小麦粉高の中、米粉パン定番化へ 新潟県産玄米粉普及挑戦も
- 2022年04月25日
コメ王国の新潟県。米粉用米の生産もトップで、長年米粉の普及に取り組んできたものの、なかなか「一般化」まではしていないのが現状だ。
こうした中、小麦粉の値上がりや地産地消意識の高まりなどで、再び米粉への注目が高まってきている。
大手パンメーカーの「山崎製パン 新潟工場」は10年越しで米粉パンの定番化へ向けた挑戦を始めた。また、米粉業界をリードしてきた「新潟製粉」は県内のベンチャー企業とタッグを組んで「玄米粉」を商品化し、「三井食品」など大手に売り込みを図る。
米粉活用の最前線を取材した。
(新潟放送局 記者 野口恭平)
【パン大手が本気で目指す 定番商品】
新潟市江南区にある山崎製パン新潟工場。朝7時前。
工場関係者の期待を背負った商品の生産が始まっていた。
「越後の恵」と名付けられたこの商品、小麦粉を県産コシヒカリの米粉に9%分置き換えて作った食パンだ。
パンメーカーにとって食パンは「会社の顔」でもある。
そこに米粉を使った商品をラインナップしたのは、この工場の意気込みの表れだ。
パッケージには新潟県の地図を描き、コシヒカリの活用を強調するなど、「新潟推し」の商品になっている。
米粉は吸水性が高いため、水分の調節や焼き加減が難しく、通常のパンより低温で長時間焼いているそうだ。発案から5か月ほどで完成させた。
米粉を使うことで、もちもちとした食感を味わえるのが特徴だと言う。
4月に発売し、現在は新潟県内や山形県内の一部のスーパーやコンビニで販売されている。
【過去の教訓と地域貢献への思い】
実は、この工場では12年前にも一度、米粉を活用した商品を販売したことがあった。
米粉の消費を増やすため、小麦粉消費量の10%以上を米粉に置き換えようという県のキャンペーン「R10プロジェクト」に認定された第1号でもあった。
しかし、「パサつきが目立つ」など、食味が受け入れられず、販売は中止に。
長らく取り扱いがなかった。
一方、約10年、この工場で働く開発責任者の湯浅惇哉さん。
新型コロナウイルスの影響で、コメの需要が落ち込み、農家や県内経済にも影響が広がる中、今回こそ、パンメーカーとして消費拡大に協力できないか考えたという。
湯浅惇哉さん
「新潟県は米どころなので、何かお手伝いできることはないかなとずっと考えていた。しっかり新潟県産のコシヒカリの特徴をいかした製品になっているのでより多くの方に手にとってもらえるように売り込んでいきたい」
【1年を通じて新商品投入】
4月中旬に行われた、ことし秋以降に発売する商品の開発会議。
こうした会議、私たちが取材に行くと、当たり障りないところだけ撮影可能…ということも多いのだが、今回はフルオープンでかなり真剣な議論の様子を取材させてもらった。
米粉関連の商品をさらに増やしていこうと、議題にあがった22の試作品のうち、菓子パンやフランスパンなど20が米粉関連商品だった。
食パンや菓子パン、ドーナツやどら焼き…さまざまな商品について生産担当者がプレゼンする。
さっきまで笑顔で私たちに対応してくれていた工場長が、「何これ、ちょっと難しいな」とバッサリ切り捨てる。ほ、本気だ…。(※決して威圧的な口調ではありませんでした。)
工場ではキャンペーンではなく米粉を使った商品を「定番」として日常的に手に取ってもらいたいと考えている。
「客の節約志向にあわせるために開発したが、もっちり感がなくなっている」
「この値段で販売するのは難しいのではないか」
「食材はいいけど、パン生地の色合いを変えた方がいいのではないか」
「サイズはこれでいいのか」
「時間が経過したら堅くなってしまうのではないか」
「スーパーの担当者にも狙いが伝わるように」
この日、正式な商品化の決定はなかったが、合格点をもらった商品は引き続き開発を進めることになった。
会社では味と価格を両立させた上で、1年を通じて商品を投入するなど粘り強いアプローチをすることで、米粉の消費を拡大できると考えている。
山本裕工場長
「新潟県産コシヒカリの粉を使って製品を作っていくのは、ある意味、新潟工場の使命と考えて製品開発をしてもらいたい」
責任者の湯浅さん。
米粉の食パンはすでに関東のスーパーでも試験販売の動きがあるとのこと。
今後、商品数を増やした上で、首都圏や全国での販売も進めていきたいと意気込む。
湯浅惇哉さん
「目標は米粉パンの育成。どんどん新しい製品を投入していかないと市場で残っていけないので、まずは新潟でしっかり売った上で、関東の方にも波及していきたい」
