在は関東を中心に1都6県に22店舗を展開しています。魚食文化を盛り上げようという、この会社の創業者で現在82歳の経営トップに話を聞きました。
(新潟放送局 記者 米田亘)
82歳 魚屋の目利き
新潟市の市場。
午前5時前にやってきたこちらの男性。
会社を経営する柳下浩三会長、82歳です。創業して48年。今でも週3回、競りに参加しています。
魚食文化を盛り立てる戦略の1つがこの競りにありました。
競りの前。会長が目を付けていたのがこちらのヤリイカ。
「イカの大きさや色をみてこれはいいヤリイカだなと。数と鮮度をみながら…」
競りが始まりました。
しかし会長は参加せず見ているだけです。
「(1箱・約3キロあたり)4000円だったら買ってもいいかなと思ったけど4500円したものですから見逃し(見送り)ました」
大手のスーパーマーケットなどではサケやイカなど売れやすい「定番の魚」は多少高値でも確保する傾向にあるといいます。
しかし社長は“目利き”の魚屋としてマニュアル的な買い方はしません。その日の競りの状況に応じ、安くて新鮮な魚を魚種を問わず買います。
さらに、新潟のバイヤーが東京 豊洲市場にも配置したベテランのバイヤーとも連絡をとります。
競りが始まるギリギリまで戦略を練ります。この日はしけの影響で魚の量が少なく全体的に高値傾向でしたが、比較的、漁獲量が多くて安めだった「ヒラメ」や「南蛮エビ」などを購入。
すぐに関東の店舗に向けて運びました。
柳下会長
「魚の値段は市場に行ってみてはじめて高くなったり安くなったり決まる。何とか少しでも安く売ろうとしている」
魚の消費量 減少
こちらは魚の消費量の推移を描いたグラフ。1人あたりの消費量は減少しています。消費者の「魚離れ」が毎年進んでいて、背景には好みが肉に変化したことやさばく面倒や生ゴミが出ることなどがあるといいます。この会社はこうした流れに逆らうように売り上げを伸ばしています。
日本海の珍しい魚が
その秘けつは何なのか。東京 日野市の店舗を取材しました。
とことん「魚屋」にこだわった売り方に店の前には平日でも開店前からこの行列。消費者に魚を好きになってもらいたいという思いで工夫しています。
定番の魚だけでなく、ウマヅラハギやホウボウなど新潟で上がったばかりの魚まで。その種類は多いときで60種類も。魚をさばくだけでなく、客の注文に応じて煮たり焼いたりして販売します。調理の手間を省いて気軽に食べてもらえるようにしています。
訪れていた20歳の学生
「幅広い種類の魚を置いていたりスーパーと差別化できているので、(このシステムが)普及すれば、若者も魚を食べると思う」
店長
「正直、魚離れといいますけども、おいしい食べ方をしっかり紹介しておいしいものを買いやすいお値段で販売するような形を続けていけば、自然とお客様も満足するのかなと」
とにかく“売り切る”
徹底されているのが「売り切る」姿勢です。
お昼どきの時間になって店長が動きました。メギスと呼ばれるこちらの魚。
開店してから売り上げが芳しくありません。
そこで店長は魚を回収。向かった先は総菜コーナーです。
「唐揚げにすると身がふわふわしておいしいので、お昼でも食べやすい時間帯ですし(店長)」
唐揚げに姿を変えたメギス。総菜コーナーに並べると次々と客が買い求めていきました。
会社の廃棄率はわずか0.05%。スーパーでは8%を超えているなか低く抑えています。
店長
「魚は絶対廃棄したくない。貴重な資源ですし漁師さんにとっていただいている、人の手が加わっているので全部無駄になってしまう」
柳下会長
「食べ物を捨てることはとてももったいないことだ、という時代に育ってきたものですから。廃棄というのは会社に対する背信行為だと思っていますし、ものを捨てるという行為は社会に対する背信行為だとも思っています」
魚屋の心意気
競りと店舗における独自戦略で低迷する魚食文化を盛り立ててきた柳下会長。
年齢を理由に今年度を最後にすべての役職からの引退を決めています。
最後に今後に向けたキーワードを聞くと返ってきた答えは商売人としての基本的な考え方でした。
「キーワードは『買う心 同じ心で 売る心』です」
柳下会長
「自分が買う人になったらどういうことをしてもらったら嬉しいかなということで、40年たってもこれはいまでも変わらないことですし、お客様にどうやったら喜んでもらえるか。ただそれ一心でやってきた結果が今日に至っている。これは角上がある限り変わらないと思いますし、いつの時代も変えてほしくないなと思います」