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「命は戻せない」ウクライナから新潟への留学生 悲痛な訴え

  • 2022年05月20日

「なくなった家は建て直す、なくなった物はまた買える。でも、なくなった命は戻せない」
20224月、新潟に留学してきたヴィクトリア・ミロンチュークさん。2月、ロシア軍による侵攻を受けてから今も戦闘が続いているウクライナの出身です。困難な状況下で大切な家族と離れ、来日して学ぶことを選んだヴィクトリアさんが家族や母国への思いと、惨状への怒り、留学にこめる想いを語りました。

(新潟放送局記者 野尻陽菜)

当初の思い“ウクライナと日本をつなぎたい”

ウクライナの首都、キーウ出身のヴィクトリア・ミロンチュークさん。
キーウにある国立大学の日本学科で日本語や日本文化について学んでいた20歳の時に留学のため来日しました。

帰国後はウクライナで日本関係の仕事をしていましたが、2021年10月、「日本の企業経営について深く学びたい、日本とウクライナをつなぎたい」と思い新潟市にある事業創造大学院大学に入学しました。

入学後は新型コロナウイルスの影響で来日できず、キーウからオンラインで講義を受ける日々が続きましたが、日本の水際対策の緩和を控えた2022年2月、いよいよ来日しようと準備を進めていました。

しかしそんな中、国際社会に大きな衝撃が走る出来事が起こりました。

軍事侵攻で「日常」奪われ

2月24日の早朝、ヴィクトリアさんたち家族は親戚からの「ロシアからミサイルが来た」という連絡で目を覚ましました。ロシアが突如、ウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったのです。

家族と一緒に貴重品だけを持ってキーウを離れたヴィクトリアさん。道は混んでいて、3時間で着くはずの親戚の家まで7時間かかったと振り返りました。避難の道中、ロシアの行動に衝撃を受け、混乱していたといいます。

ヴィクトリア・ミロンチュークさん

ヴィクトリアさん
「これまで平和は当たり前にあるものだったのに、信じられない。ロシアはずっと隣の国できょうだいだと思っていたので、こういうことがあったことがとにかく信じられなかった」

攻撃を知らせるサイレンは毎日鳴り響いた(写真提供 ヴィクトリアさん)

避難先の町ではサイレンが鳴り響き、日々のパンを買うのにも行列ができました。

親戚の家では攻撃されたときにガラスが飛び散るのを防ぐためのテープが窓に貼られました。窓の外には戦車が見え、戦闘で命を落とした知人もいます。

窓に貼られたテープ(写真提供 ヴィクトリアさん)

それまで普通に生活していたヴィクトリアさんたちウクライナ国民の生活は、ロシアの侵攻によって大きく変わってしまいました。

周囲に支えられ 日本へ辿り着く

そんな中、ヴィクトリアさんの在籍する事業創造大学院大学は、ウクライナにいるヴィクトリアさんの状況を案じ連絡を取り続け、日本への渡航を勧めました。

しかし日本までの飛行機代は一時高騰。直行便もありません。

大学は募金を呼びかけ、渡航費用と一時的な生活費用を確保し、日本で安全に学ぶための環境を整えました。

大学の対応に感謝しているというヴィクトリアさん。車で500キロ離れた西部の町まで向かい、何時間も待って何とかポーランド行きのバスに乗り換え、ようやくワルシャワから日本行きの飛行機に乗ることができました。

日本への飛行機(写真提供 ヴィクトリアさん)

戦争の意味分からない  なくなった命は戻せない

ヴィクトリアさんは日本に着いてすぐ、「ウクライナで起きていることを新潟の人にも知ってもらいたい」と取材に応じてくれました。
ウクライナに残った家族や親戚のことがなによりも気がかりだと言葉に詰まりながら話してくれました。

ヴィクトリアさん
「両親はウクライナの中部にいます。今のウクライナに安全な場所はない。きょうやあす、どの町にミサイルが落ちるか分からない。大丈夫かなって不安があります」

今もウクライナに残る両親と(写真提供 ヴィクトリアさん)

大切な母国や家族が大きな脅威にさらされる日々。
ヴィクトリアさんは軍事侵攻への不安や怒りを、言葉を選びながら話してくれました。

ヴィクトリアさん
「戦争の意味は分からない。亡くなっている人が多すぎます。早く終わってほしい。それが今の正直な気持ちです。ウクライナは笑顔の多い国と、日本人の友人に言われたことがある。ウクライナ人は戦争をしたくない。平和や自由を愛する人たち。なくなった家は建て直す、なくなった物はまた買える。でもなくなった命は戻せない。それが残念です」

ウクライナの未来のため 日本で学ぶ

大切な人、大切な母国と離れ、遠く離れた日本に来たヴィクトリアさん。
これまでの「日本とウクライナをつなぎたい」という留学の動機が変化してきていると話します。

ヴィクトリアさん
「今は自分の留学が、ウクライナのために役に立てばという思い。日本の企業、新潟の企業の成功した事例などについて深く学んで、ウクライナの役に立てる研究や事業を考えたいと思っている」

将来、困難にさらされている母国ウクライナの役に立てるよう、今はできることを一生懸命やりたいと話します。
留学の抱負を聞かれると、「楽しい留学、という気分ではない。結果の出る生活を目指したい。結果が出ないと無駄になってしまう」と真剣な表情で話し、背負ってきた想いの大きさを感じました。

 

ヴィクトリアさんには県内からも多くの応援やメッセージが寄せられています。

取材後記

ウクライナへの軍事侵攻のニュースが飛び込んできたとき、21世紀に起きたこととは思えず、次の日の新聞の「侵攻」の見出しを信じられない気持ちで見ていました。
あれから2か月ほどがたちますが、小さな子どもを含む多くの人が人生を狂わされ、命を落とし、憎しみが生まれ続けています。
最初、遠い新潟県で暮らしている自分に出来ることなどあるのだろうかと思っていましたが、今回ヴィクトリアさんに話を聞く中で、記者である以前に人として、自分とは関係ないと切り捨ててはいけない出来事だと反省しました。
ウクライナで起きていることを1人1人が自分ごととして捉える、そのきっかけになる取材を目指していきたいと思います。

  • 野尻陽菜

    放送部 記者

    野尻陽菜

    令和2年入局。警察・司法担当。大学では社会学を専攻。

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