【米粉のパイオニアとベンチャー企業がタッグ】
一方、健康志向を前面に出して販路を広げようという動きも出ている。
胎内市にある米粉メーカー、新潟製粉。
パンなどに使われる「微細米粉」専用の工場を国内最初に作った業界のパイオニアだ。
この会社が、ベンチャー企業と企画し、販売を進めようとしているのが、玄米を使った米粉。
玄米粉は米ぬかも一緒に粉にする。
米ぬかは堅い分、細かくするのに時間や手間がかかる。
また油分も含んでいるため処理が適切でないと腐ってしまうリスクもある。
このため通常より長い時間粉砕したり、乾燥させたりしているそうだ。
一方、玄米粉には食物繊維やビタミンBなどの栄養素が多く含まれているという。
企画をもちかけたベンチャー企業社長の小野正さん。
時代劇の脚本家やコンテンツ関連企業の役員など異色の経歴を経て、今は新潟で食に関わる事業を行っている。
小野正さん
「新潟県はコメの生産1位なのに消費は低くなっている。若い人も含めて新潟のお米をもっと食べてもらいたいと考えた。玄米そのものを食べるという人もまだ多くないので、新しい食べ方で提案して健康志向の高い方やそうでない人にも関心をもってもらいたい」
【ウクライナ情勢で…】
さまざまな会社に玄米粉の売り込みを進める中、小野さんが向かったのが、東京の大手食品卸会社「三井食品」。
この日は、小売大手などを担当してきた鈴木一史さん、外食業界を担当してきた松原由裕さんらと商談。どちらもこの道30年以上、食のプロだ。
実は、この食品卸会社、食物繊維が多く含まれオートミールなどの原材料となる「オーツ麦」をロシアから輸入することを検討していた。
しかし、ウクライナへの軍事侵攻を受けて、調達が難しくなっていたところだったという。
こうした中、小野さんからの提案を受けて、玄米粉の活用を考えた。
松原由裕さん
「(ロシアが)こういう状況になってですね、(オーツ麦の)ロシアからの供給が厳しいとなって。ミネラルを含む鉄分豊富だというところが、今後健康志向にいいのかなと思いました」
小野さんが最初に提案したのは自分たちが開発した玄米粉のラーメン。
卵など動物性の食材を使っておらず、持続可能な商品としてもアピールしている。
果たして、感想やいかに。
「この食感で500円でとりあえず買って食べてみて、果たしてもう一回買うかっていうことを考えるとちょっと厳しい気がする」
うーん、なかなか厳しいコメント。。
逆に、米粉の特徴をいかした焼き菓子での活用はどうか提案を受けた。
焼き菓子を作ったパティシエ
「玄米粉の特性である米粉のカリっと感、モチっとした形が一番現れるんじゃないかな」
小野さんもその場にいた食品卸会社の幹部も「うまい」と納得の表情。
協議の結果、この夏、食品卸会社が開く商品展示会に向けて開発していくことになった。
松原由裕さん
「鉄分が豊富であるところに、妊婦さんとか貧血の方とか、食物繊維が豊富なのでお通じにもいいよというところで、女性をターゲットにして展開したいなと思う」
商談を終えた小野さん、少しほっとしたご様子。
小野正さん
「これまでも米粉のブームみたいなことはあったんですが、長続きしてこなかったんです。なのでこういう大きい会社さんが関心もっていただけたことは非常に自信になりました。日本が唯一輸入に頼らなくていい食材がお米だと思うので、しっかりお米の消費拡大にいそしんでいきたい」
【知られざる?ヒーロー】
小野さんや業界関係者が指摘するように、なかなか米粉の需要は大きく伸びてこなかった。
新潟県は前述した「R10プロジェクト」など取り組んでいるが、行政の後押しも欠かせないだろう。
今回取材する中で、出会ったのがこちら。
「コメパンマン」
なんとアンパンマンの作者、故・やなせたかし氏に県が依頼して平成20年に誕生したキャラクターだ。米粉や米粉製粉の普及を図ることを目的にしたという。
目は米粒をイメージしている、何とも愛くるしい、くせになりそうなキャラクターだ。
しかし、・・・・皆さんご存じだっただろうか?
すみません、私は正直、知らなかった。
もったいなさ過ぎるぞ!新潟県!!
県の担当者に聞いてみた。
「私たちも問題意識としては感じていて、よりコメパンマンを有効活用したいと思っていた」
誕生当時はネット向けの活用などあまり考えていなかったようだが、今ならSNSなど、いくらでも発信に使えるのに…。
新潟県の方は「アピール下手」と自ら言うことが多いと思うが、活用しきれていない財産はたくさんある。米粉もそう。まだまだ可能性が十分ある。
官民挙げて全力で米粉を盛り上げていく様子を今後も取材してみたい。